第11話 ゲーム内アイテムと新たなアイテム

 前世を含め——カエは記憶を振り返る限りでは 感触として初めて……を殺した——


 それも 魔物といえども“人の形”をしたを……

 


 命を奪うのに使用したのは 刃渡りが120cmはゆうに超える大太刀——

 


『刃物で 命を奪う』



——こう なんと表現したものか……


 

 こういう時 何かしらの衝撃が……



 刃を———— 手を————

 


 そして……腕を通して————



 身体に伝わるものだと思っていた。

 


 しかし……実際は——





 およそ、武器の性能が良すぎたのだろう。



 一切のブレがなく……驚くほど静かに 対象の命脈を断つこととなってまった。

 




 武器モ 己自身モ ナント卑怯ナコトカ——









 ——と、そんな暗い思考を巡らせてしまったが……呆けたって仕方ない。


 それにだ……不思議と怖いぐらいにカエの心は落ち着いていた。



 一刀両断されたゴブリンは地面に転げ落ち、臓物を切断面から零れ落としている。

 あたり一面は血溜まりが広がり赤で地を染めていた。

 迚もじゃないが、モザイクなしでは見てられない状況がそこにはあった。

 こんな時……てっきり、少なくともでも込み上げてくるものかと思っていたが……不思議と、そんなことにはならなかった。

 たしかに、見ていて気持ちのいいものではない——見ないで済むなら、そうしたいとも思っている。


 ただ……決して見ていられなくは……ない。全然、耐えることができている。


 そもそもだ——いきなり森の中で目を覚ましてからというもの、多少パニックには陥っても、そこからの回復はやたらと早かった。


 女神との邂逅でも——そうだ。


 カエは重度の人見知りで——特に極度的に女性に耐性がないのだが……

 それにもかかわらず——あれ程の美女と、普通にスムーズな会話ができている。転生前のカエには考えられないことだ。

 いや……女神に関して言えば『無知』『驚愕』『怒り』『呆れ』等々——多数の感情が錯綜とした事が、大きく影響している気がする……か……?

 


 もしかすると……



 これらの事象は『特典』が関与しているのではなかろうか——?



「はぁぁ……もう、疑問は全部……ってことにしておこう——考えたって仕方ないし、そんな時間がもったいないな……」



 技術力——身体能力——武器の威力ときて……そして精神力——


 これら全てがからくるもの……そう仮説立てるのが1番しっくりくる。しかし——答え合わせができないので、この件でこれ以上考えたって仕方がないのが現状だ。

 


 それよりも——能力の実験を続けよう。

 




 いつまでも……ゴブリンをこのまま放置しておくのは、忍びない……

 幾ら平気でも……嫌悪感はたしかに感じるのである。



「——ゲームを再現されてるんだったら……」



 ふと……カエに思い至る事があったので、それを実行に移す。


 彼女は死骸に向けて、右手を突き出し掌を広げ——そして、想像する。



(——潰して砕くような感じ……? ゲームであったような、感覚を……イメージ……する)



 すると次の瞬間……光を発するはずのないゴブリンの遺体が、赤く発光しだしたのだ。

 それを確認したカエは、それが当然であるかのように——“握りつぶす”イメージを頭に思い浮かべ……思いっきり、手のひらを握った。


 すると……



——ッバリイイーーーーィィン!!



 ゴブリンがガラスの破片となって大きな音と共に砕け散る——そして、破片は輝きを放ちつつ宙に溶けて消え……あとには2つの光の珠が浮いていた。


 カエはその物体を視認すると、突き出したまま固く握られた手を、浮遊する珠を引き寄せるようにして振るってみせる——

 珠はまるで、指先から伸びる糸に引っ張られるかの様に、手の動きに呼応し

——やがて、カエの身体へと吸い込まれていった。



「——ッ……! ッできた……本当に、ゲームと同じだ!!」



================================

-------ログ-------

        :

        :

-------敵を確認

   >>>>ゴブリン2体と断定——


〈!〉ゴブリンが

   コチラの存在に気づきました。

   >>>>戦闘を開始——


-------ゴブリンを倒しました——


-------ゴブリンを倒しました——

   >>>>戦闘終了——

   >>>>討伐タイム 8.24秒


-------ゴブリンを Enemy–Break‼︎

   >>>>アイテムを獲得しました

   -------ゴブリンの犬歯×8  New!!

   -------魔石〈極小〉×2  New!!

   

================================

 


 今起こった事象は、アビスギアのモンスター素材獲得の一連である。つまり今、カエの身体に消えていった珠がモンスター素材であったと言うわけだ。


 もしかしたら出来るのでは——? と思い付いたカエだったのだが——すぐ実行に移してみれば、ものの見事にできてしまった。


 先程、オプションメニューの項目を弄った際に、ログの画面をアクティブに設定しておいた。よって現在、視界の端に小さくログ画面が表示されている。

 注視すれば拡大も可能——大体、起きた事象や行動はこのログ画面に随時記録されるわけだ。

 そして……記録項目の最新には今獲得したアイテムが表示される。“New”とあるのは、このアイテムを初めて獲得したことを表す——【アビスギア】には“ゴブリン”なんて生き物は出てこないので、これらの素材が“初入手”なのは当然であった。


 ちなみに、オプションメニューにあったアイテムの項目だが——

 これを開いてみると……ゲームでの入手アイテム、素材等の一覧が表示された。

 ざっ——と見た感覚ではあるが、ゲームで入手していたであろう素材が、おそらくすべて揃っているみたいで——

 それを、実際に選択すると……出し入れが…………普通に、できてしまった。


 武器を装備できた時点で薄々は気づいていたが、ゲームのアイテムを現実で出せるとは……本当に馬鹿げた話である。

 モンスターのや、なんてのもあったのだが……これらは、いったい何でできているのか……


 謎である——

 


 と、そんな時——



『ピッ——ピッ——!!』


「——ッ!?」


------探知エリア内に敵性生物の侵入確認

   >>>>>>>個体名ゴブリンと断定——


    ------詳細を表示しますか?     


             (yes / no)



 カエの脳内には——アラーム音と、音声ガイドが流れる。

 そして、いつの間にか目の前には——鳥……を模した見た目の“機械”が浮いている——まるで今の今までそこに居たかのように……



 その機械の鳥からは光のコードが伸び、刀同様にカエの戦闘服と繋がっていた。

 いきなり響いたアラーム音(実際は警報音なのだが)に驚きはしたものの——それで、カエは混乱に至ることはなかった。彼女はは事前に知っていたからだ。



 【光学迷彩搭載飛行型装置こうがくめいさいとうさいひこうがたそうち〈探知〉】



 これは、アビスギアのアイテムの一つである。


 この装置は、宙に飛ばして扱うアイテムで——言ってみればみたいなものだ。

 これには、いくつか種類があり、今使用しているのが〈探知〉に特化したタイプ——地形データの獲得や索敵、採取素材の探知などがこの装置の主な性能となっている。

 このアイテムは使用制限が最大3つ——探知範囲がおよそ周囲500m……現在カエは周辺の情報を探るため、最大数全てを飛ばしている状況にあった。

 うち1つを、付属装備として自身のシステムと繋いでおり——こうすることで、自分の周り限定ではあるが装置が察知した情報を直接取得することが出来る。先程倒したゴブリンを見つけ出したのも——キッカケは、この装置があってこその結果であった。


 あと2つは《オートモード》に設定し、適当に周辺を飛んでもらい情報を集めてもらっている——ただ、こちらに関しては、情報の抽出をする為の端末設備の設置が必要となっているのだが——それは追々……


 そして、『光学迷彩搭載』とあるように、普段は視覚できないようにしていた。今の今まで……存在を視認不可であったトリックは、このため——

 そもそもからして、こんな見た目“機械鳥”が、周辺を飛び回っていては目立ってしまうのは必然——索敵時に、敵に気づかれてしまっては元も子もないのである。

 

 と、長い説明となってしまったが、機械からの問いかけに対して、カエは迷うことなく(yes)と念じる。

 すると、ログの画面に重なる形でもう一枚の画面が現れた。

 中心には青い二等辺三角形、そこから放射状に線が伸び4方面にはそれぞれ『S』『N』『E』『W』の文字と画面の端、丁度『N』の文字のあたりに赤い丸が4つ映し出されている。

 この画面は、自分を中心として真上から俯瞰した簡易的なマップなのだが……文字はそれぞれ東西南北(異世界に方角の概念があるのか知らないが)を表し、『N』に重なる赤い丸がゴブリンであると思われる。

 画面の端——赤い丸の位置は、おそらく装置の探知範囲500mの距離——であるなら、まだ距離的余裕は感じられる。



(——ッよし! 丁度いいから、“システム”の方も試してみるか……これが機能しないと、戦闘スタイルをから変えなければならないし——)



 カエの認識では、ゴブリンとは繁殖力が強い生き物——そもそも、2体だけのはずがなかったのだ。

 そんな、予期せぬゴブリンの発見——だが、カエはそれを好都合と捉え、試みの続きに乗り出す。

 先のゴブリンに対しては、初の試みも相まって、それなりの緊張感を持ち、慎重を期して行動に移した。

 だが今度は……カエは大胆にも正面から迎え撃つ——今更ながらだが、あそこまですんなり倒せてしまうのなら、あんなに臆病になる必要もなかったのだ。


 今のカエは武器の一切を納めた、無手の状態にある。そのままゴブリンの接敵まで、彼女は場を動こうとはしない。



「「——ギャギャギャ……」」

「「——ギュッギュギャ……!」」



 暫く不動をつらぬく——


 だんだんと近づいてくるゴブリンの声——しかし、それでもカエは武器をまだ抜こうとしない……そこには彼女なりの考えが混在していた。


 そもそも……



 今回——カエは武器を使う気は微塵もなかったのだ。



 なら……彼女は一体、どうするつもりなのか——




「——システム《ダイヤモンドダスト》——スタンバイ……」



——イエス マスター


——メインシステム《ダイヤモンドダスト》

  起動準備>>>>>>

——開始————


——16%………42%……73%……98%…


………100%———------完了しました——



 カエが言葉を口にすると、眼前に掌を甲が下に向く形で広げた。


 すると……


 機械音声が『完了しました』と言い終えた次の瞬間……



 そこにはが掌の先に顕現——浮遊していた。




 

 





 

 

 

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