第四話 信用していた

久しぶりに会った妹の一花いちかは、なんだか痛々しい様子だった。

「何かあったのか?」


突然連絡をしてきたと思ったら、東京に来ているのだが友達と連絡が取れないので泊めてほしいと頼まれた。

電話越しの一花の様子がおかしかったので家の最寄りの駅まで来させて迎えに行った。


「・・・。言わないといけない?」

俺の中で田舎の女子高生というイメージだった妹は、しばらく見ないうちに清純な女子大生のようなみてくれになっていて、元々あまり会話がなかったものの、ますます気まずくなった。


「いや話したくないならいいけど、突然だったから・・・」

ずっと俯き気味で暗い表情の一花は「ごめんなさい、迷惑かけて」と呟いた。

「迷惑じゃないけど心配するだろ。平日の遅い時間に急にこっちにいるなんて聞いたら」


そうだよねとしょんぼりする妹に、少し小さかった頃の面影を感じて、飯は食ったのか?と確認した。

 「お腹、空いてないから・・。お兄ちゃんは?」

自分は適当に済ませたから大丈夫だと言い、冷蔵庫からペットボトルのお茶を持ってきて渡した。

 

「ごめんね、急に来て。彼女とか来る予定なかった?」

一人前に気を遣う妹に、苦笑いをして数年彼女はいないと言った。

「一花は彼氏とかいるのか?」

俺の言葉に妹はビクッとして、わからないとこぼした。

「お兄ちゃん、人って変わっちゃうのかな」


一花の様子に、恐らく彼女には付き合っているような男がいて、彼との間に何かあったのだろうと察した。

「何とも言えないけど、誰でも多少は変わったりするんじゃないか?良い方にも、悪い方にも」


しょんぼりと体育座りをしている一花に、おまえはまだ高校生だし、あまり誠実じゃない男とは関わってほしくないと言った。

「そうだね。あの人のせいで最近は不眠症になっちゃったよ」

苦笑いする妹の頭をがしがしと撫でると、俺みたいな男は死ぬほど退屈だろうけど、一緒にいて悩むことはないと思うぞと励ました。


「ほんと~?」

やっとくすくすと笑った妹は、お兄ちゃんが恋愛してるところなんて想像できないと言った。

「まったく」

たまには俺みたいなのを好きな、物珍しいタイプもいるんだと言いながら立ち上がると、風呂が沸いたか確認しにいった。


客用の布団などあったかなと探しながら、娘を持つ男親は大変だろうなと思った。





「まだ好きなの?」

俺にそう訊かれた姉は真顔になって言葉を失った。

「・・・。間違いだったのかも」


彼氏が若い女の子と密会しているところに遭遇してしまったという姉は、男の選択を間違ったと思っているようだが、俺としては男と言うものを理解していないだけなのではと思う。


「残酷だとは思うけどさ、多くの男は水面下でそういうことしてるんじゃん?」

それを聞くと、姉はじろりと睨んできたが、まあ、そうかもねとこぼした。


「かわいい子だったなぁ」

ため息をつく姉に、九十九つくもさんだっけ?どこでそんな優良物件ひっかけるんだろうなと俺は呟いた。


「どうなんだろうね。でもあの人聞き上手っていうか、意外と女子の扱い上手いんだよね」

「ふーん。じゃあ姉ちゃんとその子の他にも会ってる女いるかもな」

姉は飲んでいた缶ビールが空になったようで、新しいものを開けるとあり得るなと言った。

「あの子真面目そうだったから、他にちゃんとした人見つけた方がいいと思うわ」


姉ちゃんは?と俺が聞くと、私も無駄な時間を過ごしてる暇ないから新しい出会いに期待すると言った。



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見てはいけない たこみ @codename-takomi

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