第84話 帰ろう


「話は終わったかな?」


 部屋に入るのを待っていたらしいジェレミー殿下が、こちらに声をかけてから中に入ってきた。


「ジェレミー殿下!」

「俺もいるぞ」

「ニック!」


 ジェレミー殿下の後ろから、ニックが現れた。


「サディアスは指示役として外にいてもらっている」

「みんな来てくれたの?」

「当たり前だろ! 俺たちの友達が攫われたんだぞ!」


 ニックの言葉がじぃんと染み入る。ミリィと話したあとだと尚更。


「アリス嬢も来ると言って聞かなかったけど、カミラに説得してもらって国にいてもらっている」

「ああ……」


 その光景が目に浮かんで私は遠い目をした。アリス、すごい子よ、あなた……。


「君」

「は、はい!」


 ミリィがジェレミー殿下に声をかけられて、期待を込めた視線を向ける。


「君は我が国の罪人として連れていかせてもらう。いいだろう? 新たな皇帝?」

「問題ない」


 新たな皇帝、と言われた人物は、先程まで私たちと一緒にいた人物だった。


「レン!」


 レンは笑みを浮かべていた。


「あなたが皇帝になるの?」

「ああ。おそらくは。一応反乱軍のリーダーだからな。今の皇室の作った政治の仕組みはすべて解体して、国民のためになる国を作ろうと思う」


 私はレンに笑いかけた。


「あなたならできると思うわ」

「ありがとう。もう二度と転生者も国民も、苦しむことがない国を作る」


 レンの決意を聞いて、ジェレミー殿下が頷いた。


「そうしてくれると助かるよ。君の働きをうちも支援しよう」

「感謝する」

「うちの国にスパイしてたことも、許すよ」

「それに関しては詫びよう」


 心配していた両国の衝突もなさそうでホッとする。関係悪化してもおかしくないし、グラリエル王国から戦争をかけられても仕方ない状況だが、ジェレミー殿下は彼の行いを許すようだ。


「フィオナ嬢も無事だったし、この国の技術にも興味があるからね」


 ジェレミー殿下がキラキラした瞳で「で、これ、どういう仕組み?」とレンに訊ねていた。レンが丁寧に説明すると、ジェレミー殿下の瞳がさらに輝いた。

 初めてこんなすごい機械やシステム見たら興奮するわよね、わかる。でも今小声で「これカミラにも使えるかな……」って言ったのが聞こえた。使っちゃダメです。


 ミリィがグラリエル王国の兵士に連行されるのが見えた。最後まで私を睨んでいて、私の言ったことがどれだけ彼女に伝わったかはわからなかった。彼女はずっと誰かのせいで自分は不幸だと思って生きていくのだろうか。


「フィオナ」


 ルイスが私に手を差し出してくれる。


「帰ろう、一緒に」


 そこの言葉に胸が熱くなる。


「うん、帰ろう」


 私はルイスの手を取った。


 帰ろう。私たちの国に。


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