第37話 アデュー。
首は繋がっているか?
彩雅の発砲で首を撃たれたタッセロムは、現状の理解を試みた。しかし、首の銃撃箇所から全身に痛みが走り、思考が遮られる。
結論。首は繋がっている。彩雅が用いた銃がM629ではなくアルカナの銃であれば、炸裂弾で確実に死んでいただろう。
炸裂弾ではない、普通の銃弾。故にタッセロムの命の糸は未だ
「Beautiful Dayに命令する。この室内に仕掛けられた対人武装を特定し、遠隔操作を無効化して」
彩雅からの命令を受けたBeautiful Dayは、『承知しました』と一言返し、室内に存在する遠隔操作型対人兵器へのハッキングを開始。
社長室のテーブル内テンキーから無線操作される武器達は、全てがネットワーク関連の機器。即ち、全世界同時ハッキングが可能なBeautiful Dayを利用すれば、機器の位置と数の特定及び無力化は極めて容易だった。
「さて……」
左手で撃鉄を倒し、彩雅はタッセロムに銃口を向けたままゆっくりと歩き出した。
「首を撃ったからもう喋れない? なら私が一方的に喋ろうかな」
車椅子に凭れ、痙攣を起こしながらも、タッセロムは何故か微笑んでみせた。その微笑みに眉を顰めながら、彩雅はトリガーに指をかける。
「まずは…………ありがとうございました。部屋を貸してくれて、欲しいものもかってくれて……私を、
そう言い終えると、彩雅はテーブルの上に置かれたアルバムに気付き、銃を構えたまま左手でアルバムを開いた。
厚めな表紙を捲って最初に出てきた写真は、軍学校の写真。7人の生徒が横並びに立ち、その中央には学生時代のジルファス。ジルファスの左隣には若き日のタッセロムが立ち、出征前である為、まだ右脚がある。
ページを捲っていくと、写真の日付が進んでいく。当初は初々しく明朗な様子であった生徒達も、写真が進む度にその表情は険しさを増していき、何度かページを捲った頃には全員の顔から笑顔が消えていた。
「この写真……辛そうで、悲しそうな顔してる。だけど、今よりも活き活きとしてる。何があなたを変えたのかは知らないけど、変わる方向を間違えたみたい」
「……ゴブ……ぁあ"……」
何かを言おうとしているのか、タッセロムは口元を動かし、血の絡んだ声を吐き始めた。
「俺、は……まぢが、っ、て、ない」
「……そう思うのなら、そう思ったまま死んでおいて。少なくともあなたの正義は、私の正義と噛み合わないから」
トリガーに触れていた指に、力が加わった。
「アデュー、マイフレンド」
まず、1発。
タッセロムの心臓に鉛玉を撃ち込んだ。
次に、撃鉄を倒して1発。
タッセロムの頭に鉛玉を撃ち込んだ。
首と心臓と頭。そのどれもが致命傷であり、タッセロムは、死亡。
これまでは無駄弾を無くす為に必要最低限の弾数で仕事をこなしてきた彩雅だが、今回ばかりは、既に瀕死だったタッセロムに2発の追い討ちを撃ち込んだ。
新人類計画の破壊。そして、ツキヤマ一族との訣別。2つの目的が、2度の追撃を加えさせた。
「……Beautiful Dayに命令する。クロト・イチミネに通話を繋いで」
ツキヤマの脈は停止しているか。その確認もせず、彩雅はBeautiful Dayに命令を追加した。
Beautiful Dayにはハッキング機能の他に、スピーカーとマイクを利用した通話機能も搭載されている。またその音質は携帯端末以上である。
彩雅が命令すれば、Beautiful Dayはどんな相手にも通話を繋げることができる。無論、ジェインやメリスにも通話を繋げられる。
クロトはサンムーンの社長室を確認できる近隣の建物に潜伏しており、炸裂弾を装填したスナイパーライフルで社長室の窓を狙撃した。窓への狙撃は彩雅の立案であり、タッセロムがテンキー操作を実行したタイミングでの狙撃が既に決められていた。
タッセロム・ツキヤマ殺害計画の完了。その報告とこれからの話をする為、彩雅は通話の対象をクロトに指定した。
…………のだが、
『検索致しましたが、クロト・イチミネという人物は存在しません』
クロト・イチミネは、実在しない人間であることが判明した。
「…………偽名?」
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