第8話 オプションメニューはタッチパネル
女神ルーナは、消えいく最中に気になる言葉を残していった——
「——はぁぁ……あの女神は……」
それに対し、“カエ”は顔に手を当て首を振って呆れたポーズを見せている。更には、思わずため息までもが、彼女の唇から零れ落ちた。
最初から最後までの説明内容ラインナップは、どれも驚愕過ぎた。
恐らく、最後の一言にも……きっと、なにか重大な真実が含まれているに違いない……
カエにはどうも、そんな気がしてならなかった。
いや……確実にある——と思っておこう。
そんな、訳の分からない確信が脳裏に沸いてしまう。
まぁ……その辺は、おいおい解ること……
女神ルーナに聞かされた力の使い方——それを今から試せばいいだけの話だからだ。
呆れた情を振り払い、カエは先ほど受けた説明を振り返ってみることにした。
(力の使い方……確か、“システム---起動---開示”と念じるだったか……)
「——システム……起動……」
------声帯音声を確認------
>>>>>>メインシステムにアクセス
>>>>>>>>>>>>起動します————
——キィィィィィーーーーーーン!!!!
ルーナに言われた通り、まずは声に出して先ほどの言われた言葉を口にしてみる。
すると……何やら、機械音声ガイドの様な声と共に——装置が起動したかのような『キィーン』という音が周囲に響き渡った。
そして……カエ自身の身体から、蒼白い光の粒子が溢れ出した——
その粒子は周囲に終始広がりを見せる……かと思えば、その輝きはすぐに消えてしまった。
一瞬の輝き……起動音も同じく、数秒後にはやんでいる。
「………【開示】」
-------マスター項目を開示
>>>>>>表示致します————
続いて、空かさず【開示】……と言い切る。すると……
彼女の直ぐ目の前……そこには……
1枚の“ガラスの板”らしきものが出現した。
唐突に出現したそのガラスの板は、非常に薄く……薄っすらと青く——それでいて透き通っていた。
それは一見、画面のようにも見て取れる……浮遊物体——
「——ッうぉお! なんだコレ……!?」
急に目の前に現れたガラス板に、カエは驚愕の声を上げる。
そして……恐る恐るといった様相で、それを覗き込んだ。
そこには……
その板には何やら文字のようなものが見て伺えたのだ……しかし……カエにはなぜか——その文字の羅列には見覚えがあった。
アビスギアの再現……漸く、その真価を知ることとなる——
「——これ、あれか……オプションメニュー画面……?」
そこには、アビスギアでよく見知った、オプションメニューが表示されていた。
見知ったと言っても……そこには、画面調整や音量設定を調節する“オプション——システム調整”の表示がなくなってはいる。
そんな違いは有れども、羅列の項目は大方同じようには伺えた。
内容は以下の通りだ——
================================
------ステータス
------装備
------アイテム
------調合・合成・創作・分解
------武具カスタマイズ
------スキル構成・スキル成長
------メッセージ・メール
------ログ
------任務依頼
================================
仮に、この項目がゲームを忠実に再現されているのであれば——それらの内容は、カエが知るものであるはずだが……
一目見た率直な想像ではあるが……ここまで、メニュー画面を再現しているのなら、内容も同一だと思える。
しかし……
「……で……これ、ど〜したらいいの……?」
イメージがしやすい点に関しては有り難い。
全くの無知であるのとは比べるべくもなく、見知った画面を目の当たりにし、少し、ホッ——としていたほどだ。
だが……カエには、そこからどう操作していいのか分からずにいた。
カーソルがあるわけでもなく……
そこに画面が浮いているだけ——
強いて、コントローラーがあるわけでもない。
そこにガラス板が浮いているだけで——……
それ以外は、全くと言っていい……何も存在していない——だが……
“画面”と聞いて——想像する物といえば……
カエは、恐々と腕を画面に伸ばし……そして、表面に触れる——
すると、不思議と触った感触は——返ってこない。だが、そのまま画面を突き抜けたりすることはない。不思議な感覚が彼女の腕を伝う。
どうやら、それは“幻覚”といったことはないようだ。
“そこには確かに画面が存在する”
------装備>>>>>>表示します————
「——ッおお! ……反応した!?」
触れた瞬間、再び音声が響く——そして、画面項目に変化が生じ“装備”以外の文字列が消えた。
そこには、『装備』の二文字が画面左上に捌けるとともに、次の瞬間……空いた余白のスペースには、装備内容の項目が並んでいた。どうやらこのガラス板は、“タッチパネル”に近いモノのようだ。
“画面”から連想を広げた結果、導き出したのはスマホやタブレット端末——そこから、試しに触れてみることに至ったのだが……
その過程で……さして、どの項目に触れてみるとも考えておらず。どうも、触れた場所がたまたま“装備”の項目であったようだ。
そのため、パネルに表示されているのは、今現在の自身の装備一覧であった。
================================
-----装備-----
------メインシステム <main system>
>>> ダイヤモンドダスト Lv.10
================================
------メインウェポン <main weapon>
>>> unequipped
┗アタッチメント <attachment>
>>> unequipped
>>> unequipped
------サブウェポン <sub weapon>
>>> unequipped
┗アタッチメント <attachment>
>>> unequipped
>>> unequipped
------付属装備 <Attached equipment>
>>> unequipped
>>> unequipped
>>> unequipped
================================
------戦闘服 <combat uniform>
>>> 帝国式軍服-戦闘 速-蒼型 Lv.5
┗スキル-プログラム <skill-program>
>>> unequipped
>>> unequipped
>>> unequipped
------装身具 <personal ornament>
>>> リボンスカーフ 藍
>>> unequipped
>>> unequipped
================================
その項目一覧の大半には、unequipped(未装備)と表示されている。
この世界に転生を果たしてからというもの、カエの身なりは転生直後に衝撃を受けた、この戦闘服だけだった。それ以外は特に、何か武器を抱えている訳でもない……大半がunequipped(未装備)なのも頷ける。
唯一、装備されているものが“装身具”のリボンぐらい……見た目だけが、再現の体現が果たしている。
“装身具”とは、キャラクターを飾るための装飾みたいなもの……見た目だけで直接、強さに影響したりはしない。
転生体の元となった、このキャラクターは、髪が腰にまで届くほどの黒のロングヘアー。これを、頭の高い位置に1つくくりに結ばれており、そこに藍色のリボンが使われている。
「んん〜……とりあえず何か装備してみる……かぁ?」
ただ……カエは、その事には一瞬でしか気には止めず——
ゲーム好きとして、何も装備されてない項目の羅列を眺めていると……
どうも……寂しさがこみ上げてくる——要は、「おもしろくない」……そんな感情が萌えていた。
望んだつもりはないが、装備一覧項目を開いてしまった手前……とりあえず何か装備してみたいという欲求に駆られたのだ。
口に手をあて、渋〜い顔でメインウェポンの文字へと——その唇に当てた方とは別の手の人差し指を伸ばし……画面へと吸い込まれる。
そして……
------メインウェポン
>>>>>> 一覧を表示します————
「——ッ! ……ほへぇぇ〜〜これは……」
カエはつい、間抜けた声を漏らしてしまう。
何故なら……
パネルに触れると——自分のデータ……つまり転生前にプレイしていたゲーム——そこで所持していたであろう武器名が、ズラリ——と表示されたのだ。
これには思わず、変な声が漏れてしまうのも当然であった。
試しに、下から上へとスワイプしてみると、項目は指の動きに習って上へと流れていく。
カエが、その流れてくる名前をザッ——と見てみた感覚では……所持漏れ……? は、どうやらなさそうである。
「…‥ふむ………ふむ————ん?」
ふと……その時——
とある名前で、手が止まる。
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