第80話 皇城へ
ガシャーンと何かが倒れる音がして振り返ると、取っ組み合いの喧嘩をしている人たちがいた。
「こんなんじゃ、飯を食うこともできねぇじゃねえか!」
「うるせえ! 俺がそうしてるんじゃねえ! お上がまた増税してんだよ! 便利なもん作るには金がいるって言ってよ……おかげで俺だって商売上がったりで困ってんだよ!」
「なら、そんなの無視して売れよ! 町にどれだけ餓死しそうな人間で溢れてると思ってるんだ!」
「じゃあ俺は餓死していいっていうのか? ええ!?」
男たちがやり合うのを、町の人たちはただ見ている。もはや、それを止める力もないと言うように。
「ひどい……」
貧しい人で溢れると、治安は悪くなる。そのことがよくわかる町だった。
「何あれ、汚い」
ミリィが吐き捨てるように言って、町の人々にじろりと睨まれた。
「みんな、生きるのに必死だ。皇帝たちは自分たちの豊かさのために民を見殺しにしている。町には失業者で溢れ、高い税金を払えずに野垂れ死にする人間も多くいる。政府はそういう人間を保護はせず、ただ金をむしり取ってあとは放置だ」
「なんてこと……」
やせ細った人々。何かを必死に買ってもらおうとしている子ども。頭を下げて何とか商品を買おうとしている人々。ここがこの国の中心部だと聞いた。ならば、ここはきっとまだマシなほうで、田舎だともっと苦しい生活を余儀なくされているかもしれない。
とても政治が機能しているとは思えない。
「反乱軍はだいぶ前から立ち上がっていた。だが、どうにも皇帝を撃つ手建てがなかった」
歩きながら、町の中心に向かう。そう、この町の中心――皇城だ。
「大きい」
それは想像より大きかった。
入口は大きなシャッターのようなもので閉められていて、その周りは高い壁がそびえ立っている。それもおそらく金属でできていて、これを突破するには骨が折れるのはすぐにわかった。
なるほど、これは中側から崩すしかない。
レンがインターホンのようなもののボタンを押す。
『……要件は?』
「帝国に知恵を」
何かの合言葉なのだろうか。その言葉を聞くと大きなシャッター側ではなく、その近くにあった、また別の小さなシャッターが開いた。
『転生者二名、付き人二名。申請通り確認。通れ』
スピーカーから聞こえる声に従って、私は中に入った。
「結構簡単に入れるのね」
「事前に申請が必要だ。そして、もし不穏な動きを見せたら、あの塀の上の遠隔操作の銃で撃たれる」
小さい声で聞くと、レンが小さい声で返してくれた。しかし、その内容は恐ろしく、私は小さく「ひっ」と悲鳴を上げた。
「声もどこに盗聴器があるかわからない。ここからは無言で」
レンに指示され、私は黙って頷いた。
中を歩いていると、看守のような格好をした人間に出会う。
「予定通り、転生者の女二人。身辺を改めさせてもらおう。ここを通れ」
空港でよく見る金属探知機のような門を通らされた。ここに来る前に身につけていた金属は外してきた。私もミリィも、そのまま通ろうとしたが。
ビー!
ミリィが通ったとき、けたたましく音が鳴った。
一斉に警備の人間が現れて私たちを取り囲む。
「女! 何か持っているな! 出せ!」
「な、何もないわよ!」
ミリィは否定するが、警備の人間は、ミリィに剣を向ける。ミリィは両手を上げるが、彼らはミリィの言うことを信じてくれない。
おかしい。ミリィは私と同じく、装粧品は取り外したはずなのに。
そう思いながら、ミリィの足元を見て、私は気付いた。
「ミリィ、その靴」
「え?」
ミリィと警備の人たちが彼女を見る。ミリィの靴には、宝石をチェーンで付けているのが見えた。
「その靴を脱げ」
「え? 嫌よ! 脱いだら裸足になっちゃうじゃない!」
「いいから脱げ!」
「ひいっ! わ、わかったわよ!」
ミリィは剣先を向けられ、慌てて靴を脱いだ。
そしてもう一度門をくぐるように言われ通ると、今度は音が鳴らなかった。
「よし、そのまま進め」
指示された通りに進む。コツコツと、どんどん人気のない暗いところに案内される。
ついに、大きな監獄の前に着いた。
何人も入れられている。きっとこの人たちが転生者なんだ。
「入れ」
空いていた牢屋に、ミリィが乱暴に放り込まれる。
「な、何すんのよ! 私を誰だと思ってるの!?」
「転生者ごときが口答えするな」
看守がムチのようなものを振りおろそうとして、ミリィが怯えて目を閉じるが、彼女に当たる前にレンが看守の腕を掴み止めた。
「何をする」
「この娘たちは別の国で貴族として育った娘だ。大切に育てられたため、厳しい環境には慣れていない。雑に扱うと、知識を奪う前に、自死を選ぶ可能性が高い」
レンの言葉に、看守は振り上げていた手を下ろした。
「面倒な転生者だ。大人しくしていろ」
ミリィがブンブンと首が飛ぶ勢いで頷く。
看守は私とミリィをそれぞれ別の牢屋に入れ、鍵をかけた。
「男、金を渡すからこい」
レンは看守に従ってついて行く。それを見送ってから、私は懐から木の鍵を取り出した。
「あ、あんた、それ!」
「しっ!」
私は慌ててミリィに黙るようにジェスチャーする。
「黙って。見つかったら殺されるかもしれないわ」
「あんたが勝手にやったことでなんで私まで殺されるのよ!」
「一緒に来たんだから仲間扱いされるに決まってるでしょう?」
木の鍵なのは、金属探知機に引っかからないため。私は木の鍵を牢屋の鍵穴に差し込み回した。カチリ、と音がして扉が開く。
「ちょっと! 私も外しなさいよ!」
ミリィがうるさく叫ぶ。
「わかったから静かに!」
私はミリィの牢屋の鍵を外す。
「やったわ! あんたと一緒にいられるもんですか! じゃあね!」
「ミリィ、悪いんだけど」
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