第32話 いざ、冒険者ギルド——冒険者は『◯』の仕事!?
冒険者ギルド……それは、世界を股に掛ける自由の象徴の冒険者を管轄する組織団体。
冒険者は、ギルドに所属・管轄下に入る代わりに、依頼の斡旋、冒険の補助、魔物の死骸の買い取りなど、様々なサポートが受けられる。
ゲームの受け売りだが、カエの簡潔な知識・認識ではこんなところ……
そして、今まさに現実の世界でその冒険者ギルドの前に立っている。
「………マスター、早く建物に入らないのですか?」
「ちょっと待って、フィー……! 今、感動に浸ってるから……もうちょい、このまま……」
「…………」
カエの前世はゲーマーである。そして、ゲームで散々と馴染んできた状景が……今まさに目の前に……
異世界転生に否定的なカエだったが……それでもゲーマーとして、どうしても心に、グッ——と来るモノがある。
カエ自身の転生体はゲームジャンル的にミスマッチではある。だが、その事を度外視しているのか——? 冒険者ギルドが、さも神聖なものと捉えるが如く、それを拝むかの様に眺めている彼女……
フィーシアには少し呆れられはしたが、それでもカエに湧き上がる感情。コレに浸る事を優先した。
だが……そこに決して悔いは無い——!
現実にあり得ない聖地巡礼を果たせ、この時のカエは高揚感に満たされ、感無量である。
暫し、自分の世界に酔いしれる——
するとだ……
「——ッオイ、そこのオマエ。邪魔だから、そこを退いてもらえるかな?」
急に背後から話しかけられた。
「——ッ!? あ…すいません……」
我に返り、謝罪を入れつつ道を譲ると……
そこに居たのは、先ほど目撃した冒険者の一団であった。
どうも、先頭を歩くリーダーらしき鎧の男が、苦言を呈した様である。
「——ッふん! 全く……気をつけてくれたまえよ……」
そして、男は悪態付きつつも、カエの前を横切り、三つ並びのギルド入り口へ……その中央の扉を勢いよく打ち開けて建物内に入っていった。その後を彼の仲間と思しき2人の女性が付いて行く。
「すいません……すいません……!!」
そして、一行の最後尾には気弱そうな青年が、こちらに対しペコペコ頭を下げつつ通過していった。先ほどリアカーを引いていた人物だ。
「——ん? ……あ〜私も、入り口で立ち止まってたのが悪いんです。気にしないで下さい」
「ッあ、ありがとうございます……!」
最後に、大きく頭を下げると、青年は仲間の後を追って、駆け足でギルド内に入っていった。
どう見ても、惚けていたカエに非がある場面なのだ——そこまで平謝りしなくても……と思いつつも、あのリーダー男の態度なら、それが彼の日常的な反応であったのかもしれない。
「——ムムム……」
「——? どうしたのフィー?」
ここで、フィーシアの方を確認してみると……どうも、機嫌がよろしくない模様で……
「あの男、マスターに対して失礼です。それに、わざわざ真ん中の入り口を使わず、左右から入ればいいものを——! 許せません!」
(あ、なんだ……そんなことか)
フィーシアにはリーダー男の態度が許せなかったみたいだ。
確かに、一瞬のやり取りではあったが……男に対し、お世辞にもいい印象を受けなかったのは確かだ。
マスター至上主義の彼女らしい反応だった。
カエ自身の為に、憤ってくれるのは嬉しい事だが……別に、この程度なら何とも思っていない。
相手にどんな思惑があるかも分からないし、カエ自身にも悪かったところもあった。
よって……
「フィーシア? 怒ってくれる事は嬉しいけど、こんな事で怒らない。立ち止まっていた私も悪いんだし、注意されるのは当然だったんだよ」
「ムムム〜……マスターはお優しいのですね。特別です……あの男は不問とします! マスターの寛容な心に感謝するべきですね。あの男は……」
とりあえず、フィーシアを撫でて宥めておく……このまま放置しては、何をしでかすか分からない部分があるからだ。この、おなごは……
まぁ、気を取り直して——
「じゃー……入ってみようか、フィーシア」
「——はい、マスター」
カエは、冒険者一行の後に続くかのように……中央の扉の取っ手に手を掛け、建物内に足を踏み入れた。
ギルド内に入ると、そこでは——2階まで吹き抜けとなった広い空間がカエの目に飛び込んできた。
その中央には建物全体を支える様な、大きな木の支柱が目を見張る。
支柱には螺旋階段が設置され、上階の開けた空間スペースまで続いていた。その流れる曲線のデザイン性はオシャレでとても美しいと感じさせる。
その螺旋階段を目で追い、天井に視線が向ければ……一面、竜の絵が刺繍された派手に目立つ天幕がカエの視界を埋め尽くす。その絵に何処か見覚えがあり、思い返してみると……ギルドの入り口の看板と同じデザインだった事に気付く。
(何だろう……あの竜はギルドのエンブレムか、何かか? まぁ、どうでもいいか……)
ふと、そんな疑問も浮かんだりしたが、今は深く追求しないでおこう。
竜をギルド象徴のモチーフにする——それっぽいと言えばそれっぽくもある。
それから視線を1階へと戻すと……正面奥には、カウンターと思しき長い棚が端から端まで伸び、一定間隔を仕切りで区画が分けられている。
カウンター手前に広がる1階の大部分のスペースには、大きな丸テーブルに椅子が4脚のセットになった物が幾つも並べられ、ぱっ——と見は食堂の様にも見えなくはないが……カウンターをセットで見れば『役所の待合スペース』と『大衆食堂』を足して2で割った印象が近しい。
室内全体を見渡しての考察としては、外の外観でもそうだったが、とにかく凝った立派なデザインで派手。しかし不思議と、くどくは……ない……
しつこくならない最低限の調度品数の限度を見極め、置かれた家具類の色彩をある程度に絞る。全体的に統一性を持たせる事により、空間のデザインの秩序バランスが保たれる事で、天井の派手な天幕すらも浮く事がない。
見た目、機能共に、完璧に計算尽くされた創意工夫の体現が、その空間に存在していた。
そして、そんなギルド内では、冒険者と思われる人々によって、一定の賑わいを見せているのが、周囲の騒音から感じ取れる…………
とれる……の、だが……
ここで、少し気になる事が——
と、その話しをする前に————“冒険者”や“ギルド”……と聞くと、一般的にどんなイメージが湧くだろうか——?
実際、足を踏み入れた建物内は、デザインが重視され清潔感をも感じさせる素晴らしいものであった。カエの予想では、もっとこう……小汚い——? というのか……飲み屋やバー? の様な……
別に悪口を言いたい訳ではないが、そんな空間なんかを想像していた。しかし……これを大きく覆す——上方傾向には予想外な光景が飛び込んで来たものだから驚いた。
そして、次に冒険者自体についてだが——
冒険者と聞くと、荒くれ者の“男”たち……とか、屈強な戦士の集まり……だったりを想像しがちなものだ。
魔力なるモノが存在する世界なので、一概には決めつけることはできないが……どちらかといえば“男”比率が大多数である仕事。そういう認識がカエにはあった。
あったの……だがぁぁ……
「ちょっとマリー……いい依頼あった?」
「ごめん……ゴブリン討伐しか取れなかった……」
「え!? マジ? 最悪なんですけど……」
「見て見て!! コレ、新しい“魔杖”買っちゃったの〜」
「「え〜〜〜いいなぁ〜カワイイ!!」」
「でしょでしょ!! フフフ ♪ 」
「あたしも、新しい剣……買おうかしら……」
「コレ見てくれる?」
「ウッソ!? なにこれ……ホント!!」
「ホントなのよ〜〜ありえなくない?」
「ありえない! ウケるwww」
……きゃっきゃ……ウフフ……と、ギルド内に響く騒音はどれも……女性のモノ……
そう……
この建物に入ってから、周りに居る冒険者の殆どが“女性”なのだ。
コレが、カエにはどうしても気になって仕方がなかった。一瞬、JKの集団が
カエが周りを見渡した限りで、この場に居る人は、ほぼ女性……勿論、男性冒険者もいる事はいる。ギルド前でウザ絡み男に、ペコ男がその例……
全体の体感として8:2——っといった割合だろうか? だが、奥の受付と思えるカウンタースペースには、赤をベースとした可愛らしいワンピ制服に身を包む受付嬢の姿が伺える事から、それも含めれば9割……カエにとっては、何とも居心地が良いとは言い難い空間だ。
(な、何なんだよ……コレは!? 冒険者って“女”の仕事だったのか!?)
『事実は小説より奇なり』——想像していた印象が大きく逸脱した事実に、思わず困惑してしまうカエ……
すると……
「ええ〜!! レノ様、フォレストウルフを8体も討伐したんですかぁ〜すごいですぅ〜」
「今度ぉ〜〜一緒にクエスト依頼連れてってくださいよ〜〜」
「ははは——いいだろう! 今度、機会があればな」
「やったーー!! 嬉しいです〜〜」
「約束ですよぉ〜〜」
例のウザ絡み男に群がって、黄色い声を飛ばす女性冒険者達の歓声が聞こえてきた。
別に、男性が冷遇されている訳では……ないの……か……?
「ね〜〜え〜〜まだ依頼報告終わらないの〜〜、シュレイン?」
「早くしてよ……とろいんだから! 全く、使えない……」
「ご、ご、ごめんなさい……!」
と思いきや……そうでも、ないのか?
ペコ男が仲間の女性達に叱責されているのを目撃してしまう。
何ともまぁ〜かわいそうではあるが、現状のカエの頭には「関わりたくないな」の文字しかない為、とりあえずスルーする事にする。
冒険者の女性率が高いこともよく分からないし、もしかするとこの街が特殊というパターンも考えられる。まぁ、そこがどうあれ、女性に耐性が無いカエにとっては、居心地悪い事に変わりない。
よって……とっとと目的を済ませてしまう事に——カエは意を決して歩を進めた。
扉とカウンター間にはロングカーペットが引かれているだが……それはまるで、カウンターへと誘うかの様である。
カエは、その導線誘導の糸を汲むと、カウンターへと近づいて行く。なるべく周りを意識しない様に……
(俺は空気……俺は空気……)
そう、己に言い聞かせながら——
だが、しかし……周囲がそんな彼女を許してくれない。
「ねぇ……あの子、だれ……?」
「何? あの黒い外套……浮かれた新人?」
「あの格好、変よね~……怪しい……」
「見たことない……異国の人……?」
等々、周囲より訝しむ声が飛び交った。
視線が刺さる——これが、尚の事カエの居心地悪さを増長させる。
本当に勘弁してほしい……そう思えてならない……
「うぅ……早くこの場から立ち去りたい……(小声)」
「大丈夫ですマスター……もしもの時は、私に任せてください……」
「…………任せるって……何を——??」
フィーシアは何を言っているのだろうか……?
本当に勘弁してほしい……
「ようこそ、冒険者ギルド、エル・ダルート支部へ!」
と、そうこうしてる間に、目前には既に受付嬢が佇むカウンターが……
そのカウンター席に座るユルフワのブロンズロングの若い受付嬢が声を掛けてきた。
「私は当ギルドの受付を担当します。【シェリー】と言います。今日はどういったご用件でしょうか?」
「あぁ…えっと……身分証の発行をお願いしたいのですが……」
「——え? 身分証ですか……?」
受付の少女シェリーは、不思議そうな表情を見せる。それもそのはず、黒い外套の怪しげな人物に、いきなり身分証を作れと言われたのだ。彼女の反応は至極当然であろう。
「詳細についてはコレを……門兵の方から、こちらで渡すように言われましたので……」
「……はい……拝見します……」
カエは門で手渡された紹介状を少女へと渡す。
シェリーがそれを受け取り、不思議そうな表情のまま中身を確認する。
すると、その内容を読み進めるにつれ、次第に難しそうな顔へと豹変してしまう。確認している最中、視線が紹介状とカエの顔へと行ったり来たりと……完全に挙動不審だ。いったい何が書かれていたのだろうか?
「ねぇ〜見てあれ……」
「シェリーちゃん、慌ててるんだけど……」
「何あれ……可哀想……」
その一部始終を目撃した周囲の女性陣らの不信感漂う声が漏れる。特に何か悪い事をしてる訳でもないのに、この思われよう。ここの住人はよそ者に厳し過ぎではなかろうか……
「あの——すいません! 上の者に確認を取りますので、暫くこちらでお待ちください!」
そして彼女は、そう言ってカウンター奥のデスクが立ち並ぶスペースへと走って行った。
そこで、1人の女性に紹介状を渡して、何やら話し込んでいる。
遠目で確認し得るその人物は、青髪ショートのクール系美女……キャリアウーマン的風貌の女性だった。見るからに“できる女”といった印象で、この場での責任者なんだと思えた。
そして、暫くして話がまとまったのか、シェリー嬢が戻って来る。
体感として、20分ぐらい——しかし、実質は5分程……カエに突き刺さる視線の刃による呪いで、崩壊寸前の精神が引き起こした人的現象——
なぜ、人は嫌な事柄に直面すると、時間を長く感じてしまうのだろうか……?
不思議でならないものである。
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