第三話 見誤る
マズいことになった。
二人の女性と付き合うことに罪の意識を感じなかったわけではない。
俺の前には大阪から遠路はるばる東京まで会いに来てくれた女の子がいる。
予告なしに現れた彼女に対して、明らかに動揺してしまった俺に、彼女はどうも引っかかるという顔をしている。
「やめた方がいいって言われたんです」
「へっ?」
困ったように笑った俺は情けない音を出した。
「友達に
そう言って言葉を切った彼女と俺の間にはしばらく無言が続いた。
大阪出張に行った際に出会った専門学校生の
もう一人の彼女、
「こっちにはまた就職のことで来たの?」
探りをいれる俺に、彼女は「私はただ・・」と言葉を詰まらせる。
誤算だった。
正直この娘のことをここまで行動力のある子だとは思っていなかった。
恐らく友達に俺の話をしたところ、他にも女がいそうだと言われ、確認せずにはいられなくなり、平日だというのに遠路大阪から東京まで会いにいたのだろう。
「急に来てごめんなさい・・」
一花ちゃんは自分の突撃が俺を喜ばせるよりも困らせていると悟り、しょんぼりとしている。
「いいんだけど、会社に来るのは・・」
俺が言いかけたとき、「九十九さんじゃん!」とレジの辺りから声をかけられた。
「!!!」
人はピンチの際に体の力が入らなくなるのだなと始めて知った。
一花ちゃんの背後から元気に手を振る同僚の隣には、まだ状況を把握していない優里の姿があった。
命を奪われそうな表情をした
会社帰り、同期の
手を振る文の視線の先には晶が座っていて、彼の前には髪の長い、清楚な雰囲気の女の子が背中を向けて座っていた。
晶に時々感じていた不信感のようなものに対する答えがこれからわかるのかもしれないと感じた。
文と二人がかりで強引に相席させてもらうと、晶と一緒にいる女の子に挨拶した。
「九十九さんの彼女さんですか?私たち彼の同僚なんですよ~」
許してくださいという顔をする晶のすねに私はテーブルの下で蹴りを入れてやった。
「彼女さん、ずいぶん可愛らしいけど、高校生とかですか?」
たたみかける文に、晶の彼女だということを否定しなかった彼女は顔の前で小刻みに手を振った。
「い、いえ専門学校生です」
私と文は互いに目配せすると、「いいな~、若くて羨ましい」と言った。
「彼女さん、お名前は?」
ずっとびっくりしたような表情の彼女は一花ですと言った。
それを聞くと、死を覚悟したような様子の晶に、「可愛らしい名前ですね~、九十九さんの彼女」と私は言った。
「私たち、彼の同期だから色んなこと知ってるのよ。一花ちゃんに教えてあげるから連絡先交換しよう!」
困惑を隠せない彼女は、晶に目をやり、どうしたらいいのかという表情をして見せたが、彼は泣きそうな顔をしながらも一花ちゃんに交換したら?と頷いた。
「お、おまえら、あんまり変なこと教えるなよ~」
動揺する自分の彼氏を目にしながら、こんなはずじゃなかったと内心思った。
今起こっていることにがっかりしたが、そりゃ30の女より10歳は若く見えるこの娘を選ぶかと仕方なく感じた。
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