第52話 授与式パーティー
「う、うわぁ~……」
思わず間の抜けた声が出てしまうぐらい会場はすごかった。
さすが王室主催のパーティー。そう、王室主催の爵位授与もするパーティーなので、王宮で行われる。煌びやかな会場。豪華な食事。着飾った人々。どれも眩くて目眩がした。
おそらく国内貴族のほとんどが呼ばれたのではないかと思うほどの人数が会場にはいた。
この中で私は国王陛下から爵位をもらうのか……。
今からでも断れないかな……ダメかな……。
「どうした? もしかしてもう体調が悪くなったのか?」
ルイスの心配そうな表情に、一瞬そうだと答えそうになったけど、首を横に振った。
「いや、まだ大丈夫」
「今日はエリックがいないから、無理しないようにするんだぞ」
そう、エリックはうちの屋敷で待機している。今日は貴族の集まりだから、平民であるエリックは来れなかったのだ。
「ありがとう」
ルイスにお礼を言う。ルイスが隣にいてまだよかった。緊張するし、何より――。
「ねえ、あれフィオナ様よね?」
「厚かましくルイス様とおそろいのドレスを着てるわよ」
「婚約破棄目前じゃなかった?」
「今日のパーティー、フィオナ様のために開いたって聞いたんだけど」
「王族に無理言ったんじゃない? 弱みでも握ったのかも」
あちこちから聞こえる陰口が辛い。
そう、私は嫌われ者だった。
今までの自分の行いからすると、仕方ない部分があるけれど、やっぱり凹む。記憶を取り戻す前は確かに態度は悪かったかもしれないけれど、王族の弱みを握って言う事聞かせるほどの悪女でもなかったはずなんだけどなぁ。
悪口も、敢えて聞かせようとしてるのがわかる。声が潜んでないもの。こっち見てくすくす笑ってる。
前にカミラの前で今までのことは病弱だったからだと告白したけど、その場にここにいる全員がいたわけでもないし、いても信じてない人間も多いだろう。だってあの場で身体が弱かったと言ったのが、私本人なのだ。嘘を吐いていると思う人も多かったはず。
自業自得な部分があるとはいえ、いい気分ではない。もし王族が開いてくれた私のためのパーティーでなければ、すでに帰っていたかもしれない。
「フィオナ」
「何? ルイス」
「気にすることはない」
ルイスが私の手を取った。
「すぐに彼らが陰口など言えないようにしてあげるから」
どういうことか、と聞こうとしたが、聞けなかった。ルイスが私の手を引いたまま歩き出したからだ。
「ルイス!?」
ズンズン進んでいくルイスに、他の人たちも戸惑っている。
ルイスはそのまま進んでいき、会場の真ん中まで足を運んだ。そして立ち止まると、くるりと周りを見回した。
「本日お集まりいただいてありがとうございます。私のほうから、皆様に知っておいてほしいことがあります」
ルイスがその場にいる全員に向けて言葉を発した。よく通るその声、そして公爵家嫡男という存在に、みんなが注目した。
ルイスは私の手を握ったまま、話を続けた。
「フィオナは幼い頃から身体が弱く、パーティーに参加する体力もありませんでした。だから今までパーティーを途中で抜けたり、身体の辛さから、険しい表情を浮かべることもあったかと思います。きっと皆様の目には、フィオナが貴族の令嬢として礼節を弁えていないように見えたでしょう」
しん、と静まり返った会場で、ルイスは止まることなく話を続ける。
「実は私も最近まで誤解していました」
ルイスがギュッと私の手を握る手に力を入れた。
「愚かでした」
ルイスが私を一度見て、また前を見据えた。
「フィオナの行動の意味を勝手に決めつけて、彼女に冷たい態度を取りました。本来なら婚約者である自分が彼女を守らなくてはいけないのに」
ルイス……。
もしかして、私が思っている以上に、彼は過去のことを後悔しているのだろうか。
私の態度のせいでもあるのだから、ルイスだけのせいじゃないのに。
「だから、今までの分まで私はフィオナを守ります」
ルイスの言葉に迷いはない。
「フィオナへの悪態は我がハントン家へ向けたものと判断します」
ルイスの言葉に一気にみんながざわめいた。それもそのはずだ。ルイスは私に何かすれば、ハントン家が敵になると言ったも同じなのだから。
ルイスは近くにいた使用人から飲み物を受け取ると、それをみんなに見えるように持ち上げた。
「それでは皆様、よいパーティーを。乾杯」
ルイスが飲み物を掲げる。それを合図にみんなどこか気まずそうにしながらも、同じように飲み物を掲げて「乾杯」と口にした。
それを見届けると、私とルイスはその場を移動した。
ルイスは私にも飲み物を取って渡してくれる。受け取りながら、私はおそるおそる訊ねた。
「ルイス、よかったの? あれ」
「あれとは?」
「ハントン家へ向けたものってやつ」
「ああ」
ルイスはグラスを持って中身を揺らした。
「もちろん。フィオナはハントン家の跡取りの婚約者なのだから、この待遇が正解だ」
ハントン家は公爵家。それだけで貴族の世界で大きな力を持つのに、ハントン家は経済的にも欠かせない存在だ。
この国のどの商売とも関わっていると言われているぐらいで、ハントン家に嫌われることは、この国で生きていくことが困難になることを意味する。
だから、きっとハントン家に逆らってまで私の悪口を言う人間はいないだろう。少なくとも、先程のような堂々とした嫌がらせはしないはずだ。
ルイスの顔に少し影が差す。
「本当なら、もっと早くこうしておくべきだった。ごめんな、フィオナ」
「ルイス……」
「これからは君にこんな思いはさせないから」
ルイス……。
本当に私を婚約者として大切にしてくれているんだ。
でも、ルイスはいずれアリスと……。
私はアリスと一緒にいるルイスを想像して胸が痛んだ。
前までヒロインとルイスが一緒にいることを想像してもなんともなかったのに、なんでだろう。
「フィオナ嬢ー!」
私を呼ぶ声が聞こえた。いよいよ出番のようだ。
ルイスが私の背中を押した。
「行っておいで。ここで見守ってる」
緊張が少し解けた。私はルイスに笑顔を向けた。
「行ってきます」
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