第46話 ヒロイン登場
私の目の前にいるのはとても愛らしい少女だった。
特徴的なピンクの髪に、美しい黄色の瞳。小動物を思わせる可愛い容姿。
私は彼女を知っている。
そう、何度も見た。
私は前世で何度も彼女の立場になってゲームを進めていた。
彼女はアリス・ウェルズ男爵令嬢。
このゲームのヒロインだ。
「あのー……」
差し出した手が握られず、どうしたらいいのかわからないのか、アリスが戸惑った表情を浮かべていた。
しまった! 一瞬意識が飛んでいた!
私はアリスが差し出してくれた手を握った。
「はじめまして。フィオナ・エリオールです」
握った手は小さく柔らかく、これがヒロインの手なのだと少し感動してしまった。
女の私から見てもとても可愛らしくて、これはゲームの中の男性諸君が虜になるのも無理はないと納得した。
アリスは私が手を握ったことにほっとしたように少し笑う。
「私、最近貴族になったばかりで……粗相があったらごめんなさい」
アリスがはにかみながら少し困った様子で言った。
ちょっと恥じ入る感じが満点! 可愛すぎる!
え、ちょっと、ヒロインってこんなに可愛いの? いや、容姿も可愛いけど反応がいちいち可愛すぎない? 天使かな?
もしかして私も攻略対象だったかな? 胸がときめくもん。裏ルートがあったのかもしれない。
「フィオナ?」
ヒロインの可愛さにより再び固まってしまった私にルイスが声をかける。いけない、また飛んでた!
「あら、他にもいらっしゃったんですね、ごめんなさい」
ルイスと、後ろにいるエリックに気付いたアリスが頭を下げる。
「改めまして」
アリスがスカートを持ち上げた。
「アリス・ウェルズと申します。父は男爵です。よろしくお願いします」
まだ不慣れなのがわかるカーテシーを披露した。
ルイスがアリスをじっと見る。
「ハントン公爵家嫡男、ルイスだ。よろしく頼む」
ルイスがアリスに短い挨拶を返した。アリスとルイスがそのままじっとお互いを見る。
見つめ合う二人を見て、私は気付いた。
これ、もしかして出会いイベントでは!?
そうだ! アリスとルイスは孤児院で出会うんだった!
ゲームではフィオナに追いかけられて逃げたルイスが、逃げ込んだ孤児院でアリスに出会っていたし……私はルイスを追いかけてなんていないから、ちょっと流れが違うけど、これ、絶対出会いイベントよね!? 今の挨拶からして初対面だったものね!?
ということは、私は今貴重なシーンを目にしているのでは?
確か、ルイスは初対面のときからヒロインに好意を抱いたはず。
さて、ルイスの様子は……。
と私はルイスを見たが……真顔だった。
顔を赤くしていたりするかと思ったけど、顔色にも変化はなくただただ真顔だった。
ときめいている男の顔に見えないけど、平静を装ってるのかな? 確かゲームでは一目惚れに近い感じだったわよね?
告白シーンで『初めて会ったとき、可愛らしい君が気になって……関わるうちに、君の内面も知って、君のすべてが愛おしく思うようになったんだ』って言ってたもの。
あの告白シーンは良かったわよね……うん。
と、思い出している場合ではなかった。邪魔者として恨まれたくないから移動しておこう。相手から嫌われる要素は少しでもなくしたほうが断罪される可能性も減るかもしれないし。
「エリック」
私は小声で呼びつつエリックをツンツン突いた。エリックが私を見たので私は顎で向こうに行こうと示した。エリックは「なんで?」と言いたそうな顔をしていたが、私に素直に従ってくれた。
ちなみに一緒に来たサディアスは神父と詳しい話をするためにこの場を離れている。残念、今この場にいたらヒロインに会えたのに。
そのまま私はエリックを引き連れて他の部屋に移動しようと、そっと部屋を出ていこうとしたそのとき。
「フィオナ?」
ルイスに捕まった。
首根っこを掴まれて動けない。
「俺を置いてどこに行くんだ?」
「え、あの、その……」
ちょっと二人きりにしようかと思っただけです……。
とはなぜから言えない雰囲気だ。なんで怒ってるの?
「と、隣の部屋見てこようかなと思って……色んな子どもたちの様子を確認したほうがいいってエリックが」
エリックが「僕が!?」と言いたそうにしていたが、私は視線で話を合わせるように合図した。エリックは不本意そうにしながらも合わせてくれた。
「そう、僕が向こうに行こうって言ったんだよ。小公爵様はそちらのお嬢さんと見つめ合うのに夢中だったから声かけなかっただけ」
エリック!? 余計なことは言わなくていいのよ!? なんで機嫌悪そうな相手を煽ること言うの!?
エリックの言葉に私は慌てるが、ルイスはただ淡々と返した。
「見つめ合ってなどいない。アリス嬢の頭に蜘蛛が付いているからどう言おうか迷っていただけだ」
「え!? あ、本当だ」
ルイスに指摘されてアリスは自分の髪に付いた蜘蛛をヒョイと摘むと遠くに投げた。
「早く言ってくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」
アリスが照れくさそうに言った。
蜘蛛が髪に付くのって恥ずかしいことなんだ……怖がるか驚くかが一般的だと思ってた。
アリス、虫平気なのね。か弱そうな見た目で結構強いわね。
「虫が苦手だったら驚くかと思ってな。……かと言って令嬢に触れるわけにもいかないし」
未婚女性に気軽に触れるのはマナーに反する。特に婚約者の目の前となれば尚更だ。
「こういうときにちょっと触れるのもダメなんて、貴族って面倒ですねぇ」
アリスがしみじみと言った。最近貴族になった彼女にとって、細々した決まりがあるのはストレスだろうな。
「フィオナ」
「は、はい」
話の矛先が急に私に戻って、私は背筋を伸ばした。
「婚約者が他の女性と一緒にいるのに部屋を出ていくのもマナー違反だよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます