第55話 想定外のヒロイン
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昨日『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』
コミック2巻と小説1巻、
『逆行令嬢の復讐計画』コミック2巻3冊同時発売されました!
そして前話で詳しくは近況ノートをと書いたのに近況ノート書き忘れましたすみません!
本日書きましたので詳しくはそちらをご参考ください!
皆様に楽しんでいただけますように!
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「だって結局異世界にいるわけだし、私たちの常識外のことが起こるかもしれないですもんね! ということは、特殊能力を手に入れることもあるかも!」
「……」
アリス、まだ諦めてない。
そういうゲームではないと伝えたのに、それを聞いても諦めない。すごい。ポジティブ。ポジティブすぎる。
「ありがとうございます、フィオナ様。どの世界に転生したかわからなくてずっとモヤモヤしてたので助かりました!」
「え、ああ……お役に立てて何より……」
「私、諦めずに己を鍛えます! そして世界の覇者になります!」
そういうゲームじゃないの! 無理なのよアリス!
しかし、せっかく持ち直したのに否定することなど私にはできなかった。
「あ、ちなみに私ってなんのキャラクターなんです? モブ?」
「いえ、あなたはこのゲームの主人公であるヒロインよ」
「私主人公なんですか!?」
アリスの声に喜びが混じったのがわかった。
「主人公ならより能力開花の可能性あるじゃないですか! やった!」
「……」
確かに主人公で特別な存在だけど、そういう特別じゃないのよアリス……。愛されヒロインなのよアリス……。
「フィオナ様はなんのキャラクターなんですか?」
「悪役令嬢……」
「え……」
アリスが私を見る。
「……乙女ゲームやったことないけど、悪役令嬢って悪役なんじゃないですか?」
「そうね」
悪役って付いてるからね。
「フィオナ様悪役してないじゃないですか! むしろいい人ですよね」
い、いい人……。
アリスから見て私はいい人に見えるのか。ちょっと嬉しい。
「悪役すると破滅するキャラなの。だからそうならないように大人しくしてるのよ」
「え!? そうなんですか!?」
アリスが慌てたように言った。
「誰がフィオナ様を破滅に!? ぶっ飛ばすから大丈夫ですよ、安心してください」
「それに関しては安心できないわ、アリス……」
貴族として断罪されるから、私に罰を告げるのは国王陛下だし、国王陛下ぶっ飛ばしたらただでは済まないわよアリス……。たぶんヒロイン修正あってもダメだと思うのアリス……。
アリスが国王陛下をぶっ飛ばさないように私の破滅フラグバキバキに折らないと……。
「何か困ったら言ってくださいね! フィオナ様は私の恩人ですし」
「恩人?」
アリスを助けたことがあっただろうか。思い出そうとするが、そのようなことをした場面が思い浮かばない。
「こうしてゲームについて教えてくれましたし、何より――」
アリスがぐっと拳を握った。
「日本食!」
大きな声で一言言った。日本食?
ちょっと大きな声を出しすぎたと思ったのか、アリスが少し声を抑えた。
「もうこの世界に転生してから日本食が恋しくて恋しくて……この世界食のレパートリー少なくないですか? 日本生まれ日本育ちの私には辛かった……そこに現れた日本食……ありがとう味噌汁……ありがとう納豆……愛してる漬物……」
アリスが感極まったのか、天を仰ぐように祈るポーズをとった。相当日本食に飢えていたようだ。わかる。食べたくなるよね、日本食……食べられないとなるとさらに……日本育ちの私たちにずっと洋食オンリーは辛いわよね……。
アリスは頷いている私の手をガシッと握った。
「ありがとうございます、フィオナ様……食の楽しみをありがとう……」
「いえ、そんな……」
「日本食がなければそろそろ私はこの国を出奔しようかと思っていました」
「そんなに!?」
確かに私も食べたかったけど! 国を出るほど!?
「なのでフィオナ様は私の恩人なのです。困ったことができたらすぐに言ってくださいね」
「あ、ありがとう……」
「それに……」
まだ何かある!?
思わず身構えてしまった私に、アリスはにこりと微笑んだ。
「フィオナ様は私の友人ですからね」
「え……」
友人……?
「あ、いけない。お父様が呼んでる」
アリスが自分の名前が聞こえるほうを振り返った。
「もっと話したいですけど、失礼しますね。今度お手紙書きます」
手を振り去っていくアリスに、私も手を振り返す。
ぽけーっとアリスの去っていった方向を見続けていると、後ろから声をかけられた。
「ごめんフィオナ、遅くなった」
ルイスがお盆に食べ物と飲み物を持って現れた。
心ここにあらずといった様子の私に、ルイスは不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「ルイス……私……」
私は身体を震わせた。
歓喜で。
「私、初めて女友達ができた!」
転生してから友達のいなかった私に、初めて女性の友達ができたのだ。
アンネとは仲良しだが、侍女だし、友達だとは言いきれない。同世代の令嬢は私のことを避けているし、仲良くなる以前の問題だ。
嬉しい。嬉しすぎる。
歓喜に打ち震えている私に、ルイスがふっと笑った。
「そうか、よかったな」
「ええ。お手紙書かなくちゃ」
なんてお手紙書こう。初めてだからどう書いたらいいかわからない。
「ちゃんと書けるかな……」
嬉しい不安を抱きながら、私は喜びを噛み締めていた。
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