第7話 芋聖女、推しにキュンする

「私達は元々この街の人ではないんです」


「それって……」


「ええ、移民が集まっているのがこの街です」


 元々隣国でやっている戦争に巻き込まれないように逃げてきた移民や無くなった他の領地から移り住んでいる人が多いらしい。


 そんな人達をセイグリットは自分の領地で受け入れていた。


 ただ、森から襲撃してくる魔物や環境の変化に街の人達は対応できず、最終的にはこの国も戦争に巻き込まれて食料不足になっていた。


「だから腐ったものも食べてたのね」


 腐敗臭は近くに置いてある鳥や野菜から出ていた。


 それだけここの領地まで食料が行き渡らないのだろう。


 雪が積もっているところを見ると、野菜も育ちにくい環境なのかもしれない。


「ってか私の方こそごめんなさい。きっとあなた達を巻き込んだ戦争は私がいた国が発端になっているわ」


 メークインの記憶には私の実家がある国が、戦争を仕掛けたと残っている。


 そりゃー、あのバカな王子の親だ。


 理由は聞かなくてもどっちが悪いのか、調べたらすぐにわかるだろう。


「とりあえず私にできることがあれば呼んでくださいね」


 そう言って子ども二人の頭を軽く撫でて家を出た。


 きっと子ども達は腐ったものを食べていただろう。


 お腹を壊さないように魔法をかけておいた。


 まずは食料問題を解決しないと、この領地はどうしようもない。


「ふふふ、私の記憶が役に立つ時が来るとはね」


「お嬢様気持ち悪いですよ」


「あら、あなたはいつまで付いてくるのかしらね。それにお嬢様って――」


「コートの分を返していないからね!」


 きっと口ではそう言っているが、私に付いていけば良い思いができると思っているのだろう。


 そんな彼女は近づいてくる馬の足音に震え上がっていた。


「メークイン令嬢! どこを歩いていたんですか!」


 その声はセイグリットだった。


 私を心配したのか、馬を走らせて迎えに来てくれた。


 そういえば私が出迎えるために家を出たことを忘れていた。


「それになぜあなたがコートを着ずに後ろの人が着ているんですか?」


 やはり彼女のことが気になるのだろう。


 でも、よーく思い出してみて。


 あの推しが私を心配してくれているのよ。


 こんなに幸せなことはない。


「セイグリット様は私が心配だったんですね」


「なぁ!? 君は何を言ってるんだ!」


「だってそうじゃないとここまで迎えに来ないじゃないですか」


「いや、そういう意味では……」


 狼狽える姿もどこか可愛く思えてしまう。


 それにこれで彼女に対しての圧は少なくなるだろう。


 呪いの影響なのか彼女はその場で苦しそうにしていた。


 魔法で呪いの影響を少なくすると、彼女の呼吸は落ち着いてきた。


「お嬢様、あの人は……」


「私の旦那様で愛しの推し・・ですよ」


「推し……?」


 嫁入りするのに付いて来てくれたメイドや執事は誰一人いない。


 私もこっちに来たばかりだから、彼女が助けになってくれたら助かる。


 そのためには推しの良さを知ってもらう必要があるだろう。


「そうよ! 世界で一番好きなセイグリット様です!」


 チラッと彼を見ると、馬の向きを変えて帰ろうとしていた。


 だが、耳の後ろは真っ赤になっていた。


 寒かったのか、それとも照れているのかわからない。


 また新たに推しの良さを知ってしまった。


 そんな大好きな推しのために、私は自分のできることをすることにした。

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