第6話 芋聖女、体を買い取る
街の中を歩いているとさっきの兄妹が段差の上に座っていた。
そんな兄妹にゆっくりと近づいていく。
「ねぇ、さっきはなんであんなことしたのかな?」
声をかけると驚いた表情をしていた。
ただ、それも数秒だけで彼らは表情を変えて逃げようとしていた。
「逃がさないぞ」
私が反応する前に後ろにいた女性が捕まえていた。
その素早い動きについつい感心してしまう。
ただ、彼女にあげられる物はもう何もない。
「まだコートの分は返せていないからな」
どうやらコートをもらう分の手伝いはしたいのだろう。
どこか律儀な性格にこの街もまだまだどうにかできるのではないかと思ってしまう。
「おい、こら離せ!」
「お兄ちゃん怖いよ……」
兄は暴れて妹はその場で泣き崩れてしまった。
「俺は何も盗んでいないぞ!」
きっと貴族だと思った私に何かされると思ったのだろう。
確かにメークインの記憶でも、横暴な貴族は存在するという知識はあった。
「何もしないけど、なぜ盗みをしたのか教えてもらってもいいかな?」
「そんなのは生きるため――」
「あなたは静かにしなさい」
女性の声が大きすぎて子ども達の声が全く聞こえない。
だから静かにするように伝えると、その場で黙り込んだ。
「それで何があったの?」
「お母さんが病気だから……」
出てきた言葉は私が思っていた通りの答えだった。
きっと彼女が言ったように、何かしらの理由で食べるものがなくなって生きるためと答えるか、もしくは家族のためって言うと思っていた。
「それなら私の出番かしらね? 早くお家に連れてってもらおうかな」
「お姉ちゃんはお母さんを治せるの?」
「ルルそんなやつの話を聞いたらダメだ!」
妹はルルという名前らしい。
兄は必死に止めようとするが、ルルはお母さんを助けるのに藁にもすがる思いなんだろう。
良い子がいる街でよかった。
「見てみたいとわからないからね」
「わかった! お姉ちゃん付いてきて!」
そう言って私の手を握って必死に前を歩いていく。
私の手を握る小さな手は冷たく
♢
「おい、勝手なことをするなよ!」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「なっ!?」
年齢は違ってもやはり女性の方が強いのだろう。
妹に怒られた兄はタジタジとしていた。
「お姉ちゃんこっちです」
裏通りを抜けた家には小さな庭と家があった。
ボロ小屋で倉庫かと思ってしまったが、きっとこの街では一般的な家なんだろう。
案内されるがまま家の中に入ると、すぐに異臭を感じた。
「ひょっとして……」
どこか腐敗臭に近いにおいがしていたため、母親を助けられなかったと頭をよぎった。
「誰か連れてきたの……?」
だが、小さく微かに聞こえる声で母親がまだ生きていることに気づいた。
「お母さんを治してくれる人を連れてきたよ」
「何やってるのよ……。すみません、うちにはお金がないので」
ゆっくり体を起こそうとするが、力が入らないのだろう。
「そのまま寝ていていいですよ」
子ども達より細くなっている姿を見ると、自分は何も食べずに生活していたのだろう。
私は彼女に近づき魔法を唱えた。
きっと魔力の消費量は多いが、聖女の私であればどうってことないだろう。
むしろ記憶が戻ってから効率的に魔法が使えるような気がした。
私は推しのセイグリットを見たいがために、何回も……いや、何百回もゲームクリアした。
その中で魔法の効率的な使い方なんてゲームの中で何度も習っている。
少しずつ体が楽になってきたのだろう。
辛そうな表情から笑顔を見せるようになってきた。
きっと体も痛かったのだろう。
「調子はどうですか?」
「ご迷惑をおかけしてすみません」
どうやら治療はうまくいったのだろう。
ただ、栄養が足りてないのはこの先問題になりそうだ。
「どうか子ども達は見逃してください。お金なら私の体を売ってでも――」
そんなことを考えていると、焦ったように頭を下げてきた。
きっと静かに考えている私を見て、良からぬことを考えていたのだろう。
自分の体を売ってでもお金の準備をしそうだ。
それならご希望通りに売ってもらおうか。
「なら私にこの街について教えてもらってもいいかしら?」
セイグリットの領地で今何が起きているのか。
それは妻である私が理解していないといけないことだ。
いや、単純に推しのことなら何でも知りたいという推しへの愛が勝っていた。
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