第92話 ゲームスタート
『マスターご無事ですか?』
「ああ……うん、大丈夫だよ。ちゃんとダイアモンドダストの障壁で爆風は防いだから……」
爆発の後から数秒——
カエの元に、主を心配するフィーシアからの通信が入る。ただ、フィーシアの声音は思いのほか静かで——カエの事を全くと言っていいほど心配していなかった印象を受けるが、その実……カエが無事である事などフィーシアにとっては当たり前な理でしかなかった。
カエは自身が放った絨毯爆撃の衝撃を自身の力『ダイアモンドダスト』を起動し、障壁を何層にも重ねてこれを防いでいた。
「いや〜〜ゲームではお馴染みの攻撃方法なんだけど……実際、体感してみると凄いなぁ〜〜あとで「街の景観がぁ」……とか怒られないよな? 黄金の絨毯吹き飛ばしちゃったけど……これが本当の絨毯爆撃ってかぁ〜〜なははは〜〜…………つまらないか……」
『…………』
「フィーシアちゃん……なんか言ってよ!?」
『……マスター作戦のフェーズ1は終了しました。ついでフェーズ2に移行します』
「あれれ……無視??」
先ほどの爆撃は【アビスギア】の設置型特殊アイテム『DM装置』と言うものだ。決して『ダイレクトメール』では無い……正直、“DM”がなんの略かは知らないが……プレイヤー間では『(D)ダイナミック(M)ミサイル』なんて愛称で呼ばれた意外とポピュラーな分類の設置型ミサイル射出装置である。
カエは「起動!!」と宣言すると、手前の画面には——
<<<射出>>>
との文字がデカデカと表示される。
カエのいる地点から放射状に左右に立ち並ぶ黒い箱……『DM装置』表面の鉄の扉が開き、装置1つで4発ものミサイルが放たれる。そのけたたましい音に思わずカエは耳を塞ぎ……装置からは4本の白煙を撒き散らすミサイルが放たれる。カエが用意したのは24機のDM装置……起動の合図は近い装置から反応し、通信ラグによってカエから近い順に計96発のミサイルが放物線を描き黄金の絨毯上空を飛翔……やがて、カエの目にも映り始めた魔物の群れのど真ん中へと着弾すると、見事な炎の柱が立ち上った。それと同時、カエの目には爆発によって巻き上げられた土砂と魔物の肉塊が周囲へと吹き飛ぶ様子が飛び込んでくる。すると、それらは爆発の衝撃を免れた魔物に激突する事で——
二次被害……三次被害……と発展し——
相当数の魔物を『DM装置』によって片付けた。
『フェーズ1による魔物の撃破数は約1200です』
「あれ? 思ったより少ないね1発でザックリ12匹計算?」
『おそらくミサイルの着弾地点が集中したことと、群れの勢力の中心はもっと後ろである可能性が……それに「魔物」の耐久値も分からないとなると妥当な数字かと……』
「そっか……じゃあ、残りは銃火器と肉弾戦か?」
『そうですね——ではマスター……フェーズ2に移行準備を……』
「分かったよフィー……援護とアシストよろしくね」
『了解です』
「さ〜てゲームの続き……始めますか。RPGの世界でSF装備で無双ゲーとかどうかしてると思うけどねぇ〜〜」
カエは、衝撃を防ぎ切った後……爆心地を見据えて言葉を漏らす。すると彼女の左右には青と赤の——人の丈は優に超える大きさの機械仕掛けの銃機が浮かんでいる。
================================
------メインウェポン <main weapon>
>>> 回転型機関砲バーミリオン
《over the limit》Lv.10
┗アタッチメント <attachment>
>>> 浮遊装置【ドローン遠隔】
>>> リミッター解除
『6本もの銃身で一対となったガトリングを3機搭載した巨大機関砲。弾倉は外付けBOX型。普段はリロードを必要としないが、 <attachment>“リミッター解除”を装着する事で3機同時射撃が可能。ただしリロードタイム120秒が発生する。装弾数600発。属性値【炎】』
戦技【
効果……射撃速度上昇、射撃威力上昇。ただしリロードタイムが発生してしまうが、効果時間内でなら一度だけリロードは免除される。<attachment>“リミッター解除”と併用は可能だがリロード時間は+50%加算される。効果時間110秒。クールタイム240秒。
------サブウェポン <sub weapon>
>>> 幻夢ニブルヘイム—天音色—
《over the limit》Lv.10
┗アタッチメント <attachment>
>>> チャージ速度—高速化—
>>> 浮遊装置【ドローン遠隔】
『雷の粒子をチャージして射出するレーザー砲。チャージ無しで連射は可能だが、連射速度は遅く、威力も低い。最大チャージで高威力のチャージショットを放てるが、チャージエネルギーの一部を使う事で特殊技“スタンエリア”を発生させる『雷球』を放つ事ができる。エリア内は敵に状態異常“麻痺”を与え、属性値【雷】の耐性を下げる。属性値【雷】』
戦技【
効果……戦技効果時間、敵の弱手部位に与えるダメージに+20%の属性強化効果の獲得。更に敵が麻痺状態にある場合+20%——スタンエリア内にいる場合、更に+20%の属性強化効果の獲得。効果時間120秒。クールタイム270秒。
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「それじゃあ……フィーシア。これより遠距離による敵掃討を開始する」
『了解——マスター』
「敵勢力の位置や侵攻報告は逐一伝えて……進行はなるべく抑えるよう努力はするけど……もし、敵が俺に対して10メートル以内に侵入してきたら、フェーズ3に移行。今、俺が装備している銃機の操作権限はフィーに譲渡するから操作は任せるよ」
『はい……遠隔のドローンによる掃討ですね』
「そう、それから俺は近接による肉弾戦に持ち込むから……左右から漏れ出した魔物は……」
『私が城壁から狙撃する……ですね』
「うん! それでいい……それじゃあ、爆煙が晴れて敵が確認できたらフェーズ2開始だ!」
『はい、私はいつでもいけます』
我前はまだDM装置のミサイルによる爆撃で魔物の姿は確認ができない。この間を利用し、カエはフィーシアと作戦の概要を話し合い最終確認を済ませる。そしてカエの左右に鎮座した浮遊する巨大な銃火機からはローターの回る歯車の音と、粒子を貯めるチャージ音が発生……カエの合図1つ、いつでも射撃が可能な状態へと移行した。
あとは、先頭の魔物があの土煙を掻き分け顔を見せるのが合図——戦闘開始だ。
(ああ〜〜なんだろう? 魔物の群れがすぐ目の前だって言うのに、すごく落ち着いているんだよなぁ〜〜俺……ゲームの感覚を持ち出している? 異世界特典のおかげ……? それとも、巨大な竜と比べると群れる小物は小動物にでも勘違いしてるとか——? まぁ、よくわからないけど好都合……か……)
これより巻き起こるのは、魔物との殺し合い……だと言うのに、この時のカエの心は凄く落ち着いている。何故、これほどまでに心が澄んでいるか——明確な答えは当然分かり得ないが……煙を凝視する最中、広大な大地に響く草のコーラスに混じったゲームで馴染みのローター音にエネルギーを溜め込むようなチャージ音は——カエにとっては一種の子守唄のような安心感を与えてくれる。
ただ……
それと同時に——カエには、ウズウズとした待ち遠しい感情も持ち得ていた。準備の整ったこの状況は、引き金1つ……ほんの一瞬で大きな事象を引き起こせる状況下だ。魔物といえども“生物”……だがそんな相手は人間を食い殺そうと躍起になって襲いくるモンスターだ。カエがこの場に立つのは……そんなモンスターから……例えば可愛らしい子猫少女のミューリス——あんな無垢な少女の笑顔を守るため。それが紡がれるなら、カエはこの局面を大いに受け入れる。感覚がおかしくなるのは「怖い」ことだが……害虫駆除だとでも思えば少しは気が楽で……カエは、ただただ両サイドに控えた
そう思えば——カエは気づくと不敵な笑みを浮かべていた。
その時——
「グッワァァーーーーアア!!」
土煙を切り裂く魔物が1匹……また1匹と——姿を現した。姿形はオオカミに酷似した魔狼の群れがカエに向かって駆けてくる。
「クハッ——ゲームスタート!!」
カエはこれを皮切りに、1つ笑い声を瞬間で吐き出すと——
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