第15話 下僕とスキルと幸せを運ぶ壺
——そもそも、この世界の人々にとっての“力”とはこのステータスボードのことを言います。
憔悴しきったカエをそっちのけで、女神ルーナは問答無用で説明を始めた。説明パートの再来——
ステータスボードが2つに分離すると、片方にルーナの説明文章。そしてもう片方には、先程のステータス一覧が表示されている。ただ……
(あぁぁ……下僕に書き換わってる……)
“先程の”とは言ったものの若干の変更点が……ご丁寧に『信者』が『下僕』に書き換わっていた。憔悴するに至った口論の一言をムダに有言実行——
カエのストレスを促す一因となっていた。
(この女神、なんでこうも…………ッチクショ——!!)
女神に対し内心で叫ぶ——
だがしかし……そこには、苦言を呈したいところであるものの、ここは沈黙だ。
理由は、これ以上——場を悪化させたくないためである。そもそも、そんな気力は今のカエにはない。
要は現状、説明を黙って視聴するのが無難だということであった。
——この世界で生きる者が、例えば魔物なんかを倒すことによって、魔物の保有する魔素……う〜ん? カエさんにはEXPだと考えていただければ解りやすいと思いますぅ~……それで〜〜その魔素(EXP)が倒した対象へと譲渡されるんです!
「——で、一定数でレベルが上がると?」
——その通りですぅ〜! わかってるじゃないですか~カエさん。パチパチ!!
つくづく、RPGみたいな世界である。ゴブリン、スライムがいる時点で十分RPG臭、ぷんぷんであったのに、レベル的概念まで持ち込まれていると来れば……もうビックリであった。
それに、この女神——いちいち、人を小馬鹿にしないといけない病気か何かなのだろうか……?
もう既に、“こんなやつ”だと割り切れているため、軽症で済んでいるが多少はまだ、イラッ——としてしまう。いや、正確には多少ではないが……何とか堪えている……? と、言う方が正しい表現かもしれない。
だが、そんなことよりもだ……
「レベルが上がってステータスが増す……まぁーこれに関してはいいです。ですが、この項目の幾つか、斜線で数字が無いのはどういうことですか?」
現状のステータス一覧には何個か斜線が引かれ、数値の明記がない項目がある。
一部、上昇したものに関し、newとあるものはレベルアップの恩恵によるものと断定出来るのだが、謎の斜線には予想がつかないでいた。
そもそも、こんなステータスだの——数値だの——自然の摂理ガン無視現象自体、謎なのだが——
しかし、それに対してルーナはまたもトンチンカンなことを……
——今ワタシ、この世界の主体がこのステータスボードだと言いましたよね〜? カエさんのゲームキャラの再現——実は、これ自体が外付けなんですよね~
「……外……付け?」
——再現するのに、ついつい夢中になってしまいまして……あれや〜これや〜と作り込んでしまったんです。まぁ、時間があったのもアレだったかもですけど——っで……いざ! この世界のシステムに組み込むまでは良かったんです。ただ……
「……ただ?」
「ただ」の言葉から数秒の間が開く。高々数秒……だが憔悴しきったカエには、とても長く感じる——そう錯覚する——この間が、とても恐ろしく感じてしまう。
それと……
「時間がある」というフレーズには、引っ掛かりを覚えるべき場面であったのだが……
この時のカエの精神状況では……つい、これを聞き飛ばしてしまった。
——カエさんも力を試してみて気づいたと思いますが……結ッ構、強力にしすぎちゃったんですよね〜〜ははは……! こちらの世界に合わせて数値化するのも大変でぇ〜……だって、考えてみてください。例えば、この世界の人々の平均攻撃力が仮に200だとして、100万だろうが101万だろうが対して変わんないじゃないですかぁ〜? 結局、相手は一撃で粉微塵です! 考えるだけ馬鹿らしいので、非表示にさせて頂きました〜〜まーる……っとぉ〜
「……………お……おま、おまえぇぇ……オーマイガァァット………」
——ハイ! 私は神です! ドヤ〜!! よろこんでもらえて感無量ですぅ〜
「……イヤ……そうじゃねぇ………そうじゃないんだ……(俺は呆れてんだよぉぉぉぉぉぉ!!)」
本当にくだらない理由(ワケ)があった——
カエは項垂れて地に突っ伏すばかりで、そんな彼女の体は震えている。
それを、見下ろすかのように“ルーナの言葉が綴られた方の画面”……もう長いので、仮に“ルーナ画面”と呼ぶが……
これがまた……ドヤドヤしてるオーラを醸し出すものだから、オマケに爆笑してるかのように小刻みに揺れてる様がカエの苛立ちを後押しする。
それにはもう、呆れムーブが加速の一途を一直線であった。もう暴走族も顔真っ青の爆走状態である。
人によっては「チート能力キタ——!!」っと喜ぶ馬鹿も、居るかもしれん。
だが……
お浚いでもあるが、カエにとっての1番は………“平和的日常”なのだ。そこに、身に余る力など要らない……
しかもだ……ルーナの説明が正しければ、ただでさえ アビスギア世界の力があるにも関わらず……+αでこの世界の力の分(レベルアップ分)、更なる力の増幅が望めてしまうとの事……ではなかろうか——?
古今東西、身に余る力というのは身を滅ぼす——っとはよく言ったものだ。
周囲に力を知らしめれば、それ目当てに利用せんと欲する、貪欲な奴に付け狙われるは——力を畏怖され恐れられれば、世界全てが敵に回り兼ねない……全力で殺しに来るかもしれない——はたまた、力に溺れて化け物か——?
身を滅ぼすとは、そういうことである。そもそも、力を衒らかすして傲慢な態度で傲ってる奴には、碌な奴が居ないと思うのだが……
カエはこの……己の強力過ぎる力に、どう向き合って行くべきか——?
実に厄介な問題である。
だが、少なくとも傲慢に傲るような行為だけは絶対にしない——そう誓おう……
なるべく力を隠し、目立たない行動が目下の目標になるのではないか——と思っている……まぁ、己の力との向き合い方は、そんな所であろう。
——そしてですね〜レベルアップの際、スキルポイントが配らたと思います!
気づけばルーナは説明の続きを再開していた。この女神……足早に説明を終わらしてしまおうとの腹積りか——? 彼女の、カエに対しての全く配慮が無い様は……まるでそうとしか思えない。
——スキルポイントは、ポイント消費でスキルを覚えることができます! スキルとは、この世界の人々にとっては重要な力で……技術? まぁ、技の用なものです。強力なもの程、ポイントの消費が激しいのと、上位のスキルを覚える為には下位スキルを覚える必要がある——といった制約がありますが〜まぁカエさんなら大丈夫ですよ。適当に試してみてください。
なぜか、説明が投げやりになりつつもある……もしかすると、
といっても、まだ説明しだして数分程度にも関わらず……だが、ルーナの性格ならあり得る仮説……か?
まぁ……ルーナの足早な説明を紐解くと、要するにレベルアップでポイント獲得。使用でスキルと言う名の能力が手に入り、強化の仕様が“スキルツリー”といった感覚だろう——これもRPGらしい感じの仕様だ。
ステータスボードにもレベルが上がったことにより、スキルポイントの上昇は確認済みである。
ただ……カエのステータスには既に幾つかのスキルが備わっていた。
それも“全”だとか“極”だとか“神”だとか……ご立派な表現が付け加えられたものが幾つも……
想像だが——これらは、とんでもなく強力な代物なのでは——?
一体、これは……
——カエさんには、すでに何個かスキルを初期ボーナスとしてプレゼントしときましたぁ〜!! 言語理解はこの世界で生きていくには必須ですし〜〜あとのはゲーム再現の為にご用意致しまし〜た! フッフッフー!! 私……できる女ですので、アフターサービスは完璧です〜泣いて喜んでくれても良いですよ〜〜? へへへ……!
ちょうど、カエの渦中に過る疑問に答えるかの様にルーナから補足が入る。
ルーナの軽口には若干、鼻に付いたが……そこはスルー。だが、これにより至極、納得がいった。
と言うのも、カエにはどれも心当たりがあった為である。
ゴブリンを見つけた時の“視覚”——“想像しただけで実行”できてしまった、達人を思わす“剣技”——あとは飛び散る血肉、臓物を見ても平気だった“精神力”——
どれも、力の検証で発覚に至った能力の数々——
これらが、スキルにある〈精神耐性〉〈心眼〉〈刀剣技術〉〈空想模倣〉による効果と一致するのではなかろうか——? そう、カエの中では結論付いていた。
そして、あと残るスキルと言うのが……
——なんせ、私の加護までプレゼントしたのですから! 感謝しないわけ無いですよね——?
「……加護?」
ステータス画面の項目のひとつには、〈ルーナの加護〉とあった……これと同調するかの様に、スキルにも同名のモノが……
「これ……どんな効果が?」
——持ってるだけで幸せになれます! あと、運が良くなります! ドヤ〜〜
「……………クーリングオフで〜」
——無理で〜す♡
(やはりコレも呪いだったのか…………)
スキルで唯一残されていた“加護”の説明にカエは正直ドン引きである。
まさか『幸せになる壺』と対して変わらない能力だと誰が予想するだろうか——?
腐っても女神——ならその加護は、どんな素晴らしい効果が——!? と期待に胸を膨らむ心持ちだったが……蓋を開ければコレ……?
「運ってなんだよ!!」って話だ。
まぁそこに、言っても対して期待はしていなかった。悪い意味で予想通りである。
そして、もう一つ……
残されたのが、薄っすら半透明で、スキルの最後に連ねる“深淵の歯車”なのだが……
——ちなみに、スキルにある“深淵の歯車”はゲーム再現のシステムのことですので、そのつもりで〜
だそうだ……つまりゲームメニュー画面だとか武器、アイテム、【アビスギア】でのスキル……あの辺りのことを指しているのだろう——よく理解していないが、そう思うことにした。
カエもまた……大分女神に触発され、投げやり思考になりつつあったのだった。
と、ここまでがおおよそのステータスボードの概要になるのだが……
カエの総評をまとめるとだ………『女神ルーナは信用するな——期待をするな——!』である。全く、ステータス云々と関係ない感想……
コレ(女神ルーナ)がこの世界を統べる神だと思うと凄く不安だ——この先、平穏に暮らせる未来を想像できない……本当に大丈夫なのだろうか——? そう、カエの心情を憂慮の念で埋め尽くさん——っと頭を抱えるばかりである。
と——カエが今後を不安視していた、その時……
——っとまぁ〜こんな感じですかね~あとはカエさん自身で色々と…試し…て…………ってあの子達……あそこで……何して……?
「——ッ?」
ルーナ画面にちょっとした変化が……
なんと、ルーナ画面の文字が途切れ途切れに……ましてや、会話が噛み合わなくなる。
それはまるで、カエとは別の……『誰か』に気を奪われたかのような………
——って……ッッッ!! イヤァァァァァァアアア!! あの子達……なんで急に喧嘩し始めたんですかぁぁぁぁあ!! よりにもよって塔の前でだなんて!
と、画面上の文字が絶叫しだした——なんか、こう……トラブルであろうか……?
「——ど……どうしました?」
——ど、どど、どうしたも、こうしたもありません!! あの子達……いえ、【勇者くん】と【魔王ちゃん】です!! 何故か、おふた方が——私のお家の前で喧嘩しだして……と、とにかく大暴れしだしました〜!!
「——ッ! ほほぅ!! それはとても喜ばしいことですね! もっとやってしまえ~」
——ぜっっっっんぜん嬉しくないです!! 人事……いや、“神事”? だと思って喜ばないでください!
どうやら、件の勇者、魔王がルーナ宅の前にて暴れているらしい。
ここまで散々ルーナに精神を擦り減らされてきたのだ。いい気味だと、少しは嬉々として喜んでもバチは当たらないだろう。
〜〜他人の不幸は蜜の味!!〜〜
だが、勇者と魔王って仲が悪いのか……? ルーナの話からは、そんなニュアンス……感じなかったのだが……そこが若干、カエにとって懸念案件である。
——イヤァァァァァァアア!!!! こ、こ、ここでそんな魔法は、使っちゃ駄目ですよぉぉぉぉお!! わたしの家が壊れりゅぅぅぅうううう!!!!
————ぷつん—————
そして、遂にはルーナ画面が、消えてしまった。
問題対処にでも動いたのだろうか——?
だが、これにはカエ自身には関係のないこと——説明も聞けたし、多少の溜飲が下がったことで良としよう。そう、カエは気分を切り替える。
それでだ……
このステータスボードに関しての対処なのだが、最終的に下したカエの答えは………
「………まぁ〜現状困って無いし!! 保留!!」
考えるのをやめ、画面を閉じてしまった。
現状、“ゲーム再現パワー”で事足りているため、放置するに決定。
何か困ったことに直面したときの、打開案の1つとして封印するのであった(“ルーナの下僕”という現実を見たくないとも言える——)。
以上——
【チュートリアル終了】
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