第2話 ◯◯の世界に◯◯のキャラクターで異世界転生!?
全く信じられない……“俺”が……“女”になってしまった事実が——
突如として突き付けられた現実——それに関して俺は、まず始めに夢を疑った。
しかし……
森を吹き抜ける風はしっかりと肌に感じ、風にあおられ草木が揺れる音は、確かに“俺”の耳に聞こえている。
さらに言えば、意識も状況の整理に努めている事から、ハッキリしているのだと言えた。
「何でこんな事に……」
確実に夢ではない。
「——そもそも、この体って? 一体、誰なんだ……?」
そもそも……“
この現象は……
自分自身の身体が、全くの別の人物へと作り変えられてしまったのか——?
はたまた、どこぞの誰かに憑依でもしてしまったのか——?
そんな、とても現実とは思えない仮説が、頭の中を錯綜としていた。それ以前に……今の状況自体、十分現実離れではあるのだが……
しかし……
先程からどうも“この体”——? と言うよりか……“服装”を見ていると、何処か違和感を感じていることに気づく。
それとなく、何処かで見たことがある気が——要は、
そこで……もしかすると、その既視感の中に答えがあるのでは——?
そう思い至った俺は、その既視感の正体を掴むべく、一旦は自分の記憶を漁る事にした。
(——そうだ……落ち着け。深呼吸だ。取り敢えず思い返そう。そう、この森に来る前を——俺は、仕事から帰ってきて……着替えてから……ゲームをしていて………ッて——ん? ……げーむ? ……ゲー………む……)
手始めに最近の出来事からと、思考を巡らす。
すると……
「——ッゲームだ……」
意外にもその答えに辿り着くには早かった。
「俺がやってた……ゲーム……【アビスギア】のキャラだ!」
そう、既視感の正体——それは……
『ゲームキャラ』だったのだ。それも己がクリエイトしたキャラに……
『アビスギア---Abyss gear---』(俺は略してアギと呼んでいたが…)
遥か未来……荒廃した架空世界の都市が舞台。
そこに徘徊する野生の獣や、機械のモンスター(通称“機獣”)と戦う、ハイスピード、SFアクションゲームとなっている。広大な高低差激しいオープンワールド……武器の種類が豊富で、組み合わせしだいで戦略は無限大——
また、vsモンスターだけでなく、PVPも完備され……対戦にも熱いゲームとなっている。
アクションはいちいちカッコいい…ステージは広大、武器種豊富、対人完備、自由度高ぇ〜、やりこみ要素がエグい…………等々……幅広い層に人気が出た作品である。
今作で何と7作目となっており、来年度には最新作の情報が出ると話題となっていた。
また、このゲームは主人公のキャラメイクがあり、自分のキャラクターの見た目を自由にいじれる……つまり……
今、自分の服装がまさに【アビスギア】での自前のキャラクターと同じだったのだ。
女キャラである事——ちらりと見える髪の毛の色が、黒のロングである事——そして、今着ている衣装と……
「ゲームキャラになってしまった!!」という思考に至るには、十分過ぎる材料は既に揃っていた。
もっと早く気づけたのではとも思えるが、それだけパニックに陥っていたということだろう。
だが、一体“俺”のキャラが、なぜ“女”キャラなのか——?
この事に関しては、いくつか深い理由があるのだが今は置いておこう。
(——でも……ゲームのキャラクターって? これってつまり、アレ——か? ゲーム内……異世界転生……転移? いや……召喚ってやつか?!)
以前……妹に『面白いから!』と強引に、異世界モノの小説をいくつか読まされたことがある。
無理くりに読まされたわりには、夢中になって読んでしまったのだが——その中には『ゲームの世界に転生』といった物語もあった。それは、今の自分の状況と酷似している。
しかし……転生——といっても死んだ記憶はないのだが……
そこのところの有無がどうあれ。もしこれが仮に『異世界転移』だったとするのなら……
「——ここは……この森……いや、世界は……【アビスギア】のゲームの中……ってことか……?」
ゲームの世界……【アビスギア】の世界に異世界転生(仮)してしまったということだ。
だが、それが現実だとすると——“俺”には、どうも……腑に落ちないことがある。
「——ッあの“
【アビスギア】の世界観は、滅んだ都市が舞台——あとは荒野が広がるばかり……
木々は所々、生えてはいたが……ここまで鬱蒼とした森のマップはなかった。
ただ、ゲームで登場してないだけで、【アビスギア】の世界にはそういった森が実在していたのかもしれない。
しれないのだが……
何かがおかしい——気がする。
それが、何なのかはわからない。だというのに“俺”の中の不安感がズキズキと煽られる感覚に苛まれているのだ。
(——間違い? ……違う? ……おかしい? …世界……違う……せかい?)
どこかが腑に落ちない。それが、無性に気持ち悪い——
っと、その時だった。
————ッ——ガサ…ガサガサ…………………………ギャギャア……
(———ッ!? な、何だ……!?)
この森で目覚めて、初めて感じる獣の気配。
(今のは——鳴き声……?)
もし仮に、ここが【アビスギア】の世界なのだとしたら……
今の声の主は——?
ゲームにでてきた『
そう、考えが過ぎた——その、次の瞬間には……
さっきまで神秘的に感じられてた森が、急に不気味に……
怖く——思えた——
その沸き出た感情は——少しずつ落ち着きを取り戻していた筈の“俺”の身体を再び緊張が支配する。
鼓動が速くなる——
視界が霞む——
森の影が濃く……黒く……黒に……塗りつぶされ……重く伸し掛かる。
まるで……暗闇に飲み込まれ……沈みそうだ。それは、まさに……『深淵』
ただの森が——“俺”には、そう見えてしまった。
俺は恐怖に硬直する身体を無理をしてでも、ゆっくりと地に伏せる形で姿勢を低くし——声の主を警戒する。
本音を言えば、このままやり過ごしたい気分だ。
だが、しかし……
(——か、確認しない訳には……いかんよなぁ……)
“違う”からくる違和感——ここが本当に【アビスギア】の世界なのか……?
不快的疑問——その答えを知りたい、調べなければ——と、俺に言い寄って来る。
自分は今、ゲームキャラとなってしまってる訳だが……
ゲーム同様の力があるのか——武器があっても戦えるかも——わからない。
でも……今は情報が一つでも多く欲しい。
俺はこの時、その好奇の念には逆らえなかった。
そして、呼吸を整え意を決すると……気配のした方に這って行く。なるべく音を立てないよう注意を払って……
一歩……一歩……と——少しずつ歩を進める。這ってる為、“一歩”との表現が正しくはない気はするが……あくまでゆっくりと対象に近づいて行ったのだ。
……………ギャ…ウギャギャ……………
やがて、気配が徐々に大きくなる。
…………ギャ…ギャグ……………………………ギャギュグ………
それにどうやら、気配は一つじゃない。
………ギャーギャグ! …………………
ギャオギャガ!! ………………バタバタ…………
気配の主は、何かに気を取られてるのか——やたらと、バタバタしている。その隙に“俺”は距離を詰めて行く。
そして——
いよいよ、気配との間が背の高い植物——その緑の壁一枚の位置に差し掛かる。
俺は、その近くの樹木の幹に背中を預けると、再び深く深呼吸を——気を落ち着かせる。
心の準備が整うと、壁となっている植物の葉を、指で静かに広げ、小さな除き穴をつくる。
最善の注意を払って……慎重に……
すると……そこに……
ついに気配の正体を捉えた。
この時——
再び……俺の頭の中が、ホワイトアウト……する事となった。
『ギャギャっギャー!!』
『ギュギャギャ!!』
『ぷるぷる? ……ぷるぷる!!』
“水色の饅頭”……そう表現をした物体に、白くてつぶらな2つの瞳。ボディーは柔らか? 液体のように見えるが不思議と流れることがなく、流線的な形を維持する可笑しな生き物——
それに相対す生物。腰に小汚い布地を巻き、肌が緑色。身長が1メートルぐらいの“小人?” ——が2匹……手に惨めな棍棒を持ち、一生懸命に先程の水色饅頭を叩いていた。
(——おい……おぃオィオイ、オーーイ……! 嘘だろ……?! こ…こんなぁ……こんな、馬鹿げた噺があるかぁぁあああ!!!???)
その生き物達は、互いに敵対しているのか争って見て取れる。
だが、その戦いざまは血で血を洗う『ドロドロッ』としたもの、と言うよりは……低レベルの実に可愛らしいものだ。『ポコポコッ』と擬音がお似合いの喧嘩との表現が適当ともとれるモノだった。
それを目にする事で、つい……“俺”の内包する緊張感が、何処かに吹っ飛んでしまった。
おそらく“俺”は……その生き物の正体を知っている——ゲームをプレイする人にはお馴染み……RPG特有の、謀——あの生き物——
“スライム” “ゴブリン”
という奴なのでは——と……
(——ッゲームの……ッジャンルがぁ……ちげぇぇーーじゃねぇぇーーかよぉぉおお!!!!)
俺は〈RPGゲー厶〉の世界に《SFアクションゲー厶》のキャラで異世界転生(仮)をしたと——
異世界と……転生体とで……世界観が……
【チグハグ?!】
「うん……気持ち悪い……吐きそう……」
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