第56話 再びの王宮
『フィオナ様、お元気ですか? 私はとっても元気です!
実は今修行を開始して、筋トレや精神統一してます。父は不安そうにしてますが、特に文句も言わないので助かってます。絶対止められると思っていたのですが、もしかしたら父は思ってたよりいい人かも?
また成果が出たらお知らせしますね! アリスより』
「本当に修行始めたんだ……」
有言実行すごい……。
アリス……本当に面白い子だわ……。
思わずふふ、と笑ってしまうと、手紙を読んでいる私を見ていたルイスが笑顔で言った。
「消そうか?」
「何を?」
「そのアリスという人間」
「は!?」
なんで!? どうしてそうなったの!? 私友達って言ったよね!?
「だって俺といるより手紙読んでるほうが楽しそうじゃないか」
ムスッとした表情でそう告げたルイスに、私は目を瞬いた。
……もしかして、拗ねてるの?
ムスッとした表情で、手紙を睨みつけてくるルイスが、ちょっと可愛く思えた。
「女友達と言うから安心してたのに。もしやサディアスより危険な存在なのでは? 手紙を燃やすか? 相手を燃やすか?」
ブツブツ呟いている内容は可愛くないけど。
「手紙も相手も燃やしたらもう口聞かないからね」
「わかった。やめる」
スッと考えを改めるところは素直でいいと思う。
この感じだと、アリスに一目惚れはしてないのかしら? まだ彼女に好意は抱いてなさそう。
ほっとしていると、ドドドド! とすごい足音が聞こえてきた。
そしてバーンと私の部屋の扉が開け放たれる。
「フィオナ! 大変だ!」
父だった。後ろに兄と母もいる。
なんだろう。家族のこの焦った感じ、前もあったな。
まさかな、と思いながらも、父に「どうしました?」と訊ねると、父は震える手で手紙を差し出してきた。
このシーンも見覚えがある。割と最近に。
恐る恐る受け取り、封蝋を見ると、こちらも見覚えがあるものだった。
王家のものだ。
「おおおお、落ち着いてよく聞くんだフィオナ」
「お父様が落ち着いてください」
この中で一番落ち着いていない。以前呼び出されたときも家族みんな動揺していたが、それ以上だ。この中にはそんなに驚くことが書いてあるのだろうか。
「あ、あのな……」
父がゆっくり口を開いた。
「お前を結婚相手にしたいそうだ」
「はい?」
私は理解できなくて固まった。
結婚相手? 誰の? 王家って、ジェレミー殿下以外、独身の男性は、五歳の第二王子しかいなかったわよね?
「わかる、わかるぞ、フィオナ、その気持ち。だが落ち着いてくれフィオナ。本当のことなんだ」
これが本当のことなら尚のこと落ち着けるわけがない。
私が手紙の内容を確認しようとしたら、横から手が伸びてきて手紙を奪われた。
ルイスだ。ルイスはサッと手紙を開けると中身を確認して、どんどん険しい表情になっていった。
手紙を破ろうとしたようだったが、王家からの手紙ということを思い出したのか、破ろうと手紙にかけた手を忌々しそうに元に戻した。
「なんて書いてあるの?」
「フィオナの父君が言った通りだ」
つまり、結婚しろと書いてあったということだ。
「誰と?」
「王太子殿下だ」
「お……王太子殿下!?」
ということはジェレミー殿下!?
私は慌てて手紙をルイスから奪い取った。
そこには学校などの事業に対する働きに対する感謝と、ジェレミー殿下と結婚してほしいという主旨のことが書いてあった。
王家から結婚してほしいと言われても、ジェレミー殿下ではなく、王家の血筋の誰かだと思っていたのに……いや、他は五歳の王子しかいないからそれも困るのだけど。
「ジェレミー殿下にはカミラ様がいるじゃない!」
「カミラ嬢はまだ『婚約者候補』だからな……だから早くしろと言っておいたのに」
ルイスが頭を押さえてはあ、とため息を吐いた。
つまり、ジェレミー殿下に正式な婚約者はいないから、私がなっても王家側に問題は無いということだろうか。
「で、でも私ルイスと婚約してるのに」
「ハントン家との仲が悪くなろうともフィオナが欲しくなったんだろうな。それだけの働きをフィオナはしたから理解はできる」
ルイスは私から手紙を奪うと、破りはしなかったが、我慢できなかったのか手紙をぐしゃりと握りつぶした。
「お望み通り、ハントン家は王家に楯突かせてもらおうか」
ルイスの手の中で手紙がギリギリ音を立てて握られている。
「ル、ルイス、なるべく穏便に……」
「穏便にしてたらフィオナが取られる。そうなったら俺はクーデターを決行する」
「か、過激……」
全力で王家に立ち向かっていくスタイル……。
「ひとまず話を聞きに行きましょう。手紙でも呼び出されてるし」
「すぐに王族でなくなるのに呼び出すなんて偉そうに」
クーデターを成功させる気だわ。
「まだ私はルイスの婚約者だから落ち着いて」
「ああ。俺たちはきちんと誓約書を交わしてるからな。大丈夫だフィオナ」
ルイスが綺麗な顔で笑った。
「結婚記念に玉座をあげるよ」
「い、いらない……」
王家に興味ないからクーデターを決行しないでほしい……。
私は痛む胃を押さえながら、国王陛下をどう説得するか考えていた。
◇◇◇
最低のコンディションだわ……。
最近は少しよくなっていた胃が最高に痛い。またしばらくスープやおかゆなど消化にいい物を食べる生活になってしまった。
悲しい。食の楽しみが……。
それもこれも国王陛下が私とジェレミー殿下を結婚させるなどと言い出すからだ。
なんとしてでもやめさせなければ。ジェレミー殿下は私の前世での推しではあったけれど、この世界に転生して結婚相手にしたいかと言うと、そうではない。
それにストレスに弱いこの身体で王太子妃などできるわけがない。おかゆしか食べられなくなり、ストレスで衰弱死していく未来が見える。
そんなの嫌だ!
公爵家の嫁もプレッシャーだが、まだ王太子殿下ほどのストレスではない。公爵家の嫁は最悪家に引きこもってもなんとかなるが、王太子妃はそうはいかない。表に出る場面も多いし、その度に倒れるわけにもいかない。
何がなんでも断わらないと!
「またお会いできて光栄です、フィオナ嬢」
王城に着くと、アーロンさんに挨拶され、「私もです」と返事をした。
アーロンさんに案内されて、私とルイスは再び来たことのある道を歩く。今回は父も家族の代表として参加する。
「帰りたいな……私はこういう場面に慣れていないんだ……」
父が気弱な発言をする。するとルイスが父をじろりと睨んだ。
「しっかりしてください。フィオナの将来がかかっているんです」
睨まれて、父はピシッと背すじを伸ばした。
「そ、そうだな。すまない」
「わかればいいんです。しっかりお願いしますね、お父様」
「君の父じゃないんだが」
「お父様とは仲良くしていきたいと思っています」
「いや、だからまだ君の父になるとはわからない状況に」
「俺はフィオナと結婚するから俺のお父様です」
父がちょっとときめいた表情になった。
「私がプロポーズのようなものをされてしまった。そうか……もう一人息子が増えるのか……」
照れないでほしい。
これから大事な話をしに行くのだが、こんなに緊張感がなくて大丈夫だろうか。さっきまで自信なさげで緊張した様子だったじゃないか。今一度先程の気持ちを思い出してほしい。いや、自信ないのも困るな。
「では、頑張ってきてください」
アーロンが玉座の間の扉を開けてくれた。ここに来るのは二度目。まさかもう一度来ることになるとは。
扉を開いた先には、前と同じメンバーが揃っていた。
国王陛下に、宰相とその息子サディアス。騎士団長とその息子のニック。
あれ? ジェレミー殿下がいないな?
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