第81話 計画
「ミリィ、悪いんだけど」
私を置いて走っていこうとしたミリィをスカートの端を足で踏んで止める。
「何すんのよ!」
「あなたには大人しくしててほしいの」
私はレンから受け取った薬を事前に染み込ませたハンカチを、ミリィの口元に当てる。
「や、な、何これ」
ミリィはヘナヘナとその場に座り込んだ。
私は彼女を引きずって元の牢屋に戻す。
「痺れ薬よ。数時間で効果は消えるから安心して」
「な、なんで……」
声も出しにくいのか、ミリィは叫ぶことができなくて悔しそうだった。
「悪いけどあなたに邪魔されるわけにはいかないの。無事に終わればあなたも私も外に出られるから従って」
「あ、まっ……」
ミリィが何か言いたそうにモゴモゴしている。しかし、私はそれを無視して走った。
急がないと! 時間との勝負よ!
今頃看守を気絶させて服を奪ったレンが、防犯システムを機能しないようにしてくれているはず!
私がするのは、正面の大きなシャッターのボタンを開けること。
これは防犯システムを扱っているところとは反対方向にある。レンがそちらに取り掛かっているうちに、私が正面シャッターを開けて、反乱軍が入れるようにするというのが、今回の計画だ。
私は頭に叩き込んだ地図を頼りに走る。そして見つけた。
「あった!」
目的の部屋は、何重にもされたセキュリティで本来なら入れない。しかし、レンが遠隔操作で、こちらも扉が開いていた。
私が中に入って、機械を操作する。レンの指示通り、これをこうして……あとは、ここを押すだけ。
最後の一仕事、というそのとき。
「待て!」
うそ、まさか。
私は一気に冷や汗が吹き出るのがわかった。
後ろからした男の声に、私はゆっくり振り返った。
そこには、銃を構えた豪華な出て立ちの男と、隣で微笑んでいるミリィがいた。
「その手を離せ」
私は悔しさをにじませながら、手を離した。
「ミリィ、どうやって……」
「たまたま看守が見回りに来たのよ。だから、大事な話があるから皇帝に会わせてってお願いしたの。――クーデターに関する情報です、って言ってね」
「どうしてそのことを……」
「私耳がいいのよ。色々話してくれてありがとう」
ミリィがこちらをバカにした様子で言う。
「存在意義を考えろって言ったから考えたの。帝国に捕まったなら、帝国の役に立てたら大事にしてもらえるって」
「馬鹿なことを……」
余計なことをしなければ、国に帰れたかもしれないのに。
「馬鹿なこと? ええ、あんたから見たらそうでしょうね。でもね、私はあんたと国に帰っても、どうせ犯罪者になるじゃない? だったらここで地位を確立したほうがいいわ」
「……一緒に戻っても、あなたのことは、上手く伝えて、大した罪にならないようにしてあげたわよ」
ミリィはまだ若い。彼女の未来が、私への嫉妬というそれだけで潰えるのは、胸が苦しかった。だから、うまく取り計らう予定だったのに。
「嘘つき! そんなこと信じられるわけないでしょう!?」
しかし、ミリィは最悪の選択をしてしまった。
ミリィは隣にいる、私の想像より若い皇帝にしなだれかかった。
「ね、私お役に立ったでしょう? あなたのそばにいさせてくれますよね?」
上目遣いで訊ねると、皇帝は笑った。
「ああ、そうだな。……大事な転生者として、その知識を奪ってやるさ」
「――え?」
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