第25話 爆弾
アルカナが所有する銃には、ARCN22という名前があるのだが、大抵、アルカナのメンバーは「銃」、或いは「いつもの銃」と呼んでいる。
さて、それはともかく。
彩雅はアルカナの銃を握り、銃口をリンコに向ける。
リンコは、彩雅達が把握している計画には存在しない要因である。故に敵か味方かが未だ漠然としており、銃口を向けて確認をするしかない。
味方であれば、確認できた時点で銃を下ろす。
敵であれば、トリガーを引く。
「……なら、まずは一言だけ。ハロー、マイフレンド」
その挨拶を聞いた直後、彩雅は呆れたような溜息を漏らし、腕から力を抜いて銃口を床へ向けた。
ハローマイフレンド。第一声にその挨拶を発するのは、アルカナのメンバーである証拠なのだ。
しかし、それを何故か知らされていない彩雅達は、リンコの正体がアルカナのメンバーだという現実に驚くよりも、寧ろ、呆れた。
「The13、風祭彩雅さん。お目にかかれて光栄です。私はThe17、クロト・イチミネ。あなたに憧れ、変装技術を磨き続けてきた結果、今に至ります。因みにこの顔もこの声も、私本来のものではありません。素顔をお見せいただいた風祭彩雅さんの前では極めて無礼な行いであると自覚しておりますが、社長との契約上、私は素顔を晒すことができません。お許し頂ければ幸いです」
The17、クロト・イチミネ。
タロットカードに於ける17は、大アルカナの「星」。
アルカナのメンバーは、22個ある大アルカナの全てを埋めている訳ではない。そもそもアルカナのメンバーは、20人にも達していない。
加えて所属メンバーは、自分以外のメンバーが全部で何人居るのかを知らない。
クロトは、The17。しかし彩雅も、メリスも、ネーデロスも、The17が在籍していることを知らない。さらに作戦内容開示当日も、一昨日も、クロトは集合していなかった。
故にリンコがリンコ本人ではなく、アルカナのメンバーであるということには、誰も気付けなかった。
「胡散臭い外国人だと思ってたけど……まさか仲間だったなんて。それも私に憧れちゃった哀れな人だとはね」
「哀れとは、随分と自虐的ですね」
「私を尊敬しろだなんて言葉吐けるのは、極まったイカレナルシストだけよ。生憎、私は違うから。それにしても……サイガ・カザマツリじゃなくて風祭彩雅って呼ばれるの……何だか新鮮」
この時代に来てから、彩雅のフルネームは「サイガ・カザマツリ」として認識されてきた。故に200年前の呼び方を適応されると、この時代に馴染みつつある彩雅は謎の痒さを感じる。
しかしその痒さもあまり嫌いではないようで、彩雅は照れくさそうに前髪を掻き揚げた。
「私なりに気を遣ったつもりでしたが……不要、でしたか?」
「ううん。嫌じゃない。けどフルネームは辞めてくれると嬉しいかな。仲間なんだし、彩雅って呼んでくれていいよ」
尤も、彩雅のことを苗字で呼ぶ
「……承知、しました。それでは、その、失礼ながら……サ、サイ、ガ……さん?」
「うん。よろしく、クロト」
「諸君んん! そろそろ宜しいかなぁぁぁああ!?」
若干高圧的なピエロのような声を響かせながら、メリスは頭に被せたオールバックのウィッグを剥がした。
黒髪オールバックのウィッグの下から現れたメリスの髪は灰色で、髪の長さはウィッグよりも少し短い。そしてまさかまさかの、髪型はツーブロック。
隣に立つネーデロスはツーブロックのウィッグを被っているが、メリスに関しては地毛をツーブロックにしている。
因みにネーデロスの地毛はショートヘアであるものの、ツーブロックではない。
「僕らの計画はBeautiful Dayの破壊……そうだろうネーデロス殿ッッッ!!」
「ああ、そうだが……これは破壊できるものなのか?」
ウィッグを被ったままのネーデロスは、部屋の中心に揃ったBeautiful Dayを見つめて言った。
「やってみようじゃないか……僕のこの作品でさぁ!」
そう言うとメリスは、ロングコートのボタンを外し、コートの内側を彩雅達の前に晒した。
メリスの胴体には、自爆特攻を企むか如く幾つもの爆弾が巻かれており、さらにはコートの裏側にも種類の違う爆弾と、1挺だけアルカナの銃が忍ばせてある。
「カザマツリ殿ッ! 1から9の中で好きな数字を答え
「……2」
「OKェェ! ならば試すのは2つ目の爆弾だっ!」
メリスは心臓の位置に装備していた赤いパッケージの爆弾を掴み、勢いよくそれを剥がしとった。
胴体に装備した爆弾は、全て簡易的な接着剤で取り付けられている。行動に伴う体の振動程度では外れないものの、手で掴み、一定以上の力で引っ張ることで、マジックテープと遜色ない程度に剥せる。
コート裏には、爆弾やら小型の武器やらを装備するためのホルダーがある。よってコート裏の装備は「剥がす」のではなく「取り出す」必要がある。
「イチミネ殿ぉお!? この中で好きな色を答え給え!!」
メリスは左手を伸ばし、Beautiful Dayを指した。
「……その中なら、緑ですね」
「OKぇぇい!! ならば緑のマネキンに爆弾を装備しようかっ!!」
メリスは緑のマネキンの前に移動し、爆弾の表面に貼り付けられた赤いパッケージを剥がした。
胴体から剥がした2番目の爆弾は、名刺ケース程度のサイズである。赤いパッケージを剥がせば、中から出てきた直方体の爆弾は真っ黒で、1面にだけ白いフィルターが貼られている。パッと見ただけでは爆弾には見えないが、正真正銘、爆弾である。
メリスは爆弾の表面に貼られた白いフィルターを剥がした。その面は粘着面になっており、大抵の物質に貼り付けられる素材で出来ている。
つまりは、金属の塊であるBeautiful Dayにも容易に貼り付けられる。
「セッッ!! オケィイイ!」
ハイテンションメリスは爆弾を緑のマネキンの首元に張り付け、即座に
「みんな3メートル以上離れな!」
ドアの近くに立っていた彩雅は、既に3m以上離れているが、念の為に腕を顔の前にセッティングした。
ネーデロスはメリスと共に高速で逃げ、爆風に備えて2人ともマネキンに背を向けた。
クロトも既に3m以上離れていたが、少し前へ歩み、彩雅のすぐ近くにまで逃げた。
「BOMB!!」
メリスが叫ぶと、2番目の爆弾は爆発した。それなりに大きな爆音と、室内の埃を巻き上げる程度の爆風が起きた。
……のだが、表面に焦げ目を付けた程度で、緑のマネキンは損傷もしなかった。
Beautiful Dayは、破壊できなかった。
「嘘だろ……」
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