第30話 決断
彩雅には、満足に生きられない日々から救ってくれた恩が築山和葉にあり、その築山が結成したアルカナにも色々と恩がある。
グラには、家族を失い家にも帰れなくなったところを拾われ、欲しいものの全てを購入して貰った恩がある。
他のメンバーも同様である。
これまで以上の収入を条件に勧誘されたジェインも。
ハッキングしか能が無く、ニート生活を続けていたライラも。
話術と催眠術を誰にも発揮できず、故に誰にも評価されず、枯れ木のような人生を歩んでいたアズエルも。
皆が皆、程度の差はあれどアルカナには恩がある。
ジェインはその恩を仇で返すことが気に入らないようである。尤も、Beautiful Dayを利用した世界征服紛いの行為も、それはそれで気に入らないのだが。
「俺は気に入らないものがあれば潰す主義だが、恩知らずな自分を認めるにはまだ未熟すぎる。だから俺は社長を殺さないし、サンムーンも潰さない。ただ最低限の抵抗として、俺は今日限りでアルカナを
この瞬間を以て、ジェインはアルカナから脱退した。
アルカナのメンバーになる時は、口約束でも交わすような感覚であった為、所属メンバーである証明書類などは無い。契約書なども勿論無い。故に脱退する時も、退職願などは必要無い。
必要なのは、本人の脱退する意志と、立会人だけである。
ジェインが脱退を宣言した時点で、その場に居るジェイン以外の全員が立会人となる。そして即時にその宣言は適応され、脱退は完了する。
脱退は、タッセロムへの相談等は必要としない。ただ脱退の証明たる行為として、タッセロムと交換した連絡先の削除。及び
「みんなはどうする? 社長……ツキヤマを殺して世界を守るか、それとも世界と俺達の行方を見届けるか」
グラに関しては、そもそもアルカナのメンバーではない為、脱退云々の話には関与しない。
問題は他の、少なくともタッセロムがBeautiful Dayを利用することを知っているメンバーである。
恩を仇で返す形でタッセロムを殺すか。或いはタッセロムを殺さず、ジェインのように「Beautiful Day案件に関知せず静観」に徹するか。
皆が皆、悩んだ。
……ただ1人、彩雅を除いて。
「私はThe13であり続ける。The13として、私はタッセロム・ツキヤマを殺す」
「……殺せるのか?」
「ジェイン、忘れたの?」
ビデオメッセージの中で、築山和葉は彩雅にこう言った。
もしもその未来が、君にとって肯定しがたい未来であるならば、君はまた君として生きるといい。と。
「私は死神……人の命を操って、死んだ命があの世に逝くのを見守るのが仕事だから」
Beautiful Dayの存在。そしてそれを利用し、世界征服を画策するタッセロム。さらには、200年前と変わらない世界情勢と、待機の中に混ざった血と火薬の匂い。
200年の未来にやって来てから数日。彩雅は確信した。
この未来は、私が求めた未来には似ていない、と。
それはつまり、彩雅的には肯定し難い世界であるということ。
ならば彩雅は、「サンムーンの社長がリーダーを務めるアルカナのメンバー」という今の自分自身を捨て、「理想の世界を叶えるために邁進していた2020年代のアルカナのメンバー」という自分自身に戻る。
タッセロムの言葉で働く未来色の彩雅から、築山和葉の言葉で働いていた過去色の彩雅になればいい。
「それは本心か? それともお得意の二枚舌か?」
「私は他人に化ける。けど私自身を偽ったりはしない。それに、グラの前では嘘をつかないから」
「そうか……」
事実、彩雅は仕事以外の際、常に自分に正直に生きてきた。
そんな彩雅が「タッセロムを殺す」と発言すれば、それは一切の嘘偽りが無い純粋な殺意が根底にある。
「私は彩雅さんに一生ついていくって決めました。彩雅さんが見たいものは私が望むもの。社長を殺すというならば、私も共に社長を殺します」
「私もクロトさんに同意。私はもう、サイガ無しには生きられないもん」
「クロト、グラ……」
この時点で、既にクロトとグラが彩雅側についた。クロトが彩雅側についたということは、クロトと仲のいいアズエルも彩雅側についたも同然。
ただライラに関してはまだ決断を渋り、シオンはジェイン同様に脱退という答えに至ろうとしている。
誰も答えを促さない。なぜならこれは本人が決めるべき話である。
「私は…………」
ライラは、タイピングに徹していた指をいつの間にか止めて、自分自身に答えを急かしながら呟いた。
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