第12話 芋聖女、推しを泣かす

 その後も魔物を狩りながら、食べられる魔物を探す。


 基本的に動物に似た魔物であれば問題ないが、ゴブリンのような人型やにおいがきついものは食べる気がしない。


「セイグリット様、あそこに食料です!」


「ああ!」


 セイグリットも嬉しそうに魔物を退治しにいく。


 これで領地にいる民のお腹を満足させられると思っているのだろう。


 その合間に私は薬草やハーブを摘めるだけ取ってきた。


 臭み消しにも使えるし、味付けに使える万能な植物だ。


「これだけあれば十分だろう」


「さすがに運ぶ方が大変ですよ」


 山になった魔物を満足そうに見ているセイグリットはどこか少年の顔をしていた。


 推しの少年時代を知ることができたらどれだけ嬉しいだろうか。


 一度兄弟に会いたいぐらいだ。


 いや、兄弟はやめておこう。


 間接的にこの国の王様と会うことになってしまう。


「さぁ、メークイン令嬢帰りましょうか」


「あっ、はい!」


 帰りもセイグリットの腕に抱かれて、私の心臓は飛び出そうになった。





「準備はこれぐらいで良いですか?」


「ええ、大丈夫でしょう」


 すぐに屋敷に戻った私はセバスとインカとともに鍋や調味料の準備をした。


 屋敷で調理をしたやつを持っていくには時間がかかるため、直接道具を街に持っていき調理することにした。


 大きな鍋を持っていくと、ゾロゾロと街の人達が出てきて興味深そうに見ている。


「あっ、お姉ちゃん!」


 その一人にこの間知り合った兄妹がいた。


「あれからお母さんの調子はどうかな?」


「元気になったよ! ただ、食べるものがないから、今もそこでネズミを捕まえていたの」


 ネズミってこの街を這いずっているやつだろうか。


「食べたの?」


「ううん。全然取れないから困ってたな」


 その言葉を聞いてホッとした。


 さすがに誰が聞いても食中毒になるとわかる。


 ただ、この街の人達にはそれしか生きる方法がない。


「今からご飯を作るから待っててね」


「ご飯!?」


 少女は目を輝かせて私を見ていた。


 それは少女だけではなく、周囲の大人達も同じだった。


「おい、そんなことやって後でお金をたくさん取るつもりじゃないだろうな」


 相変わらず兄の方は警戒心が強かった。


「ふーん、なら君は食べなくても良いんだね?」


「くっ……」


「お兄ちゃんはこの人がどんな人か忘れたの? お母さんをタダで治してくれた女神様なのよ!」


「ちょ、女神様は――」


 気づいた時には周囲は女神コールが止まらない。


 あまりにも恥ずかしく、インカに助けを求めたが彼女もそれに混ざっていた。


「これはどういう状況だ?」


 ただ、それも一瞬にして空気を変えた人物がいた。


「あっ、セイグリット様おかえりなさい」


 街の人達はセイグリットの声を聞いて、震え上がりその場で倒れる人や逃げる人がいた。


「やはり私は屋敷に――」


「ああ、大丈夫ですよ! 急にセイグリット様が来たので魔法をかけるのを忘れていました」


 私は街全体に聖属性魔法を発動させる。


「わぁ……綺麗……」


 空からはキラキラと光粒子が雪と一緒に降ってくる。


 次第に街の人達の体調は良くなり、普段通りに戻ったようだ。


 街全体を聖域にしたことでセイグリットの影響を弱めたのだ。


「セイグリット様の呪いぐらいなら解くことは出来なくても、弱めることはできますから――」


 振り返ってセイグリットの顔を見ると、一筋の涙が頬を伝っていた。


「えっ……あわわわわ、セイグリット様が泣いて――」


「私は泣いてなんかいません。すぐに魔物を持ってきます」


 そう言って再びセイグリットは森に戻って行ってしまった。


 そんな私達をセバスは微笑みながら見ていた。

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