第4話 “死んだ”原因——

「——ッ!? あなたが……この世界に、俺を……? しかも“転生”って……つまり……し、死んだ……?」


「——はい、その認識で間違いないかと」




 薄々はわかってた……つもりだった——


 ある日突然、森の中で目を覚まして……


 自分の体がゲームキャラクターで……


 地球ではありえないファンタジーな生き物を目撃して……



 そして……



 神秘的な樹の下で女神様と対峙している。


 これは小説のような異世界転生ってやつ何だな~と……軽い気持ちでは感じてた——と言うよりは頭が追いついてなかったとの表現が適当だろう。

 そして、何処かで現実逃避していたところもあったかもしれない。


 今、己のことを女神だと言う彼女は(現実離れな状況と、神秘的な場所に神々しい様相の女性とくれば彼女は正しく女神なのだろう)俺のことを転生させたと言った。




 “転生”……つまりは、俺は“死んだ”ということだ。


 

 改めて現実を突きつけられる。



 それなりに衝撃を受けた。寧ろ『あなたは死にました』と、言われてショックを受けないほうがおかしい。


 そもそも……前世に強い思いがあるの——? と聞かれれば、とくに思い当たることは無いが……

 いや、ゲームができないのはちょっと痛いかもしれない……あとは……妹か?



 俺には妹が一人いる——

 


 俺たち兄妹は両親を早くに亡くしていて、本当に家族と呼べるのは妹ただひとりだ。妹に俺が死んだことで迷惑をかけてしまうであろうことが、心苦しく思ってしまった。

 昔っから俺と違って、できのいい妹だった……彼女なら俺が居なくなっても、特に心配はいらないとは思うが……そう……信じたい……だけか…………





 そして、“こころ”の整理が着かぬまま女神は話を続ける。



「あなたをここにお呼びしたのは、転生するにあたっての“経緯”を説明するためです」


「——経緯……? 説明……?」


「はい! そういう決まりなので——神というのは本来、神聖な場所でしか顕現できないのです。教会に来ていただくのが、尤も好ましいのですが……あいにく樹海の中ではそうもいってられません。よって、あなたをこの場所まで導かせて頂きました」



 頭の中に響いた声は、何とも不思議ではあった……あれが神の力によるものだったのなら、あの奇怪な体験にも納得がいくのだろうか……



「この樹は 【神樹ユグドラシル】の若木——ここ周辺は“ユグドラシル”によって、私が顕現できるほどの聖域となってるわけで……」


「——ッあ……あの! ちょっといいですか?」


「……ッん? ……はい、なんですしょうかぁ〜?」



 先程から、女神様は長〜く説明を続けている。だが『神樹』だとか『聖域』なんて言われも……話についていけない。

 このままでは理解できないまま、話しが続きそうな雰囲気を醸す中……女神様に大変失礼ではあるが、俺は彼女の話しを遮ってでも——自分が尤も知りたい質問を振った。



「あの……どうして……俺は死んだんですか?」



 自分の死の原因を……俺は気落ちした様な、トーンを弱めた口調で口から溢れ落とした。



「——ッえ! …………えぇ〜とぉ……ですねぇ〜その〜……」


 (…………ん? あれ?)


「それは……ですねぇ〜……」


「それは……?」


「うぅ〜んと………………………テ………♪」


「……………………はぁあ??」



 この女神は、舌を出した可愛らしい仕草と、ウインクをかました笑顔をこちらに向けてきた。


 ——死んだ理由を聞いたのになぜ……?


 一瞬何を言われたか理解が追いつかず黙してしまったが……思考が冷静に至るにつれ、さっきまでの沈んだ気分が弾け……そして、そこから唐突に怒りがこみあげてくる。

 




 何かがおかしい——





 (——おい……この女神、なにか隠してるな……)



「——どういうことですかぁ〜あ?」


「えぇぇと……えぇぇと……あ! そう! あれは、事故! 事故だったんです!」


「事故ぉお?!」



 この女神……急に早口で捲し立て、死因を『事故』だと言っているが、明らかに挙動不審だ——誤魔化そうとしてるのが明白である。

 もしや、先程の長くなりそうな説明口調も有耶無耶にする為の……

 そもそもゲームをしているだけの人間を『事故って』殺すとか意味がわからない。ゲーム内の話でなく……文字道理、現実世界でだ。



「はい、我々神々の不手際で、あなたを死なせてしまいました!」


 (——我々? ——神々? とんでもワードのオンパレードなんですけど……言い方がいちいち、他人が関与しているかの様だけど……「ワタシ」の間違えではないのか〜? 白々しい……)



 俺は、直接ツッコまず心の中でツッコむ——



「あなたに大変な迷惑をかけてしまったこと、神を代表して謝ります……! 申し訳ありませんでした!」


(『私は関与してませんけど……でも常識ある関係者として謝ります』っていうていか……)



 女神は慌てた様子で頭を下げてきた。神が頭を下げるというのは、とんでもないことだと思う。


 一応は申し訳ないと思っているのだろうか——?



「今回の件……救済措置として、あなたの魂を私の管理する世界に“転生”させるぅ——に至ったのが事の経緯ですぅう!」


「はぁ……そうですか……」



 正直、納得はいっていない。ただ、いちいち突っ込んでいては話が進まない。その為——俺はその時、何かが込み上げてくるのを必死に飲み込みこんでいた。



 質問したいことがまだまだ沢山ある。



「じゃあ……何で森に放置したんですか? 直接ここに連れてくればよかったじゃないですか……?」


「——ッ……それはですね〜連れてくる時に手が、ちょこぉ〜〜と滑ってぇ〜〜落っことし……」


「——ッ! ッはあぁぁあ——!! 落っことした!?」


「ッは!! やば……間違えました! 手違い! 手違いがあったんです!」


 (ついに、この女神……口を滑らせやがった!)



 この女神、見た目はしっかりしているのに、喋り口調は少しバカっぽい——そして所々抜けている。

 全力で叩けばホコリが舞って舞って仕方ないのでは——と思えてやまない。

 現時点で俺の思考も、神に対して大分失礼極まりない状態に成り下がってしまってしまった。



「そもそも! あの生き物は——この世界って!?」


「……ッ! はい! あなたの世界で言うところの、『剣と魔法のファンタジー世界』ですね ……RPG? とでもいいますかぁあ〜〜〜♪」


「バカヤローーーーーーーーー!!!!」


「——ッ!? ッはぇえ!? な、なんですかいきなり!」



 “世界”と“転生体”とのチグハグ感について——神に対し怒鳴り散らすなんてとんでもない……と考えていたが、あまりの事に、俺の感情が溢れ、崩壊してしまった……



「——ッふみゅ〜〜〜あなた! 女神に対して“バカ”とはなんです〜“バカ”とはぁあ! それに“野郎”じゃありません! このに対して、なんて言い草です!? 失礼な方ですね〜怒っちゃいますよ!? プンプン……!!」


 (——うぜぇぇぇぇ………)



 神に対して失礼……? 


 礼儀なんてもの“テヘぺろ”の辺りからドブに全力投球で捨てている。それも怒りに任せ叩きつけるかのようにだ。

 それに、この女神……自身の事を『絶世の美女』だなんて……バカなんじゃなかろうか?

 だが……そんな事よりも……



「なんで、RPG世界で“この体”なんですか!」



 俺は、自身の身体について聞き返す。


 今の自分の体は、生前プレイしていたゲーム【アビスギア】での自前のキャラクターだ。このゲームのジャンルはSF寄りのもので……剣と魔法のファンタジー世界とはミスマッチにも程がある。この『世界観ぶち壊し案件』について……女神に問いただす。



「それにはちゃぁぁんと、理由があるんですぅ!」


「理由……?」


「はい!」



 どうも、この件について……それなりの理由(言い訳)があるそうだ。







 






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