第5話 芋聖女、街に行く

 冷たい空気が温まっていた体を冷やしていく。


 雪の中を掻き分けてやっと街が見えてきた。


 見つかるといけない思い、雪の上を全力で駆け回るとは思いもしなかった。


「ここがこの領地の街か」


 雪が積もった街はどこか異国感漂う街並みをしていた。


 海外旅行にきた気分で周囲を見渡していると、突然目の前で子どもが倒れてきた。


「うぇーん……」


 怪我をしたのだろうか。


 私はゆっくりとしゃがんで彼女を立たせる。


「大丈夫だった?」


 雪がクッションの代わりになって怪我をせずに済んだのだろう。


 念の為に魔法をかけて傷にならないようにする。


「おい、逃げるぞ!」


 突然聞こえた声に少女は反応して、その場から走って逃げていく。


 慌ただしい元気いっぱいな子が住む街なんだろうか。


「お姉さん、お金を取られていないかい?」


 そんなことを思っていたら、痩せ細った女性が声をかけてきた。


「お金は持ってきていないので大丈夫ですよ」


「ならよかった。あいつらはスリを平気でするやつだからね」


 そう言って女性も両手を前に出してきた。


 これは何をして欲しいって合図なんだろうか。


「教えてやったんだから、金目のものをくれ!」


 ああ、いわゆる物乞いってやつなんだろう。


 特にお金になるものを持ってきていない。


 あるのは寒さ対策に着ているコートだけだ。


 そういえば、目の前の女性は冬なのに薄着をしている。


 服もところどころ破れて、着古したやつなんだろう。


 私はコートを脱ぐとそっと彼女の肩にかける。


「今はこれしかないのですみません」


「えっ……」


 彼女はその場で固まっていた。


 まだ何かが欲しいのだろうか。


 ただ、今着ている服を渡してしまったら次は全裸になってしまう。


「返さないけど良いのか?」


 その言葉に彼女が固まっていた理由がわかった。


 ここは"邪魔"だと言って追い払うのが正解だった。


 彼女からしたらまさか突然コートを渡されるとも思っていなかったのだろう。


「サイズ感が合っていればいいけどね? じゃあ、私はもう少し街を見たいので失礼しますね」


 きっとこの街は毎日生活するので精一杯なんだろう。


 コートを施しただけで、周囲の目は猛獣のように感じた。


 ただ、お金がないと言ったばかりだから襲わないのだろうか。


 街の人全てが痩せており、どこか目には希望の光も灯っていない気がした。


 あの逃げた子ども達も痩せこけていたから、食べる物がこの街にはないのだろう。


 しばらく歩くと足を止める。


「あなたはいつまで付いてくるのかしら?」


「いや、きっと私がいないとあなたが狙われるわよ」


 彼女が後ろから付いてきていたから、私は襲われずに済んだのだろう。


 きっと獲物を横取りするなよという弱い威圧をかけている。


 思ったよりも荒んだ街に私は言葉一つでなかった。

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