第5話 転生とは…?

「まずですね……転生について説明しないといけません」


「はぁ……」



 話の出だしからして……長い説明になりそうだ。



「別世界に人の魂を転生させる——というのは、膨大なエネルギーが必要なんです。そこには、女神ワタシの力を使う訳なんですが……ここまではいいですか?」


「……はい」



 俺は、渋い顔で返事を返す。



「そのエネルギーがですねぇ~ある程度、魂に定着するんです。でも、そのままだと非常に不安定で、ぶっちゃけ魂が耐えられません。どッばあぁーーーん! ってなっちゃいます」


「はぁああ!! 大丈夫なのかそれ!?」


「——ッムう……話を最後まで聞いてください!!」


「……はい……すいません」



 怒られてしまった。



「その不安定なエネルギーを私が方向性をもたせ、“加工”し、安定させたものを〜魂に定着させます。それが俗に言う……あなたに解りやすく言い換えると“異世界特典”……というものになる訳です」


「はぁー……なるほど……特、典?」



 異世界転生云々で、やたらと登場する“無双”やら“チート”という現象——

 つまりコレらが、神による“加工”なる工程からくると置き換わっていると……そう思考すると、何処か納得がいった。


 だが……



「——ッで……なんでこのゲームキャラなんですか!?」


「え〜とぉ〜……それには“加工”の部分が関係してきます」


「……加工?」



 人の魂の話で、モノ造りみたいな表現がどことなく感じが悪い。世の人間は神によって創られた的な話なのか……? スケールがでかい……



「そう〜顰めっ面にならないでくださいよぉ〜“加工”と言ったのも、あなたに分かりやすくするために用いた表現ってだけなんです!」


「——そ、そうですか……」


「それでですねぇ〜この“加工”なんですが……神によって、やり方……? と言いますか——方法……? あ〜と……説明が難しいのですが……兎に角“加工方法”が違います!」



 女神は、口に手を当て首を傾げては辺りを、うろちょろ——ながらで説明を続けた。

 コチラにとって、解りやすい解釈を思案しているのだろうが……その落ち着きのない態度に、少しイラッ——としてしまう。


 それには、神の威厳が台無しな気すらする……



「それが、どう関係してくるんですか……?」


「加工の仕方なんですが私の場合、生前の記憶を読んで、その人の“強い思い”を再現する感じですかねぇ——? 神によっては転生前に“希望”を聞いて、力を与えるやり方もありますが……手間ですからねぇ。私のこの方法が1番、面倒くさく…な……ゴホン……安定感がいいんです! 自分の能力が想像しやすいのも、転生後の負担も少ないですからね! ………本当ですよ! ……面倒くさいからとかじゃないですからね!!」


(……それは、どうだか……)



 説明を聞いて安心するどころか……不安がこみ上げる。否定してはいるが、面倒くさがって処理してる節が伝わってくる……いきなりに身体が“どッばぁーん”

とならなければいいが……? 凄く心配である。



「それで、“ゲーム”……ですか……?」


「——はい ♪  あなたの記憶を読んで、それが1番ベストだと判断しました!」



 確かに、今の説明を聞く限りで“強い存在”で想起するのであれば、ゲームは手っ取り早いだろう。基本、ゲームの中の登場人物の能力は人外であるからだ。

 ゲーム中毒の俺なら尚の事……それも直近の記憶なら必然的に【アビスギア】が該当する。


 ただ、百歩譲ってそれを受け入れるとしてだ。



 それでも、どうしても譲れないものがある……



「でも……じゃぁーなんで“女”何だよ!!」



 俺自身の身体が、転生によって“女人化”してしまっているのだ。



「そ、それは私に言われても! 私のセイじゃないですよ~!! あなた、ゲームで“女性キャラ”使ってたじゃないですか!? なんですか……“ネカマ”なんですか? 気持ち悪いですよ!!」


「確かに、女のキャラ使ってたよぉお!! 使ってたけども……! 言い方ってもんがあるでしょ——!! もっとこうオブラートに……てか、よくそんな言葉知ってるねぇえ!」



 俺は、ゲームのキャラメイクで“女”を選択していた。それには、幾つか理由がある。

 まず、この【アビスギア】……男用の戦闘衣装がやたらと、ゴツゴツ——ズングリムックリ——と、しているのだ。

 自分の使用キャラはどうせならカッコいいほうがいい(何となく見た目をネタ寄りにすることもあるが——)。ゴツゴツよりは、シュッ——と、している女のキャラ装備の方が、俺的には格好良く見える。

 

 そして、もう一つ……むしろこっちの方が重要。


 【アビスギア】は今作で7作目になる。よって、前世でハマってプレイしてたのが【アビスギア“7”】になるわけで——もちろん、前作…前々作……と、過去作からプレイしてきた。


 それでだ……


 新作が出るに連れ、操作性だったり新アクションだったり、新装備……等々——新しく追加される要素はもちろんある。しかし、どの作品でも根本の部分はさほど変わりはしない……

 すると……プレイを重ねるに連れ、ある程度熟練してくると己のプレイスタイルというのが確立されていく訳であって……


 今作の【アビスギア7】をプレイして、ラスボスに当たる敵を倒してからの、その後——

 やり込み要素の1つとして、装備を弄って試行錯誤し、スキルを揃えたり——限りなく最強に育てる——といったモノが存在するのだが……



 ここで、ある問題が発覚する。



 自分のプレイスタイルと照らし合わせ、装備の種類を調べた——で、スキルを計算し尽くし、これが俺のプレイスタイルでの最強に至るラインナップだぁああ……! 


 と——ピックアップを完了した時のことである。

 

 ある装備の説明欄に……こんな文章が……



 ※この装備は女性専用装備です。



 その当時の俺はラスボス討伐までに、総プレイ時間が100時間を越えていた。だが……1つの呪いとも取れる文章によって、俺は決断に迫られたのだ。


 ピックアップした装備のために、やり直すべきか——

 

 アップデートで、代用できる男性用装備の実装を待つか——


 もし、やり直しを実行した場合、100時間分のデータをドブに捨てる事となる。初見ではなくなるので100時間も掛かりはしないと思うが……何とも遣る瀬無い……

 

 対して、アップデートの新装備実装を待つ方法だが……こちらは賭けに近い。そう上手くはまる装備が実装されるとは限らないからだ。


 これには、俺も……悩みに悩んで葛藤した。





 その結果……を選択していた。





 つまりは……



 装備1つの為に100時間を無駄にしたのだ。





「これ、融通効かなかったんですか?」


「そんなのありませ〜〜〜ん! 手を加えるの、面倒くさいですも〜〜〜ん!」


「今……面倒くさいっつったかぁぁあ!!」


「…………ッあ……」


 (女神コイツ……ポンコツだな……)



 最早、女神に対してこんな感想しか湧いてこない……神とはいったい——?



「はあぁぁ……ちなみに今から修正することは——?」


「——む……無理です……」


「じゃあ、元の世界に戻すのは——?」


「——も……も、もっと無理です……」



 女神は目線を反らし、バツが悪そうに俺の要望を否定する。



「——で…その理由は?」


「それは……い、1度転生させてしまうとですね……再転生できなくは…ないんですが…複数の神の許可が必要なんです。その許可が降りることは……ま…ま、まずありえません! そもそも、世界を股に掛けた転生自体が……異例中の異例なんです!! ですから……戻すことも……創り替えることも……無理なんです……」



 修正は無理………薄々、そんな気はした。


 転生自体、異例だと言うし、別の神の許可というのも、転生にあたっての正当性の精査、なんかを兼ねているんじゃなかろうか。そもそも、事故と言う辺り俺の転生自体がイレギュラーなのでは……?


 ここからは仮説になるのだが——


 女神の態度からして俺の死は、彼女が原因なんだと思う。

 その問題を隠したいがため、別の神に知られたり、大事にしたくはない。だから、バツが悪そうに再転生は『無理』だと言った。

 ましてや、元の世界で転生させようにも、管轄が違うもんだからできない。そこで 『もっと無理』との表現……

 正直、彼女の失敗が別の神に知れ渡れば、再転生は通りそうな気もする。だが神々のゴタゴタに、ただの人である俺が巻き込まれてしまえば、どうなるかわからない。

 ここは穏便に、これ以上は大事にしないことの方が正解な気がする。

 

 女神に対して怒ってない……と言えば嘘になる。

 しかし、接してみた感じ、悪い“人”——ではなく……“神”ではない気はする。


 どこか憎めないと言うやつか——? 


 どことなく抜けているところや、ポンコツ具合を見ていると、何か憎みづらい……

 事実として、人が1人(俺が)死んでいる訳で、軽い話で済ませていいものとは言えない。だが、転生という形で生き返れたし『藻掻き苦しんで死んだー!!』とか、そんな悲惨な死を迎えた(そもそも、そんな記憶はない)訳でもない。


 だったら、ここら辺で妥協しても良いのでは——? とも思うのだ。


 “世界観台無し女人化転生”を、完全に納得はしていない。 

 しかし……いつまでもここで愚痴愚痴しているよりは、今後のことを考えた方が建設的である。

    


「はぁぁ……解せないな(小声)」


「はい……? 何かおっしゃいました〜〜?」


「……いえ…何も……」


「——? ……そうですか」





 俺は、自分に降り掛かった境遇を、一旦は甘受することとした。

 




 



















 





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る