第66話 婚約者候補改めて婚約者



 私が寝込んでいる間もルイスとアンネが私の筋力が衰えないようにたまに身体を動かしてくれていたようで、そこまで大変なリハビリにならずに済んだ。本当にまったく動かさないまま寝たきりになるとリハビリがキツすぎるから助かった……。せっかく意識が戻ったのに寝たきり生活だったら泣いてた。

 そしてやっと体調が万全というところまで来たところで、王宮に呼び出された。




「本当に申し訳なかった!」


 まず玉座の間で国王陛下に謝罪された。


「い、いえ……どうか頭を上げてください」


 一国の王に頭を下げられるという事態に困惑する。


「私が欲をかいてしまったばかりに、フィオナ嬢が生死の境をさ迷うことになってしまうとは……面目ない……」

「い、いえ……」

「ストレスなく食事を取れていたらこんなことにはなっていなかったと聞いた……どう考えてもそのストレスは私が言い出したせいだな」

「そ、そんな……」


 ことはあるけど……。


「すまない……謝っても謝りきれぬが……この見舞いの品を受け取ってくれ」


 国王陛下の言葉に、いつもは扉の前にいるアーロンさんが大きな箱を抱えてきた。そして蓋を開ける。


「お、おおおおお!」


 そこには金貨と宝石が入っていた。


「どうか受け取ってくれ」


 これをもらっていいと!?

 がめつく箱にしがみつきそうになったが、後ろで宰相がすごい顔をしているのを見て思いとどまった。そうだよね……宰相からしたら渡したくないよねこんな高額……しかし、その隣にいるサディアスが隣で何か言っている。

 なになに? 『と、う、ぜ、ん、の、け、ん、り』当然の権利? 本当に? 本当にこれ貰っていいの!?


「ありがとうございます! 大切に頂戴させていただきます!」


 これだけあればいざという時の国外逃亡も簡単にできる!

 ホクホク顔の私に、国王陛下がようやくホッとした顔をした。


「よかった。日頃の様子からフィオナ嬢はおそらくこれを喜んでくれると思ったのだ」


 私が今まで必ず報酬を要求していたからだろう。国王陛下に金にがめついと思われていたのが恥ずかしいが、真実だから否定もできない。ただ私にできるのはこのお金と宝石に喜ぶだけだ。


「本当にもうお気になさらないでください。今はこの通り元気です。それに、婚約の件も白紙にしていただけるとか」

「おお、もう耳にしたのか」

「ルイスが教えてくれました」


 私の隣にいたルイスが頷いた。


「そうか。……いや、そうなんだ。実はな……」

「ここからは俺が話します」


 その場にいなかったジェレミー殿下の声が聞こえて、私たちは一斉に後ろを振り返った。

 そこにはジェレミー殿下と、カミラがいた。


 ……え? カミラ?


 どういうことかと、私が思わずジェレミー殿下たちと、国王陛下を交互に見る。

 え? どうして悪役令嬢とジェレミー殿下が一緒に? しかも雰囲気がとても甘いんですけど!?

 カミラ、モジモジしてない!? ねえ、そんなスチルなかったよ!?


「詳しい話は俺の部屋でしたいんだが、いいだろうか?」


 ぜひとも詳しい話を聞きたいので、私は何度も首を縦に振った。



          ◇◇◇



「本当に申し訳ないことをしてしまいました。如何様にも裁きは受けます。どうぞ、フィオナ様の気の済むままになさってください」


 カミラがまるで武士のようなことを言い始めたので、私は慌てて首を横に振った。


「いえ! 今回のことは元をたどれば国王陛下が発端でしたし、カミラ様の今までの努力を考えると怒るのも無理はないかと。……何年も、王太子妃になるために頑張っていましたもんね」


 ゲームの中でもカミラは王太子妃になるために、並々ならぬ努力をしていたことが描かれていた。だから、私は悪役令嬢であってもカミラが嫌いになれなかった。ゲームでヒロインが現れて、いきなり自分の地位を奪われ、すべての努力が無になるのだ。悪役令嬢になっても無理はない。


 それに、今回私が寝込んでしまったから大事になってしまったが、飲み物をかけるなど、嫌がらせにしても優しいほうだ。本来ならこちらが少し嫌な思いをする程度で済んだはずが、私が身体が弱かったばかりに申し訳ない。ゲームでもカミラがジュースをヒロインにかけるシーンがあったが、それも後日激高してしまった詫びの手紙とともに新しいドレスも送ってきちんと反省をしていた。


 改めて考えてみてもカミラいい人よね。悪役令嬢なのがもったいないぐらい。だからカミラのこと、嫌いになれなかったんだよなぁ。


「俺からも謝罪をさせてくれ。俺がいつまでも煮え切らない態度を取っていたからこんなことになったんだ」


 ジェレミー殿下からも頭を下げられた。確かにジェレミー殿下が婚約者を作らないからこんなことになったと言えるだろう。国王陛下もジェレミー殿下にすでに婚約している相手がいたら、こんな簡単に私に婚約を持ちかけなかったはずだ。


「そういえば、どうしてジェレミー殿下は婚約者を作らなかったんです? 国王陛下もきっと決めるように催促していましたよね?」


 カミラはあくまで婚約者候補だった。ジェレミー殿下は未来の王だ。誰かと結婚し、子を成し、この国を支えていく義務がある。

 だから、本当なら幼少の頃から婚約者が決まっていてもいいはずなのだ。

 ゲームをやりながらずっと疑問だったことを投げかけると、ジェレミー殿下は照れた様子で答えてくれた。


「両想いになりたくて……」


 カミラも一緒に照れる。その様子を見て、私は一瞬ぽかんとしてしまった。


「……は?」


 何? どういうこと? カミラと両想いになりたかったってこと? でもカミラ、ジェレミー殿下のこと好きだったよね? ジェレミー殿下がカミラを好きになるまで待ってたってこと? どういうこと?


「よくわからないよな。そうだよな」


 誰から見ても困惑を隠せない私に、ジェレミー殿下がまだ照れた様子で言った。


「その……見せたほうが早いから見せるけど……引かないでくれるかな?」


 引かないでくれるって何? 私は今から何を見せられようとしているの?

 何も答えられず無言でいたら、同意したと思われたのか、ジェレミー殿下は部屋にある出入口とは別の扉に手をかけた。そして、それをゆっくり開ける。

 開け放たれた扉から見える光景に私は絶句した。


「な、何これ……」


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