第3話 省吾の頼み

「なにすればいいんだよ」


 僕は肩にのっていた省吾の手を振り払い、嫌々聞き返すと


「簡単だよ、告白するまで俺を手伝だってよ」


 省吾は当然のように、めんどくさいお願いをしてきた。


「いやいやいや、僕もこれからの告白の準備があるんだよ、そんな余裕ないよ……」


 僕は省吾とは違い、鴻巣さんに告白する準備なんて全くしてないし、計画すらいまだに立てていない。


「大丈夫だって、鴻巣さんはよく告白されているし綺麗に振ってくれるから、後遺症ものこらないよ」


「でも…………」


「でもじゃない……、その点俺は、佐々木さんに対して本気で告白するんだから、だったら俺を手伝ってくれたっていいじゃん!」


「………………しょうがないな、わかったよ」

 

 省吾の強引さに負け仕方なく手伝うことにした。


「じゃさっそく、今日は図書館にいってきてー」


 いきなりめんどくさい指示をしてきた。


「えっなんで?」


「それがさ、奇跡的に俺たちがOFFの時に佐々木さん図書委員としているんだよ、だから様子みに行って来いよ」


「なんで僕がいくんだよ~めんどくさいなぁ。省吾がやればいいじゃん」


「俺はこれからいろいろと準備があるから、情報収集をお前に頼む。じゃあ、俺はこれからやることあるからあとはたのんだよ」

 

 省吾それだけ言うと、さっさと下駄箱の方に僕をおいて行ってしまった。今日は、部活もOFFで久しぶりに家でゆっくりしたかったのに、めんどくさいことを頼まれてしまった。とりあえず図書館の方にむかった。図書館は学校の一番高い階にあり、僕たちのクラスは1階であるため中々行くことはない。

 エレベータなどなく、階段で地道に上り、ようやく図書館についた。最上階には図書館と倉庫くらいしかないため、廊下は閑散としてた。

 

 図書館のドアをゆっくりと開けると、テーブルがたくさん並べられていた。図書館内にも人の気配は全くなく奥の方に進んでいと、カウンターに一人の女の子が座って本を読んでいるのが見えた。佐々木さんである。佐々木さんは、長い髪を後ろで一つにまとめて、クスクスと笑いながら本を読んでいた。


 僕は声をかけようかと思ったが、思うように話かけることが出来ず、気づかれる前に本棚に隠れてしまった。少しの間佐々木さんの様子をうかがっていると、何かを思い出したのか返却置き場にある10冊くらい重なっていおかれていた本を持ち上げようとした。しかし、思った通り全部バランスを崩して本をぶちまけた。さすがに見て見ぬふりをするわけにいかなく


「大丈夫ですか」


「あっ、ごめんなさい」


 佐々木さんは僕がいたのを全く気付いていなかったのか、驚いていた。


「手伝います」


「ありがとうございます」


 地面に落ちていた、本をすべて拾うと佐々木さんの指示で本をすべて元にあった本棚に戻した。全部片づけると再びカウンターに戻り、声をかけた。


「終わりったよ。えっとたしか同じクラスの佐々木さんだよね」


「はい、そうです。お手伝いありがとうございます。えっと…………黒田君?」


「う~ん一文字違い、黒川だよ」


 佐々木さんは顔を赤くして


「ごめんなさい私人の名前覚えるのが苦手で」


「全然大丈夫ですよ、僕もまだクラス全員の名前覚えられていないので」


 初めて会話した二人の間には、沈黙の時が流れた。


「なんの本を読んでるんですか?」


 あまりにも沈黙が長すぎるため僕がとりあえず手ごろな話題をだすと


「あっこの本は、カバーついてるだけで本当はマンガなんです。この学校マンガの持ち込み禁止じゃないですか…………。あっ!このことは秘密でお願いしますね」


「うんいいけど、なんのマンガよんでるの?」


「『夏よりも遠い季節』っての読んでいます。しってますか?」


「しってるよ、僕もそれ読んだ」


 僕は、月にマンガを結構の数買うほどマンガを読んでいる。しかし『夏よりも遠い季節』の名前がここで出てくるとは全く思いもしなかった。僕は結構好きであるがマイナーであるため話が通じる人がなかなかいない。


「ほんとうですか?私のまわりにもマンガ好きの人がおおいんですけど、この本読んでいる人全然いんいんですよ」 


 初めてこのマンガを読んでいる人と話したらしく、すこし興奮気味であった。


「そうだよね、結構マイナーなマンガだから知名度が低いんだよね」


「そうですよ、こんな面白いマンガなのに、おすすめしても誰も見てくれないですよ、ひどくないですか」


「まぁ内容的にも好き嫌いが分かれるからね」


 二人はそのまま、学校の締まる時間までこのマンガについて語り合った。その間図書館には誰も来ず二人っきりの空間がずっと続いた。

 

 最終下校時刻になると、放送部の声が聞こえてきた。


「もう下校時刻ですね、図書館閉めなくちゃ。今日は本当によかったです、初めてのこのマンガのことをしっている人を見つけて」


「うん、僕もこんなにマンガの話できたの久しぶりだから、良かったよ。…………また……部活がOFFの時にきてもいい?」

 

 佐々木さんの情報収集のためには、このマンガの話が好機である感じ、思い切って聞いてみると。


「よろこんでです。この図書館放課後全然人がこなくて寂しかったので、また今度マンガの話しましょう。次は違うマンガもってきますね」

 

 満面の笑みで答えてくれた。この時、僕の心になにかグッとくるものがあったが何かはわからなかった。


 佐々木さんは図書館の戸締りなどあるらしく僕は一人で帰った。


 夜、今日の成果を省吾に報告すると


「佐々木さんマンガすきなんだ」


「だって、でも省吾が読んでいるようなバトル系はあまり読んでいないらしい」


「OK、明日その『夏よりも遠い季節』だっけ?貸してくんない」


「わかった、学校にもって行くからその代わり先生に絶対ばれるなよ没収されるから」


「はいはい、わかったから。よし、また明日ね」


 省吾の電話を切ると、僕もベッドに入った。


「次のOFFは木曜日かぁ」


 最初は、省吾からの頼みごとに面倒くさい思いがあったが、今やそれは何か楽しみな期待感へと変わっていくのをどこか感じていた。


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