第13話 芋聖女、人を動かす

「本当にこれを食べるんですか?」


 やはり街の人達も魔物を前に戸惑っている。


 食べたことないものに対して、拒否感を覚えるのは仕方ない。


 それに多少知識がある人であれば、魔物を食べてはいけないと知っている。


「お姉ちゃんが食べても良いって言ったから大丈夫だよ。いらないなら私が全部食べるもん!」


「なっ、俺も食べるからおっさん達には食わせないぞ!」


 子ども達が食べると言ったら大人達が食べないとは言えないのだろう。


 次々と覚悟を決めて寄ってきた。


「では魔物を食べられるサイズに切り分けてもらっても良いですか? あとは水があるところを教えてください」


「井戸は私が教えるね!」


 少女に引っ張られて井戸に向かう。


 ただ、井戸に近づくと変な異臭を感じた。


「いつもはここの井戸水を飲んでいるよ」


 井戸の蓋を開けると、さらににおいは強くなる。


「お腹を壊してない? 大丈夫?」


「んー、ご飯も食べれてないからわかんないや」


「私もいつもお腹がギュルギュル言ってるし……」


 お腹が空いた音とお腹が緩んでいる時の音もわからない状態なんだろう。


 桶で水をすくってもやっぱり濁っている。


「これからは水の色がおかしいと思ったら私を呼んでね」


 魔法を使うと水は透明になった。


 本当に聖属性魔法って便利だ。


「やっぱりあなたは女神様ですね」


「ああ、こんな水は久しぶりにみる」


 大人達も綺麗な水を見て喜んでいた。


 これで魔物も食べられるかもしれないと、納得させる材料にもなるだろう。


 みんなで水を運ぶと、魔物は切り終えたのか細かくなっていた。


「火の準備もできましたよ」


 セバスも持ってきた薪に火をつけて、街の真ん中に大きな焚き火ができた。


 雪が降っている環境の中で久しぶりの暖にみんな集まっている。


「早速作るので手伝ってくださいね」


「それなら私がやりますね」


「お母さん!?」


 一番初めに声を上げたのは昨日治療した女性だった。


 体は痩せ細ってはいるが、どうにか動ける状態らしい。


「助かります」


「さすがに私達のためにやってもらってますからね」


「ああ、俺らも使ってくれ」


 気づいた頃には街の人達みんなが協力的になっていた。


 思ったよりも協力的な人達が、この街には集まっているのだろう。


 今回はどれだけ食事が摂れているかもわからないため、胃を慣らすためにスープ中心で作る予定だ。


 ただ、痩せ細った体に力をつけるにはタンパク質も必要になる。


「ではハーブをお肉に揉み込んで串焼きにしてもらっても良いですか?」


「それなら俺でもできそうだな」


 大体の工程を伝えると各々動き出す。


「おっ、領主様が帰ってきたぞ」


 後ろを振り返るとさらに魔物を運んで来たのだろう。


 馬車のようなタイヤがついた台車の上には魔物がたくさん乗っていた。


「セイグリット様お疲れ様です」


「ああ、これはどういうことだ?」


 セイグリットは街の人達を見て驚いた顔をしていた。


 きっと再び森に戻った時とは異なり、協力的に動いていることに驚いているのだろう。


「皆さんが手伝ってくれるので助かりました」


「領主様、あの魔物ももらっていいやつですか?」


「ああ、メークイン令嬢に魔法をかけてもらったやつなら大丈夫だ」


「ありがとうございます」


 男は嬉しそうに作業に戻っていく。


 ただ、セイグリットは呆然としていた。


「セイグリット様大丈夫ですか?」


「ああ、急に話しかけられたから驚いただけだ」


「呪いの影響が強かったから仕方ないですよね」


 まだ仮面を外して直接見ることができなくても、少し目を合わせないようにすれば同じ空気感を味わうことができる。


 ゲームの中でもセイグリットは、呪いの影響で一人でいることが多かった。


 家族でも呪いを弾くアイテムがなければ、きっと話せなかっただろう。


 セバスやクリスが一緒に居られるのは、そのアイテムを持っているからだと聞いている。


 それだけ聖女の聖属性魔法が強力ってことだ。


「ふふふ、これでセイグリット様は私から離れられなくなりますね」


「ふん……そうかもな」


「えっ? セイグリット様もう一度お願いします!」


 まさかの返事に私は聞き逃してしまった。


 私はセイグリットに近づいて顔を覗き込む。


「ええい、近いわ!」


「もう一度お願いしますよおー!」


 その後も何度か聞き返したが、セイグリットが答えてくれることはなかった。

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