第3話 声に導かれて……
この森を訪れて初めて感じた獣の気配。
その正体——
それは今、目の前で可愛らしい喧嘩を繰り広げている2種類の生き物……
それらが、俺のゲームで知るものとまったく同じであるのなら……あいつらは、RPGお馴染み、序盤の悲しき宿命背負いし“経験値の糧”——
すべての冒険者が……一度や二度、大量虐殺の経験があるモンスター……
“スライム” “ゴブリン” ではなかろうか——
もちろん、ゲーマーな俺も……RPGのプレイ経験はある。むしろそれは、好物ともとれるジャンルだ。
地道なレベル上げは嫌いじゃないし、ダンジョンを冒険して宝を探す作業は正直ワクワクさえする——
また、ストーリーを楽しむことも、とても大切だ。
物語だったり——世界観——舞台背景——これら無くしてRPGは語れない。
ストーリー性がつまらないだけで、RPGと言うのは魅力が半減してしまうと言っても過言ではないのだ。
『……こいつラスボスじゃね?』などと、物語中盤で気付いてしまうネタバレ的ストーリーではナンセンス……
まさかそれで……予想通りの展開だった時の……何とも言えない虚しさには……意気消沈したものだ——
と、話しを戻そう……
RPG……簡単に言ってみれば“剣と魔法のファンタジーな世界”と言ったところか?
つまりだ……俺が今陥っている状況を文字に起こすと——
『ファンタジー世界に科学の結晶を、詰め込んで詰め込みまくった未来感溢れる機械兵機……それを駆使して人外ハイスピードアクションをブチかますキャラ——で“転生(仮)”という形で放り込まれる』という、ことになる……
(ばっっっかじゃねぇぇのぉぉおお!! “解せねぇぇええええ”!!)
つまりは、斬新過ぎるにも程のある——世界観ぶっ壊れであった。
RPGを愛する者としては我慢ならない。
頭の中では怒り心頭……内心で叫び散らす始末だ。
つい今しがた、アビスギアの世界に転生してしまったのでは——? と頭をよぎりかけ、ゲームに登場する
しかし……現在、目の前で“低レベルぷち戦争”を繰り広げる“グリーンスモールヒューマン”と“
RPGゲームでも生死を分ける戦いが存在するとは思うが……こいつら、意外とファンシーな見た目。それが、ポコポコっ——と喧嘩してれば怖くもなんともなく、少しだけホノボノしてしまった。
RPGならそれなりの形で転生(仮)させればいいものを……俺の大切な思想を汚された気分でつい、イラッ——としてしまった。
もし今回の転生(仮)がこの世界の神様のものだったとしたなら、神だろうが怒鳴り散らして小一時間説教してやりたい気分である。
まぁ……神に対して、そんな罰当たりな事、十中八九やらないが……そもそも、そんな勇気は俺は持ち合わせてない。気分的な話である。
「ギャギャァァァー!!」
——バコッ!!
「ピ……ピィギャァァァァアアアア!!」
そう思考を巡らす内に、低レベルぷち戦争がスライムの奇声でもって終わりを告げてきた——
ゴブリンの武器である棍棒でスライムを叩くと、そいつは力尽きたのか——丸い核の様な物だけを残して溶けて消えてしまう。
死に際の、断末魔の叫びがファンシーな見た目にしては、なんとも可愛らしくなかった。
「——ギャッギャ!」
「——ッギャギャ!」
こんな低レベルな戦いでも、こいつらにとっては縄張り争い……なのかは知らないが、2体のゴブリンは敵を倒した事に満足した様子で、森の中へ消えていった。
「——ッはぁぁ……これからどうしたものかなぁ……」
ゴブリンの消えていった茂みを……俺は、しばらく見つめて放心状態であった。
そして……
そこから暫くすれば、混乱も薄れ、現実へと引き戻される。
が……そこに残る感情は不安だけ——
ゲーム内転移(仮)がどうあれ、結局はこの世界で生きていかなければならないのか——?
これからどう行動すべきか——?
なんて……
俺は気付けば、そんな事ばかり考えていた。
と、そんな時だ——
——ミツケマシタ……
「———ん?」
——キコエテ……タ…ラ…コッチデス…コッチニ…キ…ダサイ……
「…………声?」
俺は突然、呼ばれたような『感覚』に苛まれる。
唐突に声が聞こえた気がした? いや、聞こえたと言うと語弊がある。
“聞こえる”というより、頭の中に直接語り掛けるような……そんなイメージが最も適切。
それはちょうど、ゴブリンが消えていった茂みとは、真逆の方角からだった。
しかし、その現象には不思議と恐怖は感じない。
何故かは知らないが、俺はその声に導かれなければならない、使命感というのか……何と説明していいか分からないが……
そんな気がする——との表現しか思い至れない。
(———ッ? 感じない……?)
何かがおかしい……
普段であれば——知らない森で、自分を呼ぶ声が聞こえて……
不思議に思わない——?
おかしいと……感じない——?
果たして、そんなことがあるだろうか——?
異常だと感じない。感じない事こそ——恐ろしいことではないのか?
と、いつもの自分なら考えていたのであろう。
だが……なぜか、この時は考えなかった。いや、“考えられなかった”。
何も——わからない……
「——ここでずっ〜と、何もしない訳にいかないかぁ……まぁ、とりあえず声のする方に行ってみよう……何か分かるかもしれないし……」
そして俺は、導かれる様に声のする方に歩を進めた。
なんの疑問を感じることもなく——
しばらく森の中を歩く——
体感的には20分ほどだろうか?
そのあいだはスライム、ゴブリンといったものと会うこともなく、順調に歩を進められた。
「——ッ! おお……何だここ? すごく綺麗な場所に出たなぁ〜」
森は陰りが強く、周囲は薄暗い。だが、あるところで薄れた闇が晴れた。
木々が突如途切れ、開けた場所に出れたのだ。
そこに現れた光景——
それは、決して何もない訳ではなかった。
ただ1点——
視線を奪う魅力がそこには存在する。
広場の中央——
そこには周りの木々と明らかに異なる一本の大きな樹木が……
周囲の木々の幹には苔が生え、薄汚れた印象を受けるが、その木には苔の類が一切ない。
白く艶のある美しい幹が、周囲に太陽光を乱反射し、葉は藤色でガラス細工かと思うぐらい透き通っていた。
樹木の周りには、蒼白い光の粒が沢山浮いている。それが高い所にいくにつれ、大きな球体へと膨らむ。まるで樹に煌々と輝く星光の果実がなってる様な幻想的な光景が広がっている。
「異世界に来てしまったんだなぁ」——っと改めて突き付けられてしまった気分である。
でも……悪い気はしない……
これを目の当たりにして、「異世界も悪くないな〜」と思えたからだ。
それほどに、目の前に聳える異質な樹木の光景が、俺の脳内メモリに深く刻まれたという事だった。
「——ここが目的地ってことなのかな……?」
声に導かれ、辿り着いた周囲とは一線を画した場所。
ここを訪れてからというもの、声は既に聞こえなくなってしまった。
そのため確証は無いが、終着地点がここなのだと状況が告げている。
しかし……
その後がどうしていいかわからない。思うに、あの“異世界チック樹木”が目的地であるとは思う。
だが……
(——う〜ん……近づいてみるか?)
とりあえず樹木に近づいてみる。それしか思い至らなかった俺は、恐る恐るといった素振りで広場へと足を運ぶ。
遠目でも綺麗だった樹木だが……近づくにつれその美しさが一層、際立って見えた。
「いったい……誰が、ここに呼んだんだ……?」
ふと——歩を進めながら、己の疑問を呟く。
すると……
「私ですよ ♪ 」
——ッ!!??
呟きに返事が返ってきた——!?
俺は、瞬時に驚く。その声がした方に振り向くと……
そこには……
一人の美しい女性が立っていた。
「——あなたを呼んだのは、この私ですよ!」
「——ッ……あ、貴女が……おれ、を……」
唐突に現れた女性は、ここに呼んだ張本人だと言う。つまり、先ほどの森での声は、この人のものということか……?
その女性は、驚くほど美しい。
白いワンピース姿、腰まで伸びた淡桃色の綺麗な長い髪、顔はとても整っており、まさに“絶世の美女”というにふさわしい。神聖さを帯びた美しさを体現していた。
彼女の頭の上には、物理法則を無視した大小2つの銀環が浮いている。もう、異世界なんだと割り切っているので、過剰には驚きはしない。
彼女の神聖さと、この神秘的な場所とで相まって、神々しい印象を受けた。
「貴女は……いったい……?」
「んん? 私ですかぁ~? 私はルーナと言います。この世界を管理している“女神”です♪ とぉ〜ても偉いんですぅ〜……崇めていいですよ〜」
「——ッえぇ!? 女神様!?」
神々しいとは思ったが、実物の神なんだそうだ。
「はじめまして、異界からの旅人さん。ようこそ、この世界へ♪」
「——ッ!? な、何で……それを……?!」
女神は俺のことを“異界の旅人”と表現した。つまりは、俺に起こったこの状況……『異世界転生(仮)』について何かを知っている。
「ふふふっ……それはですねぇ〜♪」
次の女神ルーナの一言で“俺”はこの世界で目を覚ましてからの1番の疑問。
その答えを知ることとなる。
「あなたをこの世界に転生させたのは私だからです」
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