第2話 初日の緊張

「トゥルゥ・・トゥルゥ・・・」

アニメでの効果音のように電話が鳴った。


つ●ぎの細い喉が微かに上下する。


「トゥルゥ・・トゥルゥ・・・」

直ぐには切れない音が、せかすように続いていく。


「トゥルゥ・・トゥルゥ・・・」

尚も音は鳴り続ける。


いい加減に出ろよ、お前。

・・・と、電話に言われているようで。


つ●ぎは、恐る恐る受話器に手を伸ばした。


※※※※※※※※※※※※※※※


「はい、●●医院です・・・」

透き通る声が受付事務室に響いた。


医院といっても内科専門で医師は一人。

看護師も数人の、地方の小さなクリニックだ。


受付のソファーも少なくて。

常連の患者が座れば、すぐに満員になる。


しかし評判が良いので、医師の先生は休む間もない。

看護師も電話番まで手が回らずに、つ●ぎに仕事の依頼があったのだ。


細い喉を上下させ、つ●ぎが受話器をとった。


「はい、●●医院です・・・」

さすがにアニメの「ざぁます奥様」のように気取った声は出さなかった。


あくまでも地方の謙虚な主婦のつもりだったが。

そこは、少し声を作っていたのは否定できない、つ●ぎであった。


「ざるそばと、カツ丼をひとつづつ・・・」

せっかちそうな男の声が耳に響いた。


「えっ・・・?」

普段でも大きすぎる目を更に見開いて、つ●ぎは聞き返した。


「だからぁ・・・」

せかすような声が受話器から漏れる。


当たり前のことを聞くなよ。

・・・と、言われているようで。


つ●ぎは、少し、イラっとした。


「ざるそばと、カツ丼をひとつづつ・・いいぃ・・・?」

ネットリとした口調に、つ●ぎの心に「何か」が充満していく。


「ざるそばと、カ・ツ・ド・ン・・・」

句読点がウザいと、つ●ぎは思った。


「ひ・と・つ・づつ・・・。いいですかぁ・・・?」

最後の念押しに、つ●ぎの中で「何か」が弾ける。


「う、うちは・・そば屋ではありませんっ・・・!」

受話器をギュッと握りしめている。


「はぁー・・・?」

何の反省もない声に、つ●ぎの苛立ちはつのる。


「じゃあ・・マッ●ゥ・・・?」

更にブチ切れるフレーズ。


「うちは病院っ・・・内科のクリニックですっ!」

そのまま叩きつけるように受話器を置いた。


その瞬間、つ●ぎの顔から血の気が引いた。

間違い電話が多いから応対には気をつけるよう、先生に注意されていたからだ。


これだと、病院の評判に関わる。

つ●ぎは心から後悔するのだった。


今からでも間に合うかもしれない。

つ●ぎは電話に記録されている履歴番号にかけ直すのだったの、だった。

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