第14話 芋聖女、ファンができる
「お姉ちゃんおいしかったよ」
「ふん、母ちゃんのと比べたら――」
「お兄ちゃん! お礼はちゃんと言わないとダメだ!」
「うまかったよ! これで良いだろ!」
少年はそれだけ言って、魔物の解体を行っている男達の元へ戻って行った。
一応自分の母親も手伝っていたが、それは気にしないようだ。
私は焚き火のところで少女と暖をとりながら話していた。
あのあと街の人全員に食事は行き渡り、みんな満足そうな顔をしていた。
久しぶりにお腹いっぱいになるまで、ご飯を食べることができたと喜んでいた。
急にたくさん食べたり、魔物を食べたことによる影響が出てこないか確認したが、特に問題はなさそう。
「お姉ちゃんは私達の女神様だね」
「女神様?」
「だってこんな私達に嫌な顔もせずに、ご飯まで作ってくれたから」
セイグリットに対してやましい気持ちがなかったわけではない。
少しでも手助けをしたら、推しが喜んでくれる。
「私は女神様でもないし、ただのセイグリット様のファンですよ」
きっかけはそんな気持ちだったが、私が解決できることは思ったよりもたくさんあった。
目の前に苦しんでいる人がいたら、誰だって放置はできないだろう。
だから女神様と言われるほど大層なものでもはない。
「私もお姉ちゃんみたいになりたいな」
「そう? なら一緒にセイグリット様のファンになるかしら?」
「んー、ファンが何かはわからないけどそれはやめとく」
どうやら推し活仲間は増えそうにない。
「でも私がお姉ちゃんのファンになるね」
ただ、私のファンができてしまったようだ。
私のファンならそれはセイグリットのファンでもある。
この領地というグループの箱推しってことだ。
無理やりな気もするが、ファンが出来ることは私にとっても嬉しい。
「メークイン令嬢、そろそろ帰りましょうか」
段々と外の風も冷たくなり、もう少ししたら今日も終わりを告げるだろう。
「また来るから風邪を引かないようにね」
予防のためにみんなに魔法をかけて私達は屋敷に帰ることにした。
聞こえてくる感謝の声に、聖女として嬉しく思う。
私には芋子としての記憶もあるが、メークイン令嬢としての記憶もある。
聖女の力をみんなのために使えたことは、私にとっても大きな変化だったと実感してきた。
「メークイン令嬢も風邪を引かないでくださいね」
帰り道セイグリットは自分の着ていた上着を私にそっとかけてきた。
推しにそんなことをされたら、喜ばないファンはいないだろう。
完全に推しに抱きつかれている時と同じ感覚だ。
「はぁー、良い匂いがする」
私は上着の匂いを嗅いでいると、どこか視線を感じた。
セイグリットが私を見ているのだ。
しかも、ジーッと熱い視線を私に送ってくる。
「そんなに見つめられたら――」
「上着を返してもらおうか?」
「いや、ダメです!」
セイグリットは私から上着を奪おうとしてきた。
「そういえば聖女って風邪も引かないんだ……」
「今すぐにでも返せ!」
「嫌です!」
貸してもらった物は、私が返すというまで私のものだ。
その後も屋敷に帰るまで私はセイグリットと上着の奪い合いをしていた。
──────────
【あとがき】
「セイグリット様頼みがあります」
「うっ……また、変なことを言うんじゃないか?」
「威嚇ポーズをして欲しいです」
「ああ、そうか」
「セイグリットさまああああ!」
どうやらセイグリットは恥ずかしいのか、急いでその場を去っていく。
「足止めには★が必要よ!」
★★★を投げてセイグリットの足止めをしよう!
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