第11話 芋聖女、魔物討伐デートをする

「メークイン令嬢大丈夫ですか?」


「あっ、はい!」


 大丈夫だと言いたいがそんな余裕はない。


 もちろん馬に乗っているため、お尻が痛いという理由もあるがそんなのはどうでも良い。


「あまり離れると危ないのでもたれてください」


 今、私はセイグリットにもたれて馬にまたがっている。


 どことなくハグされたような感覚に頭がバグってしまう。


 それに何と言っても推しの匂いが自然と体に染み渡ってくる。


 どことなくオレンジのような爽やかな香りとバニラのような甘い匂いが鼻腔をくすぐる。


 フルーティーで甘く、同時に爽やかな香りで包まれている。


 そこに森のウッディな香りが重なり、香水にしたら即完売になりそうな感じだ。


「もうそろそろで魔物が現れます」


「ふぁい!」


 突然魔物が現れると言われて気を引き締める。


 さっきまで癒されていたのに現実に戻されてしまった。


「くくく」


 そんな私を見てセイグリットは笑っていた。


 ああ、推しの笑顔を真下から見上げるとは思いもしなかった。


 目元と口角しか見えないが、笑っているのは私から見てもわかった。


「セイグリット様は笑顔が似合ってますね」


「はぁん?」


 褒めたら急に笑顔がなくなった。


 本当に照れ屋なんだろう。


 そんなセイグリットもイケオジだけど可愛い。


「メークイン令嬢顔を下げてください」


「えっ?」


 急にセイグリットは私の頭を持って下に降ろした。


 強引なセイグリットもまた胸がキュンキュンとする。


「コカトリスが現れました」


「コカトリスって大きな鳥の魔物ですよね?」


 乙女ゲームの中でも時折出てきたのは覚えている。


「あいつとは絶対に目を合わせないでください」


 コカトリスと目が合うと、体を石化させる能力を持っている。


 私は興味本意で視線を上げると、指が少しずつ動かなくなり石化していく。


「くっ、今すぐ殺してやる!」


 セイグリットは私の手が少しずつ石化しているのに気づいたのだろう。


 馬から飛び降りると、コカトリスの首を勢いよく切り落とした。


 "戦場の悪魔"と言われているだけのことはある。


 コカトリスって中ボスとかに出てくるような、強い魔物だと認識していた。


 そんな魔物を一瞬で倒すぐらいだから、よほど実力があるのだろう。


「メークイン令嬢、今すぐに屋敷に戻り――」


 セイグリットは急いで戻ってきた。


 眉間にしわを寄せ、眼差しは不安と焦燥に満ちていた。


 彼は私の手を心配そうに見ている。


 そんな顔を見せてくれるとは思いもしなかった。


「これぐらい大丈夫ですよ?」


「えっ?」


魔法を唱えると石化が少しずつ解けていく。


 聖属性魔法って基本的な回復、浄化、状態異常、バリアは簡単に使うことができる。


 息をするような感覚で魔力の消費もほとんどない。


 それが聖女としての力だ。


「はぁー、すぐに治るなら早く言ってくださいよ」


 セイグリットは髪の毛をかきあげる。


 もう、男らしいエッチな匂いがプンプンと漂っている。


「せっかくのデートなので、セイグリット様の色々な顔を見たいじゃないですか」


 私も負けてはいない。


 言葉一つでセイグリットの表情がコロコロと変わっていく。


「くっ……」


 セイグリットは無言になり、コカトリスの元へ戻って行った。


 ただ、後ろから見える耳は真っ赤に染まっている。


「あっ、ひょっとしてデートが初めてなんですか?」


 私の声にセイグリットはビクッと反応した。


「別にデートぐらいしたことはある!」


「そうなんですね……」


「あっ、いや……」


 耳を赤くして戸惑った姿を見ると、さらに推しの沼にハマってしまいそうだ。


「ふふふ、今は私のデートに集中してくださいね」


「決してこれはデートじゃない!」


 その後もセイグリットの耳は真っ赤に染まっていた。

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