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 学校に登校すると日部が一人、机に座っていた。

 黒板の上の時計は8時を指している。

 呼び出されたおれは日部がいることを分かっていたが、机に座っているのには驚いた。

 腰掛けているわけではなく、しっかり座っていて、長い足が地面についていないから、その机の主に同情した。

「誰もいないからって机に座ったらまずいだろ」

 ニコニコといつもの笑顔で手を振る日部に注意をした。

 日部は口で謝ってから机を降りる。

 片手をポケットに入れて立つその姿は、窓から刺す柔らかな朝日に照らされて、同じ男ながら絵になると思う。

「それに、こんな時間に呼び出すのも、どうかと思うし」

「来てくれたじゃん」

「日部がどうしてもっていうから…、あんまこういうこと、友達に頼まない方がいいよ、多分」

 日部くらいしか友好関係がないおれが言うのもなんだが、非常識は非常識だろう。

 おれは眠気を殺すようにあくびをした。

「いいじゃんか、俺たち付き合ってるんだし」

「……」

 おれは返事に困った。

 昨日、メールできた内容は”デートをしたい”ということだった。

 どうやら、昨日の告白への曖昧な返事を、日部は了承と受け取ってしまったらしい。おれはそのことに気づいたが、なんとも否定ができずこんな朝早くに登校する羽目になってしまった。

 いつもは自宅の前で待つ日部と合流して登校しているのだが、今日はわざわざ”朝9時、教室に集合”と指定された。

「…何をするんだよ」 

 朝の空気を纏った教室はいつもの教室とは違うみたいだ。

 中心に立つ今日の日部はテンションが高いようで 明るい顔で跳ねるように近づいてきた。

「デートだよデート!さ、行こうぜ、ここは待ち合わせに指定しただけなんだ」

「え?どこに」

「学校の外、デートって学校でやるもんじゃないだろ?」

 腕を掴まれる、ぐいぐいと引っ張られ、困惑するおれを無視して廊下の外に連れ出された。

「こんな状況で、授業なんか受けてる場合じゃねえよ」

「…」

 腕を掴む左手には、甲に黒子があった。

 父さんと同じだ。

 おれは日部に同情してる。

 学校から離れると、体調が悪いので休むと学校に連絡した。仮病をしたのは始めてで緊張したが、特に怪しまれることなく、女性の声が(おそらく他のクラスの担任だと思う)「種田先生に伝えるね」と言ってくれた。

 日部に連れられるままに近くの駅まで歩き、駅中のマックで朝食を食べた。日部の中では最初から行く場所は決まっていたようで、朝マックの最中に、おれは行き先を初めて知った。

「映画を見ようぜ!」ということだった。

 電車に乗り街に出て、ショッピングモールに向かった。この辺りの大体の人間使うだろうショッピングホール最上階の映画館につくと、営業を開始したばっかりのシアター内には売店の人と、入口に立つチケットを確認する案内人の二人しか見当たらなかった。

 眠いし気は乗らなかったが、ポップコーン食べようぜ、と子供のように言う日部の後ろに着いて行った。

「映画を見るなら駅前に集合でよかったんじゃないか?」

「学生服で行った方が、学生証を見せなくても学生料金で見れるだろ?」

 日部の答えに「え、それ、どうなの?」と思わず返す。

 うちの制服はよくある学ランだから見た目で学校の特定は難しいだろうけど、チケットを買う時に学生証を見せてって言われる可能性はあると思うんだけど。

 日部はなんとかなると考えてるようで、売店に直行する足取りに迷いはない。

 誰も並んでないレジ前にするりと入り、注文した日部の横で金を出そうとすると、押し除けるように財布を広げられた。

「俺が払うから」

「え、いいよ別に、割り勘で」

「いいから!無理に誘ったお礼!電車代も払わせちゃったし!」

 眠い頭で、日部の大きな声に断るのも面倒だったので、大人しく払ってもらった。行く場所を知らなかったおれの財布の中身は、チケット代が買えるギリギリしか入ってなかったから、申し出はありがたくはあった。

 チケットを買う時には、幸いにも学生証を出せとは言われなかった。店員さんも眠かったか、バイトだから仕事に本腰が入っていないか知らないけど、田舎特有のガバガバさに助けられた。

 ポップコーンを齧りながら、開場まで立ち話をして待った。

 日部は拍子抜けするくらい、いつも通りだ。

 いや、いつも通りってわけでもないか。

 なんていうか、今日の日部は普段より表情が明るいと思う、だからと言うわけでもないけど、断るのも気が引けておれは日部に大人しくついて行っていた。

 案内係のアナウンスが始まり、平日9:30の劇場内にも、当然ながら誰もいない。誰もいないシアターというのは新鮮だった。やらないが、この状況でなら家で映画を見る時と同じように、リアクションをしても怒られない。

 しかも、おれたちは制服を着ている。今の時間はちょうど、学校が始まった頃だろう、いいのかな、と言う気持ちと同じくらいに、おれは内心、眠気を忘れワクワクし始めていた。

 これからスクリーンに映される映像がどうであれ、楽しめるのではないかという期待があった。

 照明が暗くなり、映画が始まる。

 映画の内容は、洋画のラブストーリーだった。

 

 

 

 

 絶句。

「いやー、最終的にキスをして、2人が結ばれてよかったよなー、奥さんが宇宙人だったのは驚いたけど。種族を超えた愛ってやつ?」

 日部の声に、ゆるやかに首を振る。

「あれ、なんか違った?」

「キスはいい、その後だよ、なんだよあのラスト」

 これがわたしの愛の形。

 と言いながら、夫を食べる妻をドアップで映し出したスクリーン。カマキリの雌は交尾の際に雄を食べてしまうことがあるというけど、頭から捕食するように噛み進めていく姿は、おぞましいと言う以外なかった。

「すごい気分悪くなった、ほんとにR指定ないの?絶対に、デートで見るもんじゃない」

 映画はラブストーリーに見せかけたエイリアンパニックものだった。

 宇宙人のCGの粘液がまた気持ち悪くて、日部のお金なのでいいのだが、ポップコーンを食べる気にならず、ほとんど日部が食べていた。

「でもあれ、監督割と有名な人らしいぜ?なんだったっけ」

「おれスピルバーグしか知らないから、言われても分からないよ」

「あはは」

 笑う日部は全然平気そうである。

 おれは、グロシーンで完全に眠気が覚めた。

 ラブストーリーというから完全に油断をしていた。

 エイリアンから命からがらに2人で逃げる話なのは別にいいとして、実は奥さんもエイリアンで食べられてしまうなんて。

 最後のシーンで、残虐な行為の割に少量の血飛沫が壁に飛ぶ描写があったのだが、それも日部の家のあの死体を思い出して、俺にクリティカルでヒットしてしまった。吐かなかった自分を褒めてやりたい。あんなのクレームが来るんじゃないだろうか。

 悪趣味すぎる…。

 おれは一言言ってやりたくなった。

「デートにあれを選ぶのは、センスなさすぎるよ」

「ポスターは面白そうだったんだけどなぁ」

「日部は面白かったの?」

「んー、まああんなもんだろ。普通だな。人間の肉って美味しいのかね、それが気になったくらい」

「ええ、そこ?」

 日部がこれでいいのならいいが、デートというには色気がなさすぎるんじゃないか、と思い、2人でいるこの状況をデートと言ったことに遅れて違和感が襲ってきた。

「おれは、人間を食べたいなんて思わないな」 

 おれは違和感を誤魔化すように話を続けた。

「昔は人喰い族とかもいたんだろ?そう思う奴もいるんじゃないか?」

「どうかな、状況にもよるんだろうけど…」

「どっかで見たけど、人間の肉って食用に向いてないんだって、他の肉に比べてカロリーが低いらしい。あと、病気になりやすくなるらしい」

「そうなの?それなら、なおさら食べないよ」

 自分でつなげた会話だったけど、おれは人間の肉の話をしながら、嫌悪感が強まってきた。

「人肉への生理的嫌悪って、そういうところから来てるのかもしれない」

「そういうところって?」

「だから、デメリットへの…なんていうか、感覚的な判断というか」

「感覚的判断?」

 的を得た表現を探すのに一瞬かかり、おれは答えた。

「本能で避けてるんだろ」

「本能かあ」

 日部はなぞるように言った。

「本能で食べたくならないのかな」

「なんないだろ、食べるとしたら本能じゃなくて…」

 なんの議論をしてるんだこれは。

 冷静になり、おれは日部に向けていた視線を遠くに外した、それが合図のように、日部は「この後はどうしよっか」と切り出してきた。

「…日部が決めてよ、おれはついていく」

 投げっぱなしにも取れるだろう態度にも、日部は嬉しそうに笑った。

 やっぱり、今日の日部はいつもより元気がいい。

 それからおれ達はモール内を歩き回った。いわゆるウィンドウショッピングだ。

 おれたちは意外と好きなものが似通っているから、ゲームセンターで欲しいクッションがあると、一緒に交代で挑戦したりした。二人で合計して1000円くらい費やしたあたりで、才能がないと諦めて本屋に向かった。本屋では集めている漫画の最新刊が平積みになっており、その漫画を二人ともレジに持っていった。

 映画は2時間ほどだったから、時間が経ってモール内ではまばらに人とすれ違うようになった。制服を着ていても注目はされないのは堂々と歩いているのがいいのかもしれない。

 映画といい、ショッピングといい、日部はデートと言うが、やってることはいつもの遊びだった。

 それでも、おれとしてはどうしたって昨日の光景を振り払うことはできなかった。普段通りを装おうとしても、心境的にいつも通りというわけにはいかなかった。キョロキョロと子供みたいに周りに興味を向ける日部は楽しげに見え、自分との感覚の違いを感じる。

 広場の時計を見ると、針は11時を指していた。

「もうこんな時間か、映画見たからあっという間だな」

「ご飯どうする?買ってこようか」

「俺が買ってくる、ここで待ってて」

 断るより前に、日部は風のように行ってしまった。

「……」

 ぽつんと残されると、あまり一人にされたくないな、と思ってしまう。

 特にこんな、外の広場に学生服で一人でいるのは居心地が悪い。誰かが学校に報告して仕舞えばズル休みはバレてしまう。ピンポイントで学校を当てるのは難しいだろうけど、声をかけられたらアウトだ。

 それに、時間を与えられると、変に考えてしまう。

(……学校、大丈夫かな)

 ベンチに座り周囲を警戒しながら、おれは学校のことを考えることにした、ズル休みはバレてないだろうかと考えて、まず先生の顔が浮かんだ、それと、中山くんの顔。

「あ」

 連想ゲームみたいに、思い出した物が口に出た。

「プリント」

 おれはカバンを開けて中を漁った。

 昨日適当に決めた選択科目のプリント。ファイルに挟まれたそれの提出期限は今日だと、中山くんは言っていた。

(まずいかも…)

 おれはスマホを取り出して、ラインを開いて日部を選択する。

 プリントのことをメッセージで送ると、驚いたスタンプが飛んできた。よく日部が使う変なクマのスタンプが、目を飛び出してる。呑気なスタンプだ。昨日プリントを渡した日部だって、今ここにいるってことは提出してないだろう。

 1日くらい提出が遅れたって文句を言われるくらいだろうけど、種田先生は生徒に容赦がないことをおれ達は知ってる。怒鳴り声を浴びたくないおれは、そんなスタンプでは癒されないほどには焦っていた。

 どうしようか、と送ると、10秒ほどしてメッセージが送られてきた。

『おれに妙案がある』

 

 

 

 

 

 日部は軽いファーストフード買ってきてくれて、片手で食べられるそれを頬張りながら学校に戻ることになった。おれは食べ歩きに抵抗はあったが「時間がないんだよ!」となぜか無駄に元気な日部に急かされる形で移動した。

 駅に着く前に食べ終わり、来た道を引き返す。学校に着くと、潜入スパイごっこみたいに日部がコソコソと裏門から入っていき、おれも日部にならってコソコソと入った。

(何をするつもりなんだか…)

 下駄箱で靴を履き替え、階段の影になった踊り場で、日部がしたり顔でやっと説明をしてくれた。

「作戦会議しようぜ、プリントをバレないように提出ボックスに入れる作戦」

「作戦はいいけど…」

 おれは顰めて、周りを意識しながら声を出す。

「普通にバレると思うんだけど、やるにしても夕方とかの方が良かったんじゃないの」

「この時間がいいんだよ。12時10分。ちょうど給食係がご飯を運んで、配膳が終わったくらい。先生もいつも、クラスで一緒にたべるだろ。一年二組の人間が一番いない時間帯だ」

 日部の見つめる先の壁には時計が飾ってある。時刻は12時10分。なるほど、校庭にも校内にも人がいないとは思っていたが、この時間帯はみんな昼ごはんで教室にいるのか。13時の昼休み終了までずっと給食を食べている生徒は少ないだろうけど、大体30分くらいは食べる時間に費やすことが多い。

 階段の踊り場から無人の校舎を見ているとそうは思えないが、今日ちゃんと登校した生徒たちは教室に敷き詰められてて、賑やかな声は聞こえてくる。

「授業中の方が人いないんだろうけどさ、そうすると授業中なのになんで廊下をうろついてるんだって、他の教師が不審に思っちゃうかもしれないだろ?夕方だともう締め切りが過ぎてるかもしれない。今がベストだ」

 日部の言葉にはある程度の説得力があったが、おれは呆れた。

「よくそんなこと考えるなぁ」

「かばんはここの、見えないところに置いてくぞ」

「?うん」

 言うとおり、日部と一緒に鞄を階段の裏の見えないところに隠し、説明を受ける。

 日部の建てた計画はこうだ。

 俺たちの学校は棟が2つに分かれていて、一般生徒のクラスがある大きな棟がA棟、職員室や保健室などが集まった棟がB棟だ。

 1階はA棟、B棟で入り口が分かれているのだが、2階で行き来できるように繋がっている。

 その行き来ができる通路に1人が立つ。

 提出ボックスは職員室の廊下側に各クラス別に置いてあり、職員室のある2階には2年生のクラスがある。俺たちが今日出席していないことを知っている一年二組は1階だ。昼休みに一年二組の生徒と、種田先生が2階にくる可能性があるとすれば、職員室に用事がある場合だけで、来るためには必ず階段を使うことになる。

 A棟の階段からくる人間を見張り、バレたらまずい人が来ればスマホのライン通知で教え、提出する役の1人と1緒にすぐに逃げるというものだ。

 日部が言うには「トライアンドエラー方式」と言うことだが、プリントを提出するだけなので、時間にしたら10秒もかからないだろう。

「今日出席してない俺たちのプリントが提出カゴに入ってあったら、変じゃないかな」とおれが聞くと。

「疑われたら、昨日の帰りにボックスに入れてましたって言えばいいんだよ。そのために、俺らのプリントは一番下に入れ込むんだぞ」と返ってきた。

 抜かりはないらしい。

 日部はカバンから取り出した携帯を操作して、ラインの画面を開いた。

 おれも、映画館では電源を切っていたのでスマホの電源を入れる。ディスプレイには着信履歴が1件、父さんからだった。休みの連絡が父さんにもいったのだろうか。あとで電話をしなければいけないだろう。

 おれは日部の言いぶりが引っかかり、ラインを開いて聞いた。

「待って、俺が入れるの?見張りは日部ってこと?」

「見張りの方が発見される可能性高いんだし、その方がいいだろ?早く行こうぜ、B棟の階段から登れば、二組からは見られない」

「よくやるなぁ…」

 に、と笑う日部は下に置いてあるカバンから、一枚のプリントを取り出した。

「…自分で書いたのか?」

「うん、俺のもよろしく」

 受け取って、B棟から階段を登り2階着いた。

 日部の言う通り、昼休みが始まったばかりのこの時間はいい感じに人がいない。一年二組の生徒がたとえトイレに行く用があっても各階にはそれぞれトイレがあるから、2階にいるのは上履きの色から2年が1人と職員室に入っていく先生1人が確認できるだけだった。

 2人で廊下の角から職員室前を見て、一年二組の関係者がいないことを確認した。

 おれはだんだんと緊張してきた。ズル休みをして尚且つ学校に忍び込んで姑息にプリントを提出するなんて、種田先生に見つかれば無事じゃ済まないだろう。無駄に手を握って「中山くんにも見られたくないな」と言うと「密告されるから?同意だな」と日部は苦笑いをした。

 中山くんの謎の正義感によって、授業中の態度などを種田先生に密告された生徒は割といる。種田先生も律儀に叱りつけるものだから、中山くんはクラスの一部から疎まれている節があった。本人は気にしてないのか気づいていないのか、その気質を変える気はなさそうだ。

 そそくさと配置に着く日部の後ろ姿は、何をしてるか知ってるおれからは滑稽に見えた。

 早く終わらせてしまおう。

 おれは職員室前の一年二組の提出ボックスに向かう。何枚か入ってるプリントを持ち上げ、プリントを入れ込もうとした。

 ブブ

「?!」

 ポケットに入れたスマホの通知が鳴った。

 おれは慌ててプリントを入れ込んで、日部の方向を見た。小走りでこっちにくる日部がおれの横を走る。

「中山くんだっ」

「えぇっ?」

 小声で言いながら、日部に遅れずついて行く。曲がり角を曲がれば職員室前の廊下からは死角になる。角を曲がり、俺たちはすぐに廊下を覗き見た。

 反対側から中山くんがピシッと背を正して、プリントを持って姿を表す。

 中山くんはボックスの前に行き、その中に入ったプリントを取り出した。なんの怪訝さもないその動作は、おれたちに気づいてはいなさそうだ。

「…行こうぜ」

 日部の声に、ホッとして頷いた。

「タイミング最悪だったな」

「めちゃくちゃ焦ったよ、よりによってさ」

 B棟の階段を降りていく前を進んでいた日部が、折り返し地点で突然振り返った。

「えっ」

 ぱし!と手を握られて、階段を引き返す日部に引っ張られる。その様子は尋常ではない。おれは階段の下に見られてはいけない人物がいたのだと直感する。

 職員室前には中山くん、階段の下には一年二組の誰か。完全に挟まれる形だ。

 下から登ってくる足音は大きく、大人だと想像できた。日部は歩みを止めず階段を上り切ると横の扉を開けた。その部屋は音楽室で階段のすぐ横にある教室だ。中に入り、日部がすぐに扉を閉じた。しゃがみこみ、下にうずくまる日部の横で、階段から登ってくる誰かを待つ。

 学校のどこの扉の窓も、電車の開くドアのように上が大きく開いていて、外が見えるようになっている。

 おそらくいじめ防止のためのその大きな窓から、階段を登ってきた人物の顔が見えた。

 それは一番会いたくない、種田先生だった。

 種田先生は大きな体をゆさゆさと揺らしながら真横を過ぎ去って行く。

 どす、どす、というよく聞いた足音が、怪獣のようだ。

 足音が次第に聞こえなくなって、おれたちは自然と顔を見合わせた。

 どき、どき、と鼓動が鳴っている。

 真剣な顔と、その静寂が、途端におかしくなった。

「あははっ」

 馬鹿馬鹿しさに笑いが込み上げてきた。

 日部も噴き出すように笑い出す。

 バレないように小声で笑っていることが、面白さを増していく。

「下から見る先生こえーっ」

「ほんとに怖かったんだけど、こんな、あはは、こんなくだらないことで」

 おれは中腰の体制になって、窓から廊下を確認する。中山くんも、先生も誰もいない。バレなかったようだ。

「はぁ、日部の計画は穴だらけだ、なにが昼休みは人が来ないだよ」

 人間の行動は予測がつかない。まさかB棟の階段を種田先生が登ってくるなんて、B棟1階で、何か用事でもあったんだろうか。

 おれは昨日の先生を思い出す。

 たしか、突き指をしていたと言っていたっけ。

 B棟の1階には保健室がある。

 おれはどっと疲れて、また、はあ、と息をこぼした。

「ちゃんとこの退路は考えてたんだぜ?さっき階段を上がってくるときに、音楽室のドアがちょっと会いてたから、入れるなとは、思って、たんだ」

 言い訳に「はいはい」と言おうとしたが、日部は扉に手をついて俯いていく。

「日部?」

 急に体を丸める姿に心配になり肩を掴む。

 体に触れれば、ぜー、ぜー、と荒くなる呼吸に合わせて体が上下していることに気づく。

「大丈夫か?走ったから…」

 短い距離だったが、日部は廊下を走った。

 海外で手術をするほど重い心臓病だった日部は、手術から時間が経った今でも運動は控えている。体を動かしてしまい、苦しそうにしている様子はこれまでも何度か見たことがあったが、対処法はなく時間が経って心臓が落ち着くのを待つしかない。

 日部の心臓の音が手のひらに伝わってきて、乱れた音に不安になる。

「保健室行くか?体勢変えた方がいいんじゃ」

「はは、は」

 日部は疲弊した顔でおれを見上げた。

 口角は上がっているが余裕はない。肩に置いたおれの手に目線が動いて、日部の手が包むように上から重なった。

「河野は、俺を待っててくれるから、好きだよ」

 指の間に指が自然と絡まり、生理反応でビクリと動いてしまう。

 目尻が細められた、溶けるような目に射抜かれる。

「大丈夫、もう落ち着いた」

 日部は一度大きく息を吸い込み、サラリと髪を流して微笑んだ。

 おれも遅れて、声を出す。

「も、もう早く帰ろうか、もう集中力切れちゃったよ」

 おれは立ち上がった。

 最も見られてはいけない二人にあった今なら、余裕で抜け出せるんじゃないかという思いだった。

 日部にもそれは通じているようだ。

「わかった」と言い、ポケットに手を突っ込んで日部もゆっくり起き上がった。

 

 

 

 

 音楽室を抜ければあとは帰るだけだ。

 鞄を回収し、下駄箱で靴を履き替えて外に出た。

 二人で校舎沿いを横切る。前を歩く日部の背中を見ていると、なんだか変な気分になった。

(…びっくりした)

 あんな風に触られたことはなかったから、驚いてしまった。あれがイケメンの力というやつか、男でもドキドキしてしまうのだから、女の子はイチコロってやつだ。いや、ドキドキって、何言ってんだ。

 なんだこの感情は。

 胸に何かが詰まってるみたいな。

 日部に面と向かって「好き」と言われたのは2度目になる。

 普通の幼馴染として接していた期間が長い分、そのギャップには言い表せない感情がある。

 何と表現するべきか分からない気分に悶々としてると、とんとん、と横から音が聞こえた。

 音がする方を向くと、スーツを着た男性が窓越しにおれを見て、ノックするように校舎の窓を叩いている。

 顔のハリから若い男性のようだが、見覚えはない。

(誰だ?)

 やばいか?、と思ったが、一年二組の生徒ではもちろんなく、種田先生ではない(種田先生だったら、さすがにもっと驚いてる)まだ、裏門から出るところを見られてるわけではない。

 先を歩く日部にハンドサインをして、行ってもらう。

 ここで無視をすると余計な詮索をされそうだと考えた。

 適当に答えて誤魔化すしかない。昼休みなんだし、早く食べ終わったから外に出てたとか、いくらでも言えるだろう。人物に向きなおって会釈すると、ガラ、と窓が開き話しかけてきた。

「すみません、すこし聞きたいんですが、この階ってトイレどこですかね?」

「えと、トイレ、ですか?」

 予想外の質問だった。

 トイレの場所を知らないって、この先生は新任の教師だろうか。

 おれは直ぐにトイレの方向を指差した。

「廊下を進んだ突き当たりです。角に隠れて見えないだけで、進んだら分かりますよ」

「そうですか、ありがとうございます。まだよく把握できていないんですよね。助かりました」

 男性は丁寧に頭を下げた。生徒である俺に頭を下げるあたり、新任っぽいと感じるが、平坦な声と顔は何を考えているか測りづらい。

 ともあれ、大したことがない用事で良かった。

「すみません、

 顔を覚えられたくなかったので、頭を下げて逃げることにする。

「じゃあ、すみません先急いでて」

「どこかいくんですか?」

 スーツの男性は、興味があるのだか分からない顔で聞いてきた。

「えーと…」

 おれは少し考えた。

 大人に詮索をされずに、快く送り出される答えとは何か、と。おれの脳裏に昨日の父さんの言葉が思い出されて、熟考せずに声に出す。

「デートです」

 先を急ぐと、日部は裏門を抜けた少し先にある、舗装された道で待っていてくれていた。合流して、ある程度走って距離を取り、後ろに誰もいないことに安堵する。

 目論見通り男性は潔く送り出してくれたが、あの返答は相手によっては逆効果だっただろうか。まあ、名前も言ってないし、大丈夫だろう。

「何かあった?」

「いや、よくわかんない」

「なんだよそれ」

 日部は呆れたように笑った。

 久しぶりに見る顔に緊張が解けて、作戦の成功を実感したおれ達はまた軽く笑った。

 おれは大きなことをやり遂げた気分だった。

 やったことはどれも小さいことだが、一つ終えたと思えばまた新しい何かが来て、どれもハラハラした。胸に手を当てれば、今でも心臓がうるさく鳴ってる。

 いい気分だったから、おれは、家に帰りたくないと直感的に思った。

 …このまま帰路を進んでいくと、日部の家にたどり着いてしまう。

「河野は選択科目なんにした?」

「国語。数学が嫌いだから消去法」

「え、俺も国語にした!」

 以前日部は、母親から数学に進むように言われてる、と話していた。

「そうなんだ、じゃあ同じクラスになれるかもな」

 おれの言葉に日部は微笑んだ、モデルみたいにポケットに手を突っ込んだまま歩いている。

 スニーカーがアスファルトの小石を蹴って、弾かれる小石に追いついて、また蹴る。

 何度か繰り返すうちに、かつ、と小石が脇道に反れて、排水溝に飲まれていった。

「あーあ」と、残念そうに呟いた日部が「この後どうする?帰る?」と問いかけてきた。

「…公園とか行く?」

「あ、いーね!」

 おれは足元の小石を横に蹴った。

 日部は意図を理解して、また蹴り始めた。

 階段では小石は蹴れない。トンネルに続く階段への曲がり角を通り過ぎて、緩やかなカーブをまっすぐ進んでいく。

 いつもの帰り道だ。

 これでいいのか、と言う気分になる。

 それを伝えると、日部は「いいんじゃないか?」と言った。

「恋人って、何か特別なことをするから恋人なわけじゃないんじゃないか?」

 日部はデートのことだと受け取ったらしい。

「ええ?そう?」

「面と向かって好きって言える間柄のことなんじゃないかな」

 キザっぽい言葉だった。反応もしづらかったので、おれは黙った。

 やったことがないのでデートというものはよく知らないが、今日は楽しいと思えた。少しの刺激と非日常でこんなに楽しくなるのなら、デートというものはわりとコスパがいいのかもしれない。

(相手にもよるのかな)

 年越しで集まった親戚の席で、金がかかって仕方ないと言っていた従兄弟の彼女は、ブランド物が好きらしい。高級志向だからサイゼリヤなどをランチに選ぶとキレられるとぼやいていた。

 将来女の人と付き合う時に見分けもしないとな。と言われたっけ。うん、と特に考えもせずその時は返したけど、人と付き合うなんて日部に言われるまで身近なものとして考えたことはなかった。

 何となく自分とは関わりのない世界かもと感じていたし、好きと言う感情がどういうものなのかも未だによく分からない。

(おれって今、日部と付き合ってることになるのかな)

 他の人が俺たちを見たらどんな風に思うんだろう。

 かつ、と石が地面を弾いた。

「シュレディンガーの猫って知ってる?」

「っえ」

 世間話の、そのままのテンションで日部が話しかけてきた。

「…きいたことあるけど、よく知らないな」

「難しいから端折るけど、50パーセントの確率で生き物を殺す仕掛けがある箱の中に猫を入れるんだ。そうすると、箱を開くまで猫が生きている状態と、死んでいる状態が重なりあって存在することになるんだって。箱を開いて初めて、猫の生死が確定するってやつ」

 つらつらと説明されるが、話の流れがよく分からなかった。困惑が表情に出ていたと思うけど、日部は構わずに話を続ける気らしい。

「思考実験っていうらしい」

「そんな内容だったんだ」

 思った以上にひどい実験内容だ、とは思う。なんのためにそんなことをするんだろうか。

「なんか、猫がかわいそうだね」

「思考実験だから実際に猫は死んでないんじゃないか?」

 日部は小石を蹴る。

「俺さあ、この話知ったときに思ったんだよ。箱を開けたらそれが確定するなら開けたくないなって」

「ふーん?」

「だって、開けたら死が確定するかもしれないんだぜ?俺なら開けたくない」

 おれは日部が何を言おうとしてるのかわからなくて、口を開けようとした。

「開かなければよかったなって」

「…」

 おれは口を閉じた。

 日部は遠く昔の、海外の実験の話をしているんじゃない、あくまで、自分の身の回りで起きていることに当てはめて話をしている。

 血まみれの廊下と、扉。

 あれを見て、生きている可能性なんて、おれは考え付かないと思う。

 現実に引き戻される感覚がする、どれだけ今日が楽しかったとしても、日部の現実が軽くなるわけじゃない。

「どっちにしたって、その、…見つかってたよ」

 いまの日部の家は、どうなっているんだろう。

 おれがもし日部と関わりがなくて、ただの同じ地区に住んでいる住民だとしたら、外観から日部の家に、なにか不審な点を感じることはあるだろうか。

 知っているから、なぜ気づかないのか不思議に思うだけだろうか。

「…見ないふりしたって、いづれバレる」

「そうかなあ。おれが見てなかったなら、それはないのと同じだ」

「どういうこと?」

 日部は小石蹴りに飽きたのか、足を大きく振り、遠くに蹴飛ばした。石はアスファルトに跳ね返り、音も立てず草むらに吸い込まれていく。

「どっか遠くでひどい事件があったって、どっかで誰かが酷いことをしてたって、俺が認識しなければそれはないんだ」

 ほとんど断言するような口調だった。

「…現実逃避だよ」

「現実逃避?」

 日部は、は、と笑った。その様は大人びて見えて、普段の日部とかけ離れているように感じる。

 さっきまで笑っていた人間とは別人みたいだ、とおれは思った。

 嫌な流れになっているとは分かっていたが、おれは反論したくなった。

 よくない結果を生み出す危険性があるのに言い返したくなるのは、日部の言葉の節々から感じる信奉者のような揺るぎなさが、宗教じみていてどことなく気味が悪いからだ。

「実際そこにあるんだから、それはあるだろ」

 ごく当たり前のことを言うと、日部はすぐに返答した。

「俺が言ってるのは、観測してはじめて確定する事柄があるって言ってるんだよ。量子力学では、人間の認識が原子の状態に作用することが証明されてるらしいんだ。この世界の最小単位がそんなに曖昧でおかしいものなんだから、現実に対する何事も、その理屈は通るんじゃないかって」

「…ごめん、何言ってるのかよくわからない」

 日部は教育熱心な母親の影響でおれより物を知っている。でも、過去に、こんな風に知識をひけらかすことはなかった。

 日部は続けて言葉を発する。

「河野は、自分からしか世界を認識できないのに、相手が自分と同じように思考したり、感情を動かしたりしてるって、どうやってそれが本当なんだって判断できるんだ?自分以外のものが全部機械で、高度なAIがナチュラルな答えを弾き出してるのかもしれないだろ。自分以外のことを、みんなはどうやって生きてるって証明してるんだ?」

「…そんなの、感覚的にわかるだろ」

「ふーん、それって本能?」

 日部は平坦な声でそう言った。揺るがなく紡がれる声に怯みそうになるが、頭で理論立ててから口に出す。

「…本能というか、直感だよ。他人が、自分の考え着かない物を生み出したりするだろ。そういう積み重ねで、世界は自分を中心に回っていないんだって気づくんだ。自分と同じように、他人も生きてるって………なぁ、どこにもよらずに、早く帰ろうか、疲れてるんだよ」

 喋りながら、だんだん嫌になってきた。

 日部がこっちを見ているのが前を向いているのに分かる。

「なんで?」

「見つかったらまずいからだよ」

「まずいかなあ」

 おれは、制服でうろついていることがまずいことなのか、日部の家の死体が見つかることがまずいことなのか、分からなくなった。

 日部が歩みを止めないことが唯一の救いのように思えた。

 トンネルを通る最短の道ではないが、ここから家まではそう遠くない。このままいけば、日部の家の前を通り過ぎて、おれの家まで十分くらいでたどり着くだろう。

「母さんを埋めようと思ってるんだ」

 日部は話をやめない。

「ずっとあそこにいたらかわいそうだから」

「…」

 日部は、先生たちにバレないようにプリントを提出する、ような気軽さでそう言ったように聞こえた。

「校舎の、高速道路沿いの道とか良さそうだよな。土が柔らかそうで俺にもほれそう」

「無理だろ、車もないのに、どうやって運ぶんだ」

 下を見て歩いていると、アスファルトに影ができていく。

 横にある使われていない野球場。高いフェンスに沿うように植えられた高い木の影だ。

 大通りからは木が邪魔をしておれ達の姿は見えないだろう。

「それに、あそこは来年工事があるからやめといた方がいい」

「え、そうなの?そんなこといってたっけ」

 日部が笑う。

 その声の裏に、言い表せない感情を感じる。

「土砂崩れ対策であの道をコンクリートで埋め立てるって知らせが家に来てたよ。どんな風に工事するのかは知らないけど、掘り起こされる可能性はあると思う」

「へぇ、河野はボーとしてるように見えて、案外考えてるよな」

「日部は…」

 賢いようで、あまり考えていない。

「…なんで、怒ってるんだよ」

「河野、俺がこわい?」

 ドクン、と心臓が音を上げる。

 否定をしようと、右を向く。

 日部がポケットに手を入れて立っている。

 微かに微笑んだ日部。

 突っ込んで隠されていた手が、ポケットから出てくる。

 それを持った日部の体が、一歩こちらに踏み出た。

「っ!」

 声にならない声というものを、初めて出した。

 日部の手に、掌サイズの何かが握られている、短い棒状に見えるそれを、日部は開いた。

 ギラ、と光に反射して、目を焼くそれ。

「っ!ぁ、ひゅ、」

 後退するおれの足に、何かが引っかかり、視界がひっくり返る。尻をついた瞬間に、木の枝が折れる音がした。

「よく切れるんだ、知ってるだろ?これ。父さんがキャンプ用に買ってたナイフでさ。キャンプ用だから、肉も骨も綺麗に切れる」

 下から見上げる、日部の手にあるもの。

 刃渡り10センチほどの折りたたみ式ナイフに、おれの目は奪われる。

「なんのナイフか、わかるよな」

「っ、え?」

 転んだ俺と目線を合わせるように、日部がしゃがむ。

 均衡の取れた、黄金律の美しい顔、見透かすような黒い瞳がおれを見ている。

「もう見たんだろ?トンネルの側溝」

 日部の言葉に、あの日の光景がフラッシュバックする。

 トンネルの中、側溝の中の手首。

 手首がない死体。

「って、てくび、きった、、ナイフ」

「うん」

 ナイフを持った日部が、おれの頭を支配していた問題の、答えのようにそこにいる。

「やっぱり、河野はあれを見つけてたんだな、俺が河野に見つけてほしくて、あそこに置いたんだけどさ」

 日部は折りたたみナイフを畳んで、またポケットに入れた。空いた手を俺に差し出してくる。転けてしまった俺を助けるためだ、そう分かるのに、おれはその手を掴もうと思うのに、体が固まったように動かない。

 蛇に睨まれた蛙のように、地面にへばりついている。

「切ったら血が止まらなくてさ、ある程度止まってから紙に包んでいったけど、それでも大変だったな。そこらにある紙いっぱい使って、やっと止まった」

 無くしたプリント、日部は、なぜ無くしたと言っていたっけ。

 プリントは、そのために使ったのか、真っ白になった頭で思い至る。

「車がなくても細切れにすれば、持ち運べるよ」

 何が言いたいのか、おれは漠然としか受け取ることができない。

「見ないふりなんかするなよ」

 手を出さないおれに、目を逸らすなというように、手を近づけてくる。

 おれは泣きたくなった。

「もう、いい加減にしてくれよ」

 はぁ、はぁと、息が聞こえる。息が乱れている、この状況に、おれの精神がぎりぎりと、追い詰められて限界を迎えている。

 日部の手がおれの手首に触れる。

 その瞬間、弾かれたように手を払った。

「どうしろっていうんだよ、なんで、おれなんだよ」

 日部は驚いて目を見開いている。

 子供のような瞳に、怒鳴りつけたくなった。

「お前は異常だ!」

 おれは走り出した。

 道を走って、信号を渡って、おれは考えている。

 なぜこんなことになったんだと、まとまらない頭が答えを出そうとする。

 考えたくない。

 考えたくない。

 

 

 

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