第13話 レベルという概念

「——ッ! 今のは……!? ——なんだって? 今なんて……?」



 『レベルがあがりました!!』と……確かに、そう聞こえた——聞こえたと言うより、脳内に響いた感覚か……? 


 唐突と脳内に響く、例の機械音声ガイドの声……

 それは、先ほどのアラーム音とは、違い……カエの想像の埒外からによるモノ……それに、何やら聞き慣れない単語が——



 たったの一言——



 それが、彼女の驚愕を大いに掻き立てた。

 

 更に、そこには……



「でも、待って……今の声——今までのと……違って……」



 どうも、その声音に聞き覚えがない——というのも、システム起動時とはまた別の“声”であったことが、カエの気にとまる。


 それが……一層、彼女の不安を煽たのだ。


 何気ない変化なのだが……そんな些細な事でも、そこには重大なが隠れているのでは——? と、カエは敏感に反応してしまうのは必然……


 ただでさえ……に突出しているはずのメインシステム《ダイヤモンドダスト》が——異常なまでの殺傷力を発揮し……それを、目の当たりにしてしまったカエは——その、異世界ゲームバランスの崩壊に直面している真っ最中だというのに……

 


 ほんとに……次から次へと呆れの種が尽きない世界である——

 


「——はぁぁ……もう〜……次から次へと……そもそも、レベルって——?」



 カエは一体いつまで“転生特典”とやらに悩まされたらいいのだろうか……?


 そもそも……


 

 『レベルがあがる』とは——?



 根本から言ってしまえば【アビスギア】には、経験値によるレベルアップという概念がない——

 武器の攻撃力、戦闘服の防御力、スキルの有無での会心率やダメージ倍率が、大まかな【アビスギア】のステータス値といったものだ。

 また、『HP』と技を発動させるのに使用する『EP』(エネルギーポイント)が一律で1500と表記されていた。

 主だっては、武器——戦闘服——といった、装備を強化することでステータスの上昇を促せるのだが……

 あとはメインシステムによって+αでステータスに補正が付くぐらいか(防壁の《ダイヤモンドダスト》なら防御に“+補正”といった感じだ)。

 

 装備に関して言えばLevelといったものがあるには——ある……

 ただ……これを、上昇させるとなると、必要となってくるのは素材とゲーム内のポイントだったりするため——敵を倒して『レベルがあがった』とはならない筈だ。

 そもそも、カエの現状装備はLevel MAXなので、これ以上強化はできない。


 ここまで色々と自分の能力について試し、実験を繰り返してきたことで——己の力が、ゲームを忠実に再現していること……これには、カエも非常に関心していた(もはや関心を通り越し呆れっぱなしだ)。

 しかしそれがだ……ここに来て、イレギュラーな“レベルの概念”の発生が、どうもカエには腑に落ちなかった。


 ゲーム再現の根本が瓦解してしまう——アクションゲー再現にRPG要素が無理矢理突っ込まれた感じが……


 どこか嫌な感じで解せない——


 いや……元がRPGの世界にアクションゲームで放り込まれているだったか……?

 どっちが元か——最早現状のカエには理解が追い付いてこない……

 


 世界観の崩壊——? 混ぜるな危険——?





 ——本当に、あの……めがみ…は……





 そんな状況に——カエは、内心で文句を連ねたい気分に駆られていると……



「——ん? ……レベ…る——?」

 


 ふと……文句をぶつけてやりたくなった相手——“女神ルーナ”の顔がちらつく。


 それは、何気ない偶然ではあった。


 しかし、その瞬間——チクリ——と何かが引っかかった……気がした。


 『レベル』……つい最近何処かで聞いたことのあるフレーズだと、この時になって気づいてしまった。



 それについて、最近で思い当たるのは……そう、ぐらいであろうか——?



「——そういえば、最後に何か言ってたよ〜な。たしか……」





『——あ! そうでしたぁ〜。この世界には“レベル”というモノがありますぅ……』




「——ッあ」



 記憶を漁り始め暫し……漸く、思い出すに至った——




 ルーナの去り際の言葉『この世界にはレベルがある』ということを——





「そうだ……思い出した——あいつだ! 女神ルーナが言ってたんだ!! ………絶対、何かあると思ってたんだよ——クソ! 思い出せ〜〜あと……何て言ったっけ……“アイツ”……?」





『その確認は『ステータスオープン』と念じていただければできますのでぇぇ〜♪』


『ッえ……? なにそれ?』


『それではぁ〜♪』





「………」



 確か……そんな感じの事を、ルーナは言い残して去っていった。

 不安な予感しか感じ得ない一言を——


 今に至るまで、試行結果のあまりの突飛さが思考を混乱させ——さらに言えば、この件を後回しにしていたことで、すっかり忘れてしまっていた。

 今になって、「レベル…云々——」と聞かなければ、カエが思い出すことは——恐らく、なかったであろう。


 

 そして、思い出したのなら取る行動は一つだ。



「はぁぁ——ッ…………」



 カエは、長い溜め息と共に、素っ気ない態度で「ステータスオープン」と呟く——

 そして例のごとく……またしても宙に浮くガラス板が姿を表すのだったが——


 しかし、その見た目は——以前のSFチックなものに比べ、身に纏う雰囲気が違う。例えるなら、それはどことなく、昔ながらのRPGの様な趣を醸し出していた——


 覗き込んで見ると、これまたカエ自身の詳細であろう文字羅列が、そこには記されている。



================================


 名前   カエルム

 レベル  1 → 2  new!!

 職業   女神ルーナの忠実なる信者

 加護   女神ルーナの加護

  

 HP   1500

 MP   1500 → 1503  new!!


 攻撃力 ———— 

 耐久力 ————

 瞬発力 ————

 魔力    24  →  27   new!!

 精神力  204

 運     50

 

 スキル

 言語理解(全) 精神耐性(極) 心眼

 刀剣技術(神) 空想模倣 ルーナの加護 

 “深淵の歯車”


 スキルポイント 0 → 4    new!!


================================



 ざっと内容がこんな感じなのだが……



(——はい〜〜〜ツッコミどころが〜〜満ッ載ッ——!!︎)



 造りは至ってシンプル——RPGでのステータス……と言えば、まさにこんな感じであろうか——?

 よく……転生ものの小説なんかでも、こんなモノを目にする。

 だが、その関心を他所に……どう考えても、突っ込んでくださいと言わんばかりの部分が、文字列の中に幾つも存在していた。



 とりあえずは順に確認していこう——



 まず名前は、女神に名乗った【カエルム】……ここは問題ない。

 次にレベルだが——1→2となっている。

 これに関しては、今しがたの『レベルがあがった』とは……正に、このことを指しているのだと推察できる。

 これも今ある情報からは、対してツッコムことは、特にないので保留——

 

 しかし……



 いよいよ問題なのが、次だ……



「職業……女神ルーナの——“忠実なる信者”——?! ッなんだコレ!!」



 職業の部分に『女神ルーナの忠実なる信者』とある。


 これには——もう、わけがわからない。


 特にあの女神に忠実でもないし、信望した記憶もないのだが……これには、あの女が適当書いたとしか思えない——


 あの女神は——馬鹿なのだろうか……?


 そもそも信者とは——職業なのか……?


 そして、それに連なる加護にも女神(アイツ)の名前が……



 カエは呆れながらも……どうしても、ソレが気になってしまい、数秒に渡って、加護なる文字を睨みつけていた。

 そして……何を思ってか——加護の項目に触れてみる……すると、なんと説明文らしき文章が——


===============================


 【女神ルーナの加護】……偉大なる見目麗しの美女——! 女神ルーナ様の神聖なアリがた〜い加護 ♪  女神ルーナ様に信仰深い信徒にのみ与えられる……!


===============================


「——うん……“信仰深く”ないし、“信徒”でもないから——こんな不明瞭な加護……?」

 


 説明文にムッ——として、思ったことをそのまま口に出すカエ……

 

 するとだ……文章に追加が……


===============================


——この加護は神聖な力によって、あなたとの繋がりが非常に強固です。外すことができません。「消えてくれ——」なんて罰当たりですぅ〜! 加護を与えてくださった女神様に泣いて感謝しましょう!!


===============================

 

「——ッ!! ふざけるな! こんなの、じゃなくての間違いだろ——!!」


……ッガァン————!!



 叫びと共に、カエは思いっ切り画面を殴りつける……が、そんなカエをあざ笑うかのように画面には傷一つ付かない——

 まぁ、わかってはいたことなのだが……この怒りを、とりあえずどこかにぶつけたかったのだ。

 


 しかし、全然スカッとしない——

 


「これって……明らかに、あの女神——何処かで見てるだろ?」



 説明文がカエの呟きに反応するかのように変化し、会話が成立してしまってる。

 このことから、本人ルーナがカエのことをどこからか見ているのでは……? そんな気さえしてしまう——絶対に、面白がっての返事——


 であるなら、その事を念頭に入れるべきか……これ以上喚いては、あの女神の溜飲を下げるだけな気がするので、この件はもう放置しよう——

 そう、カエは気持ちを切り替えていく……


===============================


——無視しないで下さ〜い! 女神ルーナ様が悲しんでしまいま〜すよぉ〜!! え~んえ~ん!


===============================


(……うん。放置しよう)




 では、次の項目——

 

 加護の後には“ステータス”の項目の羅列が続く——レベルが上がったからか、一部能力が上昇したことが記されていた。

 だが、ここにも、ちょっとしたおかしな点が……



「……う〜ん……何だ? この斜線——?」



 項目の一部が、何故か斜線が引かれ、数字が非表示となっている。



「どういう意味だ……? これ……? 現実世界で攻撃力とか〜意味わからないことなんだけれども〜……数字がない? う——ん?」


 今に至るまでのゴブリンの試し切り。その感覚から言えば攻撃力なんかはかなり高いと予想されたが、まさかの非表示——?

 

 これは、高すぎて非表示なのか——?

 

 【アビスギア】が、この世界に対応できないのか——?

 

 ただ、HP・MPが1500と初期の段階であるのだが——MPとは、何か知らないが……数値が同じことから、これは【アビスギア】のHPとEPと同一の意味合いなのではなかろうか——?

 そして、項目の1つが……まさか“魔法”まで使えてしまうのか——?

 

 それから……運とは——?


 このステータスを考察するだけで、どうしてここまで“疑問”を生むのだろうか——? 



 そんな謎の数々が……カエを混乱の渦中に引きずり込んでいく——


 

「——流石、あの女神の世界だよ……」


===============================


——何、呆れてるんですか!? もっと 心を込めて褒め称えてください! 神様を蔑ろにしないでくださいよぉ〜! カエさんは、しっかりと信仰心を持って私の偉大さを……


 ===============================


 ガンッ———!!



 そしてカエは…………再び画面を殴りつけた。




 



 

 

 



 

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