第17話 白い少女

———ッキィィィィィ——————!!



 カエが「イエス」と唱えると、【セーフティハウス】建設予定地が光りを放ち、森には耳を劈く高音が響き渡る。

 すると、地面から立体物が徐々に——徐々に——と迫り上がってくる様が確認できた。因みに、この時カエはすでに範囲外に退避済みである。


 この現象を確認したのは、何も初めてではなかった——


 1度目は、カエの背中にある『刀』を装備した時……まるで3Dプリンターで造形物を形作るかの様に、何も無い空間に突如として物体が生まれた現象に驚愕した事は記憶には新しい。

 それと同じ現象が現在、広場一杯に広がっている。同じと言っても規模が桁違いだ。





 そして、しばらくして——



 そこには、角ばった平家状の建築物が完成した。


 平家と表現したが、見た目は家とは言い難い……コンテナ——と言った方がしっくりくるだろうか——?

 壁は白よりのグレーで材質は金属質。デザインはシンプルで特徴は感じる程そこまでは無い……コンテナと思った所もコレによるものだ。

 ただ、コンテナにしては大きさが桁違い——現状では横幅しか確認できないが、それでもかなりの幅だ。

 コレがカエのゲームで知るモノと同等だとすれば、奥行きもかなりの物であるはず……

 『メイン基地の小規模版』とは言ったものの、事情を知らない者からすれば、すでに大規模な建築物である。

 唯一の特徴としては、屋上の端に申し訳程度のアンテナとレーダーの様な機械がゴチャっとしていることと、壁の一箇所に扉ぐらいの大きさの窪みが有る位か……因みに、【セーフティハウス】の屋上は一面真っ平らで、飛行系の乗り物の離着陸場となっている。



「——ッ!? すごい……こんなに早く完成する何て……や、やったあぁぁああ!! コレで、森の中でサバイバルしなくて済むぅう! ありがとうぅぅぅう! 女神様ぁぁああ……ぼぉかーあなたの事を勘違いしていたみたいです。貴方は紛うことなく神様でしたぁぁあ! もう……大好き!!」



 カエは思わず感涙していた。それはもう、さっきまでムカついて仕方なかった女性に対し、泣き叫びながら感謝した。



 己の手の平く〜るくる……何とも現金な話である。



 そして、暫くしてから落ち着きを取り戻したカエは、早速建物内に踏み入ろうと……セーフティハウスへと近づきく。

 向かう先は壁の窪み……その窪みとは、おそらくセーフティハウスの入り口である。しかし、不思議な事に、そこにはドアノブの類いは見当たらない。ただの、窪み——

 これでは、ゲームを知らない者には室内への入り方は皆目検討も付かない事だろう。

 しかし、カエは知っている。散々ゲーム内でその過程を何度も観ているのだから……

 

 カエは恐る恐る……恐々といった感じで、ゆっくりと窪んだ壁に触れる。だが、本当に恐れている訳では無い——期待に満ちた心持ちが、カエの動きに影響してのことだ。


================================ 


-------ハウス内システムにアクセス

>>>認証コードを確認======完了

>>>>>>>扉======開きます

>>>>>>>『お帰りなさいませマスター』


================================


 例の機械音声と共に、触れた壁には『お帰りなさいませマスター』の文字が浮かび上がった。そして、窪んだ部分だけが横にスライドする。


 どうやら、建物内への入室が無事に許可された様子。



 果たして、そこに広がるものとは——









「——ッおぉぉ……ゲームのままだ。いつも画面越しに観てたけど、現実になると……うん、感動だね!」



 建物内に足を踏み入れると、そこはすぐにリビングと思しき部屋が広がっている。


 ホテルのエントランスか——? と思える程の広い部屋。


 その中央には、目立った大きな長方形のテーブルと、そこに長ソファーが2つに1人用のソファーが1つ——それぞれ同じデザインの物が、テーブルを囲む形で置かれている。その奥には、バーカウンターのようなオープンキッチンも窺えた。それもあってなのか……一見、この部屋がオシャレなカフェにも見えなくもない。


 壁沿いには室内にも関わらず水が流れる側溝があり、周囲にプランターと観葉植物が植えられ、部屋が彩られていた。

 全体を通してシンプルながらも、無駄な物が省かれた造りは、その部屋の魅力と捉えられなくも無い……まるで、リゾートホテルの一室を彷彿とさせる光景が広がっていたのだ。


 控えめに言っても、申し分のない良い部屋だと感じた。


 ただ、所々にはSFの要素も匂わせている。

 スクリーンの様なモノが宙に浮いていたり、部屋の角には、大きなコンピュータと画面。別の部屋に続く扉は、金属質だったり——と【アビスギア】の世界観は損なわれていなかった。

 

 しかしそこで、カエはざっと部屋を確認したのだが……今、挙げた部屋の感想云々以前に——


 カエにはに目を奪われることとなる——











「———お帰りなさいませ、マイ・マスター……」


(——ッ!?)



 今、カエは外から入って来たばかりだ。



 そして、てっきりこの建物内が無人であると——


 

 思っていた……思っていたのだが……





——無人だと思い込んでた室内で声をかけられた——!?





 カエは声がした方向に視線を動かす——そこには……













 どこまでも…………どこまでも………





 “白い少女”が立っていた。




 


 ダボっ——としたロングコートの様な服を羽織った不思議な少女。その特徴は全身が白一色であること……それ一点にある。


 白い透き通った肌。着込んだ服も全てが白一色で統一され、髪までも……床まで届くかと思えるほどの白髪はくはつが、部屋の光源に照らされ美しく輝いている。

 唯一のカラーと言えば、ルビーのような赤い瞳ぐらいか……全体の白に、唯一差し込まれた瞳の赤がよく映え——見るモノ全てに不思議な印象を与える。


 そんな少女が部屋の中央に立っていた——



「———まさか……君は——ふぃ…………?」

「———はい……マスターのの【フィーシア】です。マスターの帰りを……心の底からお待ちしておりました」



 カエは、その人物の正体を知っている。

 


 主人に、自身の名を呼ばれた彼女の表情には——

 無表情ながらも——どこか……嬉しさが感じ取れるかの様に見えた。





 【アビスギア】はプレイヤーの一人一人に『サポーター』なる存在……簡単に言えば、仲間の様な“サポートキャラ”が付いてくる——

 このサポートキャラは育成する事で様々な支援活動を可能とする。

 遠隔による情報の伝達や装置の起動、戦闘面での援護、戦闘地域の雑魚掃討やフィールドの素材採取と、その機能は多彩を極めた万能な人材なのである。

 このサポートキャラもゲームを始めると主のキャラメイクと共に同時にキャラ製作が要求される。



 つまりは、プレイヤーによってその見た目が違う……のだが……



 カエの転生前、ゲーム内のサポートキャラが目の前のであった。付けた名前は【フィーシア】という。

 

 でだ……



 彼女のこの見た目——全身真っ白、美少女、赤眼と、なんとも厨二チックなキャラが出来上がっているのだが……これは何もカエの趣味だった訳ではない。

 

 そこには、非常にが関与していた——

  



 まず大前提として、カエは【アビスギア】というゲームを、終盤まで物語を進めたにも関わらず……諸事情により、一度最初っからやり直しをしている。

 そこで、プレイヤーが操作する主のキャラクリまでは意欲を向ける事ができたのだが、正直……2人目——となると……

 カエのやり直しに至ったモチベーションからは、そんな気力は残されていなかった(周りのプレイヤーから取り残されない様にと必死な面もあった)。


 そこで、取った行動というのが……初期設定のまま確定してしまうものである。

 瞳の色を“赤”にする。申し訳程度の遊び心なら加えたが、それ以外は全く初期のまま……

 他プレイヤーからして見れば『アレって? 初期のままじゃね?』と、間違いなく思う事だろう。

 服や髪のカラーは後からでも変えれるのだが……やり直してからというもの、物語終盤程に差し掛かった所で【アビスギア】に『大型アップデート』が実施され、それに全力で奔走し……見た目を弄る暇もなく——今に至っている。

 

 よって、こうもシンプルかつ不思議雰囲気キャラが誕生したのだ。


 因みに、性格設定は『無気力クール系キャラ』にした結果。無表情の起伏の少ない少女となってしまっている。



 筈……




 

 そこで……話しを戻すが——


 彼女がサポートキャラだということは、見た瞬間から分かっていた。

 そのサポートキャラまで再現されていることに呆れた思考も廻らせたが……『その子は女神様が遣わした“助っ人‼︎”』……とも捉えられなくは無い。


 そう割り切った——


 心細い単独異世界巡り——を考えると……まぁ、ありがたい事でもある。


 ただ……




 彼女を見た瞬間から……カエの中で、ある1つの疑問が生まれる——





 それは……





















『彼女は一体、なのか——?』 





 ……to be continued——





———— 第0章 プロローグ 完 ————







 

 

 

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