第5話

「リーネは、水の魔法をつかうんだね」

「う、うん。勇者の中では最弱なんだって。だから中々レベルも上がらなくて……」

少し落ち込む彼女に僕は何を返せるのだろう。


そんなことを考えても今はレベルを上げていつか彼女にお返しができるように頑張るしかないと思っていた。

そして僕はレベルが上がったのを確かめるように彼女が作ったゴブリンの横にある水たまりに『攫う』を使ってみる。


いつものようにザザザと音がして、いつもより少しだけ大きなザザザになってる感覚に嬉しさが込み上げた。


「リーネ。君の魔法は僕との相性、ぴったりかも……」

「えっ?」

「レベルがひとつ上がっただけで……『攫う』の力が少しだけ強くなった気がする。それにこの水魔法で出した水は、僕にも雨水と同じように反応があるんだよね」

「本当!じゃあ、私たち……その、相性が……ぴ、ぴぴぴ……」

リーネが真っ赤な顔でぴぴぴと言い出したので慌てて肩を揺らす。


「大丈夫リーネ!」

「あ、うん。大丈夫……アレスくんが変なこと言うから……」

僕は他の冒険者が酒場で話していた『お持ち帰り』というものを体験したくなってきた。なんだよもう!僕の心にさざ波を立てないでほしい!好き!


「じゃあ、このままレベル上げ頑張っちゃおうか!」

「そうだね。でも無理しないでね?」

僕の心配をよそに「大丈夫!」と場所を移動する。もちろん討伐の証拠になるゴブリンに両耳は切り落としてリーネの持っている魔法の袋にしまい込んだ。これでも銅貨1枚になると言う。冒険者ってすごいね。


それから、何度かゴブリンを先程と同じようにわたわたとしながら倒し、一匹だけ遭遇したウルフをなんとか振り回した剣により倒し切ることのできた二人。まあ僕はウルフから逃げ回りながら何度かリーネの水をあびていただけだったけど。


「ごめんねアレスくん」

「いいよいいよ。むしろ少し綺麗になったぐらいだから。リーネの水魔法は気持ちいいね」

「アレスくん……私の水魔法って一応攻撃魔法なんだよ?気持ちいとか……ひどい」

「そ、そうだよね……ごめんね。そしてありがとう」

慌てて取り繕いながらもお礼を言う僕。


僕はなんだかんだでその日だけでレベルは5にアップした。


試しにリーネの作った水たまりに手を向け『攫う』を発動すると、目に見えて分かるぐらい無数の水の突起がバシャバシャと動くぐらいになっていた。当然ながらその水の棘で魔物を!ってほどのことはなく、手に当てると心地よい程度であった。


それでも今日の戦利品はゴブリンの両耳は13組。ウルフは丸々1匹。

僕たちは意気揚々とギルドまで帰り着いた。


「よう!伝説のコンビさん!今日の成果はどうだったんだい!」

入った早々い僕らを見つけた受付のお姉さんは、あざ笑うかのように大きな声で僕たちに声を掛けてきた。


「行こう。アレスくん」

「う、うん」

僕はリーネに手を引かれ、受付の横を通り奥の素材解体所へ歩いて行った、ここに入るのは初めてではないが滅多に来ない場所。たまに荷物運びで入った程度。当然ながら今日の素材を提出するためだ。


「すみません!これを……」

中に入って解体作業中のおじさんに声をかけ素材を袋から出す。


「おう!お嬢ちゃん。っと、なんだドブ攫い。お前はどうしてこんなとこに来たんだ?」

「い、いいだろ別に……」

「アレスくんは私とパーティを組んだんだよ!いいから早くこの素材を買い取ってよ!」

「ちっ!」

文句を言いながらもゴブリンの耳とちらりと見る。そしてウルフを少し持ち上げ……何やらメモに書き出した。


「ほらよ、ウルフの状態はそれなりだ」

そしてそのメモをリーネに渡すと、また元の解体作業に戻っていった。


そして僕たちはカウンターへと戻るとさっき受け取ったメモを無言で置いた。


「ふん!いっちょ前に魔物なんて狩ってきたんだね。生意気……」

そしてお姉さんはまた悪態をつきならがメモを見て「ほらよ」と銀貨4枚と銅貨3枚をおいた。どうやらウルフは丸ごと一匹だと銀貨3枚ほどになるようだ。


リーネはそれをさっと無言で受け取ると、僕に「行こう」と声を掛けてギルドを出ると、朝座っていたベンチへ腰かけた。


「はい。これ……」

「あ、ありがとう」

分け前ということだろう。渡されたものを見て僕は驚いた……銀貨が2枚と銅貨2枚……


「いや、多いよ!もらえないよ!」

「えっなんで?半分こだよ?」

「いやいやいやいや……僕、逃げ回ってただけだよ?それにレベルまで上げてもらったんだし……どう考えても僕ばっかり得しちゃってるよ」

そんな僕を見てリーネは口元を抑えながら「ふふふ」と可愛い声で笑う。


「アレスくんは真面目だね。黙って貰っとけばいいのに!」

「そんなわけにはいかないよ……」

どう考えても貰いすぎだから心がうっ!ってなる。そして男としてどうなんだろう?と考えてしまう。


「私も助かったんだよ?落とし物だって私ひとりじゃ気づかなかったし……それにレベル上げだっていずれは強くなって私を助けてくれるんじゃないの?それとも強くなったら私なんてポイしちゃう?」

「ポイなんてそんなことしないよ!」

焦る僕にまた笑うリーネ。揶揄われてるのかな?


「じゃあ素直に貰ってください。あっ、ついでに……あのね、できればでいいんだけど……」

「な、何かな?」

僕も素直にぺこりとお礼をしたあと。何かお願いを言いたそうなリーネの、次に言い放つ言葉を待った。


「嫌だったら断ってね?あのね、アレスって呼んでいい?」

「うっ」

僕はそのリーネの言葉に呼吸が止まりそうになった。こんなことがあっていいのかな?


「もももも……んぐっ!ハア、フウ……もちろん、いいよ」

「ふふ。じゃあよろしくね!……アレス」

「ふ、ひゃい!」

「ぷっぷふふふ!なにそれー!」

どうしよう。幸せだけど死にたい……


その日は結局、浮かれてフワフワする頭の中、初めてお肉を油で揚げたのとご飯とサラダ、スープのセットという超贅沢品を買い、いつものお店で朝食用の少し高めのパンを購入して小屋へと戻った。


幸せいっぱいで頬張るお肉はこのまま死んでも良いと感じるほどおいしかったが、それよりも何よりもこれからしばらくはリーネと一緒に狩りを続け、Dランクの魔物討伐を目標に頑張る日々が続くことの方が嬉しかった。


お腹が満杯となったその夜は、なんだか眠れない気持ちを抑え無理やり目を閉じ何とか眠りについた僕だった。


翌朝、あまり覚えてはいないがリーネと幸せな時間を過ごした夢を見た気がして、自然とまた頬が緩む。

しかし照り付ける朝日に肌がじりじりと焼かれ現実へと引き戻される。浮かれてばかりもいられない!と僕は日課の木の枝を振り回して、その邪念を取り払う作業に没頭した。

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