第15話 認められない婚約

「なぜ、呼ばれているのかわかっているだろうな」


「それは婚約者であるリリアの――」


「愚息め! お前のせいでこの国に聖女がいなくなったではないか!」


 俺はなぜ怒られているのかわからない。


「リリアには私の子どもがいる。それは喜ばしい――」


「なにを言っている。そんな娘に何の価値がある!」


「酷いですわ」


「いくら国王だからって言い過ぎです」


 単に好きな人と結ばれて後継者ができたのに、国王である父親は否定的だ。


 父も政略結婚ではなく好きな人と結ばれた。


 それなのに私の気持ちがわからないわけではない。


「そもそも父親であるお前が自分の娘を他国に嫁がせるとはどういうことだ」


 リリアの父親も黙ってばかりで何も言わない。


 きっと黙っているのは自分の娘を殺したからだろう。


 娘を"戦場の悪魔"に嫁がせる。


 それは娘を殺して、新しい聖女を誕生させるということだ。


 聖女と同じ血を引くリリアなら、聖女が生まれる可能性が高い。


 今は聖女が必要なほど土地はけがれていない。


 それなら尚更聖女はいらないし、私が結婚するまでもなかった。


「国王様落ち着いてください」


「これが落ち着いて……ゴボッゴボッ!」


 父はその場で咳き込み、大量に吐血していた。


 体が弱ってきているのに無理をするからだ。


 すぐに父は自室のベットで休むことになった。


「私達子どもが生まれるのに国王様も酷いわね」


「ああ、でもこれからは私達の時代になる。さっきのことは気にしなくも良い」


「ふふふ、すごく楽しみですわ。ほら触ってみてください」


 リリアは私の手を掴み、ゆっくりとお腹の上に乗せた。


「今少し動いたぞ!?」


「もうちょっとで会えますね」


 リリアの大事なお腹に手を触れると、子どもが私達のところに授かって喜んでいるような気がした。


 私はあの女と婚約破棄してよかったと改めて思った。

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