第54話 再会

本日6/5

『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミックス2巻、小説1巻発売されました!

なんと小説に漫画もあります!

ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

(詳細は近況ノートにて)


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 声のほうを向くと、アリスが立っていた。


「アリス! 来ていたのね」


 私はアリスに近付いた。


「はい。フィオナ様のためのパーティーですもの。来ないわけにはいきません。爵位授与おめでとうございます!」

「ありがとう」


 可愛いヒロインから褒められる貴重な体験が嬉しくないわけがない。私はニヤけそうになりながら、お礼を言った。


「その歳で、さらに女性で爵位授与なんてすごすぎます」

「やだ、あんまり褒めないで」


 ヒロインに言われると有頂天になっちゃいそう。

 照れていると、アリスが急に真顔になった。


「アリス?」


 空気が変わったことを察して、彼女に声をかけると、アリスは私の両手をぎゅっと握った。

 手が小さい。爪まで可愛い。さすがヒロイン。と思っていると、アリスは叫ぶようにとんでも発言をした。


「フィオナ様はどんなスキルをお待ちですか!?」

「……はい?」


 言われたことが一瞬理解できず、私は首を傾げた。 


「いえ、いいんです。わかってます」


 アリスがふっと笑う。


「これだけ国の改革をするということは、きっと知能系スキルですね……!? いいですよね、知能系スキル……戦略とか使って大活躍で、そのうち宰相にまで上り詰めて……」

「ア、アリス……? ちょっと待って?」


 私は慌ててマシンガントークをしたそうなアリスを止めた。

 スキル? 戦略? まさか。


「アリス、あなた転生者なの?」

「はい!」


 とても元気な返事が返ってきた。

 自分以外にこの世界に転生者がいることを考えたことがなかった。でも私がこうして転生して来てるのだから、他にいてもおかしくはないことなんだ。

 どうして頭からその考えがすっぽ抜けていたのだろう。


「フィオナ様も転生者ですよね!?」

「ええ……でもどうしてわかったの?」


 私は誰かに転生者だと教えたことはない。だけどアリスは私を転生者だと確信しているようだった。


「フィオナ様のご自宅にお邪魔したときあったじゃないですか?」

「え? ああ……」


 孤児院に行って倒れた日のことを言っているのだろう。あの日、アリスは私を心配して家まで付いてきてくれた。


「ジャポーネのレストランをやってると聞いたとき、絶対フィオナ様とルイス様のどちらかが転生者だと思ったんです。だってこの国でジャポーネに由来するものを扱おうとするなんて、転生者ぐらいしか考えられないですもの」


 そうだ。あの日、帰り際ジャポーネのレストランの話をした。あのとき、何か言いたそうだったのは、私たちのどちらかが転生者だと思ったからなんだ。


「フィオナ様のほうだと確信したのは、フィオナ様の活躍を聞いたからです」

「活躍?」

「その胸の勲章」


 アリスが私の胸元を指差した。そこには国王陛下に貰ったばかりの勲章が光り輝いていた。


「フィオナ様がそれを貰うきっかけになった学校事業や病院や孤児院の立て直し……この国のやり方と百八十度違います。そう、発想がまさに私のいた世界のもの!」


 アリスが私の胸元を差していた指を私の顔に向ける。


「そこで確信したのです! フィオナ様が転生者だと!」


 まるで探偵のように告げるアリスに内心拍手を送った。自分では気付かなかったが、行動すべてが他の転生者から見たら、私が転生者だと言っているようなものだ。

 まさかヒロインが転生者だなんて。

 このパターンだと、今までやったゲームや読んだ小説の中では、だいたい対立するんだけど……。

 と思いながらアリスを見ると、キラキラと瞳を輝かせていた。

 私を嫌ってはなさそう?


「で、フィオナ様はどんな特殊スキルを?」

「え?」


 スキル?

 そういえば、さっきもそんなこと言ってたな。

 私が戸惑っている間に興奮した様子でアリスが話を続けた。


「ここ異世界ですもんね! きっと転生チートがあるはず! ふふ、死ぬ前はずっと病院で時間があったからいろんな転生チートもの読んだり、戦闘ゲームやりまくったんですよ……いつ授かるんですかね? フィオナ様は神から何かお告げがあったとかですか?」


 いえ、何も授かってないです……。

 まずいわ……この子……。

 私は今の発言で確信した。


 ――この子、ジャンルを勘違いしている上に、ここが乙女ゲームの世界だって気付いてないのね!?


 どうしよう……真実を伝えるか……でもこの子の澄んだ瞳を見ると本当のことを言うのを躊躇ってしまう。

 私はアリスを見る。そこには期待を隠しきれないアリスがいた。

 この夢いっぱいの彼女の心を守りたい気持ちもあるし、期待していたのに裏切られて傷付く未来もあってほしくない。私は悩みに悩んで決めた。

 ――よし! 言おう!


「あのね、ここは異世界で間違いないんだけど」

「そうですよね! 現代でこんなファンタジーな国ないですもんね! で、魔王はいつ復活します? 魔法は? ドラゴンは? ソードマスターになるにはどうしたらいいですかね?」

「落ち着いて、まず落ち着きましょう」


 興奮しているアリスを落ち着かせるために、手で「どうどう」という仕草をした。アリスは素直に聞いてくれて、ワクワクした様子を隠せないまま口を閉じた。

 私は一つ間を置いて、覚悟を決めてアリスに話した。


「あのね、ここはあなたの想像しているような世界じゃないの」

「え?」

「ここはね――乙女ゲームの世界なの」


 アリスがフリーズしてしまった。


「アリス? アリス、大丈夫?」


 アリスの目の前で手を振ると、少ししてアリスがハッとして動き出した。


「ふぁっ! 一瞬意識飛んでました! 乙女ゲームなんてそんな私のやったことないジャンルの世界だなんて思ってなくて……!」


 そう、そうよね。転生するなら自分の知ってるジャンルの世界だと思うわよね……。


「でも、乙女ゲームでもチートありますもんね! よし! 頑張ってスキル磨くぞ!」


 ああ、私はこれから彼女にさらに残酷な現実を教えなければいけない……。

 気が重いが、私は勇気を出して告げた。


「ごめんね……期待しているところ悪いけど、これ、戦闘系乙女ゲームじゃないの」

「え……」


 アリスが再びショックを受けて固まってしまった。そして固まった笑顔のまま口を開く。


「戦わないんですか?」

「戦わないのよ……」

「スキルないんですか?」

「ないのよ……」

「魔法は?」

「ないのよ……」

「ドラゴンは?」

「いないのよ……」


 アリスがガーン! と効果音が付きそうなほどのショックを受けて、その場に膝をついた。


「そ、そんな……そんなのって……」


 そうよね……ショックよね……自分の期待していた世界と違うのショックよね……。

 言わないほうがよかったかな……でも言わないでずっと期待し続けるのも辛いものね……。

 なんて言って慰めたらいいか……。

 私はまだ膝をついているアリスの肩をそっと掴もうとしたそのとき。

 急にアリスがバッと立ち上がった。そして大きな声を出した。


「でも可能性はありますもんね!」

「……うん?」


 何が?


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