第53話 パーティーと言えば
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呼ばれたほうに急いで向かうと、そこには国王陛下とジェレミー殿下がいた。
国王陛下が私の近くまで寄る。こんなに至近距離に国王陛下が来るのは初めてだ。
「フィオナ・エリオール侯爵令嬢」
「はい」
「貴殿の働きにより、国が良き方向へ生まれ変わった。それを讃え、貴殿に子爵位を授ける」
サディアスの父親である宰相がサッと勲章を差し出した。それを国王陛下が手に取る。
国王陛下はそれを私に差し出した。
私はそれを受け取り、頭を下げた。
「これよりフィオナ・エリオール侯爵令嬢は、フィオナ・エリオール子爵となった。皆、拍手を」
パチパチパチパチと拍手が聞こえ、私は頭を上げて笑顔で手を振った。
最後に国王陛下にカーテシーを披露し、その場を後にする。
「フィオナ」
「ルイス」
ルイスがすぐに私のそばに来てくれた。
「ど、どうだった? 私、変じゃなかった!?」
かなり緊張して国王陛下の顔もまともに見れなかったが、粗相はしなかっただろうか。
「大丈夫だ。立派にやり遂げたよ」
「よ、よかった……」
変なことはしてなさそうでほっとした。
ルイスがスッとこちらに手を差し出した。
「何?」
「それ、せっかくもらったんだから、付けようか」
それ、とルイスが言っているのは先程もらった勲章だ。バッヂになっていて、服に付けられる。
男性の場合、そのまま国王陛下が付けるのが慣例だが、私の場合未婚の女性ということで、触れるのが躊躇われたのだろう。それは省略されていた。
ルイスは私から勲章を受け取ると、胸元に付けてくれた。
「うん、似合ってる」
「あ、ありがとう」
胸元で光る勲章。必要ないと思っていたが、貰えたら貰えたでやはり嬉しい。
「音楽が始まったな」
ルイスに言われて、演奏が始まっていることに気付く。ダンスの時間だ。
「無理に踊ることはない。フィオナは身体が弱いから」
「ルイス……」
本当は婚約者同士で踊るのが当たり前だ。でも、私はルイスの言う通り、身体が弱いから途中で倒れる可能性がある。
でも……。
「何か食べるものでも――」
「ル、ルイス!」
私は食べ物を取りに行こうとしたルイスの袖を引っ張った。
「す、少しだけ踊らない?」
ガッツリ踊るのは無理だ。だけど、少しだけ、簡単なステップで無理のない範囲なら、今の私ならいけるかもしれない。
「無理しなくていい。踊らなければいけない決まりもないしな」
私を気遣うルイスに、私は言った。
「わ、私が踊りたいの! ルイスと!」
恥ずかしくてちょっと声が上擦ってしまった。
「踊りたい? 俺と?」
ルイスが確認するように言うので、私は目を瞑ってこくりと頷いた。
今までも一緒に踊ったことはある。でも私はダンスをできる体力もなかったから、可能な限り避けていた。どうしても踊らなければいけないときは踊ったけど、お互い嫌いあっていたから、殺伐としていたし、私は倒れないようにするので必死で、それどころではなかった。
せっかくだからダンスのいい思い出を作りたい。
ルイスからの反応がなくて、私はおそるおそる瞑っていた目を開いた。
ルイスは顔を真っ赤にして立っていた。
「ルイス?」
「フィオナが……俺と?」
ルイスが信じられないという様子で呟いた。
「俺と、踊りたいと言ったのか?」
「そ、そうだけど」
何かいけなかっただろうか。
「あの、ルイス」
「す、少し待ってくれ」
ルイスが私から距離を取った。
「抱きしめたくなるのを我慢してるから」
「え……」
抱きしめたくなる……? 誰を? ……まさか私を?
「急に可愛いことを言うから……他の男には言わないでくれよ」
か、可愛い!?
「い、言わないわよ」
言うわけない。
「私はルイスと踊りたいんだもん」
私の言葉に、ルイスは固まった。
「勘弁してくれ」
ルイスが顔を両手で覆った。
「理性が効かなくなるだろ」
え……?
ルイスはふうー、と長く息を吐くと、私の手を握った。そしてダンスをしている輪の中に入る。
ゆっくりとこちらのペースに合わせたステップで踊り始める。
「無理だったらすぐに言うんだぞ」
「うん」
ルイスの気遣いが嬉しい。
私とルイスが踊っていることに気付いて、周りがざわついた。しかし、ルイスが釘を刺したためか、みんな直接的なことは言わないし、チラチラと興味深げにこちらを見るだけだった。
楽しい。
踊るのも久々だけど、いつも殺伐としていたし、楽しいと思うことはなかった。だけど今は違う。ルイスはこちらに合わせてくれているし、何より彼も楽しそうなのが伝わってくる。
ダンスって、本当はこういうものだったんだ。
自然と笑みが漏れてしまう。それに気付いたルイスもにこりと微笑みかけてくれた。
いつの間にかみんなに注目されていたが、それすら気にならずに、ルイスとステップを踏んだ。
曲も終盤に差し掛かり、離れるのが名残惜しい。そう思ったときに、曲が止まった。
ルイスと私も、密着していた身体を離す。
「た、楽しかったね」
「あ、ああ」
お互いどこか気恥ずかしくてはにかんだ。
少しその空気の余韻に浸っていると、後ろから声をかけられた。
「フィオナ嬢」
「サディアス」
サディアスは私とルイスの間に割って入ると、スッとこちらに手を伸ばした。
「私とも一曲踊っていただけますか?」
まさかサディアスにダンスに誘われるとは思っておらず、私は目を瞬いた。
「あ、えっと……」
「ダメだ」
ルイスがサディアスから私を遮るように立ち塞がった。
「フィオナは俺以外と踊らない」
「パーティーですが? フィオナ嬢は他の人間と踊る権利があります」
二人の間に見えない火花が散っているのがわかる。
「この状況で声をかけるなんて、その根性だけは認めてやる」
「お言葉ですが、今がいい感じだからと言って今までのことが水に流れるわけではないんですよ?」
「お前に付け入る隙があると思うか?」
「隙というのは作って割り込むものですので」
この二人、どうして会う度にやり合ってるんだろう……。
私は二人が言い合っている間にサディアスのそばに寄り、彼の袖を引っ張った。
それに気付いたサディアスがルイスにかけようとしていた言葉を止めた。
「フィオナ嬢」
パッと明るい表情になったのが申し訳なさに拍車をかけるが、私は言った。
「ごめんなさい。もう体力の限界だから踊れないの」
先程から足がブルブル言っている。私の必死な様子に、サディアスは一瞬で冷静になったようだ。
「それは仕方ありませんね。ではどこかで休んで――」
「それは俺の仕事だ」
ルイスがサディアスの言葉を遮った。ルイスとサディアスは睨み合っていたが、ふう、とサディアスがため息を吐いて、一歩引いた。
「フィオナ嬢、いつかまた機会があったら踊ってください」
「うん」
「フィオナ、こういうときは『そんな日は来ない』とハッキリ言ってやるんだ」
「婚約者を変えたくなったらご相談ください」
「おい」
またやり合いそうになったので、私は声を上げた。
「な、中庭で休んでるね! ルイス、また後で!」
言うが早いか、私はその場を後にした。ルイスの「フィオナ!」と言う声が聞こえたが無視をして進む。ルイスはサディアスが邪魔をしてすぐに追って来れないようだ。ありがとうサディアス。
着いた中庭は、メイン会場の騒がしさが嘘のように静まり返っていた。休憩するにはまだ早い時間なので、誰もいないようだった。
私は中庭の端で息を吐いた。
「このまま結婚してもいいかも……」
言ってすぐに自分の頬を叩いた。
ダメよフィオナ! ルイスと婚約している限り、いつ破滅フラグがあるかわからないんだから、気を引き締めないと!
私が自分に喝を入れているそのとき。
「フィオナ様?」
聞き覚えのある声がした。
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