第6話 勇者と勇者以上

 “世界観台無し女人化転生”に関しては一旦は……? という形で置いておこう——

 ここで文句を言ったところで……既に転生してしまって居るのだから、どうしようもないが故に……


 それでだ——


 次に気にしなければいけないことがある。それは、今後について——俺はどう行動すべきかの方針だ。



「——ところで、俺はこの世界で何をすればいいんですか?」


「——? 何とは……?」


「え……いやぁ……何か…こう、目的みたいなものとか……」


「いえ、そんなものはありませんよぉ〜。そもそも、あなたの転生は死なせてしまったことへの救済にあたります。強いて言うのなら『この世界で好きに生きてください』といったところですかね?」



 とりあえず、俺に対し何かを求めることがあるのかを聞いてはみたが——得にはないらしい……


 『好きに生きろ』とは、随分と投げやりな物言いである。



「色々不安はあるかと思います。私には、わかりますよ~!『今後、私はど〜したらいいんだぁあ〜』って心配してるんですよね? でも、安心してくだい! あなたに与えたには少〜し、を付けましたから!」


「——“転生特典”? ……“色”?」



 “転生特典”——そういえば、そんなことも言っていたな〜と今更ながら思い出す。


 たしか、女神の加工した力を……魂に与えたとかなんとか……

 俺の場合、ゲームのキャラへの転生が特典らしいのだが……その、おかげで“俺”は“女”になってしまった……『畜生がっ!』と叫びたい気分である——



「あなたの身体は、私の自信作なんです! ゲームキャラクターを限りなく再現してみました!」


「……はぁ!? 今、なんて言いました?」


「ですからぁ〜ゲームの再現ですよ♪ あなたが夢中になってたゲームの……! ゲームで出来たことの大抵——は、この世界でも再現できるようにしときました!」


「そ、それは何とも……」



 女神の説明に……俺は、つい言葉を失ってしまった。

 現実に【アビスギア】を再現……何とも無茶苦茶な話である。


 『よくそんなことができるな』と驚きが半分——


 『RPGにSFアクションゲーを再現するなよ』と呆れが半分——


 何ともとれない心情が——ゆうなれば、それらの感情が俺の中で乱れ合わさった感覚……に襲われてしまう。


 実際、何ができるのかは、あとで念入りに検証する必要がありそうだ——

 女神(こいつ)に聞くという選択肢もあるのだが……面倒くさがりのズボラな性格の女神だ——聞いたところで要領を得られないのではなかろうか……? 

  ただ、その選択肢が論外にしろ……ゲームに忠実なら、イメージはしやすそうではあるが……



「なんで、剣と魔法の世界にSFを再現するんですか!?」


「それは……あなたのことを考えてですね~〜えへへ……イメージしやすいようにと……」


「——“面倒くさかったぁ〜”……の間違いでは?」


「し…し…しょ、ションコトナイデスヨ……」



 我慢するでも無く……俺は女神にボヤいた。すると……


 彼女の返事は棒読みで、明らかに挙動不審であった……どうも、“そんなこと”もありそうである。



「意地悪なこと、言わないでください!! 今回“私にしては”頑張ったんですよぉ~!」



 彼女のセリフの “私にしては”の部分が非常に引っかかる物言いだ。それが、無性にコチラの不安を煽る——

 与えられた“力”とやらは、本当に大丈夫なのか——? 俺の不安感の増加は止まる事を知らない——


 と……その心配に応えるかのように次に女神は、とんでもないことを口走る。



「あなたには“勇者”以上の力を授けたんですよ! 感謝されるならまだしも……文句を言わないでくださいよぉ〜まったくもぉ〜」


「——ッ!? はぁぁ!! 今、何って……ゆ…!?」


「は〜い、ハッキリそう言いました〜〜〜! お耳が遠いいんですねぇ〜〜~大丈夫ですぅ〜〜かぁ〜〜?」

 


 ボヤキの仕返し……とばかりの女神のカチンとくる悪態……だがそれ以前に——

 それが一切、気に掛からないほど『勇者以上の力を授けた』との言葉の衝撃が、俺の思考を埋め尽くした。


 

「この世界って…………がいると?」


「もちろん! 居ますよぉ〜! 当たり前じゃないですか!」



 勇者……RPGや異世界ものの小説では、お馴染みでもある存在。

 主に、悪と戦い世界を救ってそうなイメージが付き纏う。

 “剣と魔法の異世界”とのことだから“勇者の存在の有無”については、思考の片隅にはチラついてはいた——それが女神の言の葉によって存在が確定に至った訳で……

 

 嫌な予感……というよりが発生した瞬間であった。



「——ッあ! ちなみに、あなたはでは有りませんよ」


「そ……そう…なんですか……」


「……え? 勇者やってみます——?」


「——ッ!? ご、ご遠慮致します!」


「ふぅ〜〜ん……そうですか……」



 そしてどうやら、俺は“勇者”ではないみたいだ。それについては安堵するところではある。

 『世界の命運を背負って戦え!』など絶対にごめんだ。『やってみます』って、聞かないでもらいたい……


 しかし……俺の不安要素というのは、それだけにとどまらず——



「まぁ……頷いたところで、そもそもあなたに勇者の称号は簡単に与えられないんですけどね〜〜一種の女神ジョークです! ……勇者とは元来、神によって“特殊な能力”を与えられた者のことを言います。転生者は、転生者で別の括りですね。転生者を勇者にすることもありますが……今回は別件ですし、この世界には既に【勇者くん】が居ますから〜関係ありません!」


「……いや……でも……に力を授けたら……それはもう“特殊”なのでは………?」


「——ふぅ〜へぇえ……??」


「……………………………」

「……………………………」

 


 お互い沈黙し、暫し見つめ合っていた。そこで俺の中では『ポンコツコイツ、ヤりやがったな』の一言しか湧いてこなかった——

 

 “勇者”の存在は、俺的にはまだ許容範囲……『そんな人がいるのかぁ〜……悪と戦う? 宿命を、背負ってる? へぇー頑張ってねぇ』程度の認識であったからだ。

 

 だが、しかし……“以上”の部分が非常に引っかかった。


 勇者は別に存在して……俺はそんな存在と、もしくはと……確実に面倒事の種であることは間違いない気がする。

 勇者とは絶対に鉢合わせしたくはないと……ただただ、思うばかり……

 

 そして……



 そんな、“勇者”が存在すると言うことはだ——



——も実在しているのではなかろうか……?





「もしかして“魔王”とかもいたりします……?」


「えぇ……普通に、いますねぇ〜」


「——ッオイ! ……まじでか——」


「——ハイ! この世界に“3人”——実在します」


「——ッはぁあ、“3人”!? え……勇者は……勇者、何人に対して!?」


「勇者は〜……“勇者くん1人”ですねぇ〜」


「……………マジか……」



 嫌な予感的中であった。



(——この世界……勇者に対して辛辣では……)




 


 


 

 

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