第47話 ヒロインと

本日ジャンプTOONにて

『悪役のモブ妻(※死ぬ予定)』

連載開始しました!

月曜日トップ画像の3番目にありますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです!

詳細は近況ノートにて!


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「婚約者が他の女性と一緒にいるのに部屋を出ていくのもマナー違反だよ」


 笑顔だけど有無を言わさない笑みだ。


「は、はい……」

「なんなら嫉妬して相手を追い出してもいいんだよ」

「いや、それはないかな……あ、ちょ、ちょっと妬いたかもしれないです、はい」


 ルイスから更に圧を感じて慌てて言い繕った。


「あのー……お二人は婚約者同士なんですか?」


 私とルイスの会話から、私たちの仲を察したらしいアリスが確認のために訊ねてきた。


「ああ。七歳から婚約している」


 ルイスはなぜか誇らしげだが、その婚約期間のほとんどを険悪に過ごしたんだけど……。

 アリスが私とルイスのやり取りを見て言った。


「仲良しって感じでいいですね!」

「な、仲良し……!? い、いやあの……」


 ヒロインに仲良しと思われてもいいのかな……? 恋の障害になっちゃわない!?

 これから何があるかわからないし、できればヒロインにマイナスな印象は与えたくない。

 元々はとても仲が悪かったしそれを伝えるべき? でも今は確かに仲は悪くないし……と言い淀んでいたら、ルイスが私の肩を抱いた。


「ああ。俺たちはとても仲が良いんだ。そうだよな、フィオナ」


 また圧を感じる。


「そ、そうね」

「だから片時も離れたくないんだ」

「そ、そこまででは……」

「な、フィオナ」

「そ、そうね……」


 圧に負けた。

 ルイスが私の肩を抱いた。そして唇が触れるのではないかと思うほどの距離で口を開いた。


「フィオナ、俺から離れないで」


 至近距離で目が合う。


「は、離れようなんて」

「さっき離れようとしただろう?」

「隣の部屋に行こうとしただけで」

「でも離れようとした」

「あの距離でダメなの!?」


 この部屋とほんの一枚壁を隔ててるだけよ!? あの距離でダメならトイレどうするの!? さすがにダメって言わないわよね!?


「まあ、離れられなくするけどね」


 そういうセリフはヒロインに言って!? 色々勘違いしちゃいそうになるでしょ!?

 胸が痛い。まるで心臓の鼓動が耳元で鳴ってるみたいにドクドク聞こえる。

 息も浅くなって、顔も熱を持ってる。

 あ、もうダメ。


「フィオナ!?」


 ルイスの焦る声と、エリックの「あーあ」という呆れた声を聞きながら、私の視界はブラックアウトした。



          ◇◇◇



 ハッとして目覚めたら、そこは見慣れた自分の部屋だった。


「私、また倒れたの!?」


 毎度ながら自分の病弱さに驚いてしまう。ドキドキしすぎて倒れるなんて……。


「起きたのか?」


 ルイスがすぐそばにいた。


「私……やっぱり倒れたのね」

「ああ。疲れが溜まったんだろう。ゆっくり休むといい」


 疲れもあるけどそれだけじゃないだけどな。

 でも「あなたにときめいて倒れました」なんて言えないから黙っておこう……。


「フィオナ様大丈夫ですか!?」


 アリスもいた。


「アリスさん、どうしてここに……」

「フィオナ様が心配で……目の前で倒れた人を放っておけませんよ」


 心配してくれたのだ。さすがヒロイン。優しい。


「目の前で倒れたから抱きあげようと思ったんですけど力が足りなかったです」


 ヒロインからほとんど聞くことがないだろうセリフが聞こえたんだけど。


「抱きあげ?」

「抱きあげ」


 アリスが頷いた。ついでに抱きあげようとしたときのジェスチャーをしてみせた。ヒロインがやるお姫様だっこ。シュール。

 そんな馬鹿な、と思ってルイスを見ると、ルイスはアリスの発言に笑っていなかった。


「いきなりフィオナを担ぎあげようとするから驚いた」

「無念です……」


 アリスが心底残念そうに言う。冗談じゃなくて本当なの? 場を和まそうと言ってるんじゃなくて?

 アリス、私を担ごうとしたなんて……意識ない人間はただでさえ重いのに……。 

 可愛らしい見た目なのに、結構豪傑なのね……。


「ありがとう、嬉しいわ」


 担ぐことはできなかったが、心配をしてくれた気持ちは嬉しい。私が礼を言うと、アリスは深刻そうな顔をする。


「次はフィオナ様が倒れる前に抱きとめられるように、反射神経も鍛えておきます」

「そ、そこまでしなくても……」

「修行不足でした。次は必ず」

「次は倒れないようにするわね……」


 主君に誓いを立てるような雰囲気のアリスに、私は顔を引き攣らせた。私が倒れたことに責任を感じてるのかな? それにしても責任感がちょっと強すぎるわね……。


「私、ちょっと身体が弱いの。いきなり倒れてごめんなさいね。あなたのせいではないから、気にしないで」


 目の前で倒れて申し訳ない。


「そうなんですか!? 大変じゃないですか!」


 アリスが心配そうに私を見る。


「私もかつて身体が弱かったので、わかります。自由の効かない身体って辛いですよね」

「わかってくれる!?」

「はい。遠出も難しいし、少し無茶をすると寝込んで周りにも気を使わせるし……」

「そう、そうなの!」


 この世界に転生してから、身体の弱さを共感してくれる人は少なかった。

 この国の人は食生活は乱れていたが、元々身体が丈夫なのか、私以外で病弱な人に出会ったことはなかった。

 だから、今こうして同じ悩みを持った人に出会えて嬉しい。

 ゲームでアリスが病弱な設定はなかったし、そういうシーンもなかった。そして見た感じ今のアリスは健康体だ。病弱だったのは幼少で、成長した今は健康なのだろう。

 よかったねアリス。私も早くそうなりたい。


「身体が弱いのはとてもストレスですよね……体調悪いと言うと空気悪くなるし、周りに気を使わせるし」

「そうなのよ……身体の辛さもあまりさらけ出せないの……」


 理解者がいるって素晴らしい。健康体の人に話してもわからないものね、こういう悩み。

 私は共感者に出会えて感動していたが、ルイスは違った。


「俺にはさらけ出せばいいじゃないか」

「ルイス?」


 ムスッとした顔でルイスがこちらを見ていた。なぜだかわからないが、彼は私たちの会話が気に入らなかったらしい。


「俺はフィオナの婚約者だ。君の辛さも受け入れる」

「ありがたいけど……」


 そうだけどそうじゃないのだ。


「わかった」


 わかってくれたのかとほっとしたのもつかの間。


「水を浴びて一晩外に出たら気持ちがわかるはずだ」

「体調不良のやらせ体験しようとしてる?」


 なぜわざわざ自分から風邪をひこうとしてるのか。


「じゃあ二日ほど断食する」

「病弱ってそういうことじゃないのよルイス……」


 なんと説明したら通じるか……。

 まずアリスに張り合おうとするのをやめようか……。


「素敵……」

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