第32話 国王陛下のお願い
本日から
『したたか令嬢は溺愛される ~論破しますが、こんな私でも良いですか?~』
という作品のコミカライズがコミックシーモア様にて連載開始されました!
1話無料なのでぜひお読みください。
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ゆっくりと扉が開いていき、ついに全開になったとき、扉の先にいたのは、国王陛下と王太子殿下。そして宰相と宰相候補と、次期騎士団長だった。
お偉いさんが揃ってる。気まずい。
扉から国王陛下の座る大きな椅子まで一直線に絨毯が敷かれいる。王宮に来たのは初めてだが、ここがなんと呼ばれる部屋かわかる。
絶対ここ玉座の間だ。
だって見覚えあるもん。よく断罪されたり、旅立つ前に有難いお言葉賜ったり、王位継承の儀式とかある場所でしょ? いろんなゲームや漫画で何度も見たことある!
嘘でしょ。なんでこんな厳かなところに呼び出されたの、私。
え!? 本当に何した!? まだ断罪されるような何かしてないよね!?
「フィオナ?」
固まる私にルイスが声をかける。ハッ、いけない。国王陛下を待たせてしまっている!
なんで呼ばれたかわからないけど、心象は良くしておきたい。
恐れ慄きながら私は1歩ずつ歩く。
コツコツ、という私の足音が響く。その後をルイスの靴音が追いかけてくる。そしてルイスより軽い靴音がその後にする。エリックの足音だ。1人じゃないということがわかって心強い。
ついに国王陛下の前についた。
「よく来たな、フィオナ嬢」
国王陛下に声をかけられ、カーテシーを披露する。
「フィオナ・エリオールでございます。陛下からの手紙に馳せ参じた次第です」
国王陛下と直接対面するのは初めてだ。パーティーなどで遠目に見たことや、親を交えてサラッと挨拶したことはあるけれど、こんな近距離で話をしたことなどない。
この人がこの国の最高権力者。
ゲームではサラッとしか出てこなかったから、実際どんな人かわからない。特に変な噂なども聞いたことないから、いきなり断罪をしたりする人物ではないと思うけど……。
チラッと国王陛下を見たら、にこりと微笑まれた。反射的に笑みを返す。
そして国王陛下が何かを手にした。細長くて固さはなさそうな……あれ、あれ見覚えあるぞ。
「ここに書かれていることは本当か?」
あーーーー! ああーーーー! それは!! あの新聞!!
そう、私のことが特集されてしまったあの新聞である。
「へへへへへへ陛下、それは大袈裟に書かれておりまして……」
「『先日から話題のハーブであるが、なんと発案者はエリオール侯爵の娘、フィオナ令嬢であることが発覚した。彼女は誰も知らないハーブの効果についての知識を持っており、それが今回の流行の火付け役となった。フィオナ令嬢の兄、バート・エリオール侯爵令息は「あの子は昔から出来る子でしたがそれを鼻にかけない子でした」と語っており……』」
お兄様ーーーー!! お兄様ーーーー!!
兄の親バカならぬ兄バカ記事を読まれて心の中で絶叫する。やめて本当に、いたたまれなすぎる。こんやものを一国の王にまで読まれてしまったのか。
国王と対面して早々にライフがゼロになってしまった。今あと一撃もらったら再起不能になってしまう。そうなったら堂々と気絶しよう。
主治医もいるから安心だといつでも倒れる準備をしながら私は平静を装いながら口を開いた。
「国王陛下の目にも入っていたとは恐悦至極でございます」
「エリオール侯爵令息の愛を感じるな」
もうダメ今のでクリティカルヒット。
よし、気絶しよう。
サクッと倒れようと思ったところに国王陛下が言葉を続けた。
「フィオナ嬢に折り入って頼みがある」
私は倒れようとした意識を浮上させた。
「頼みですか?」
一国の王が侯爵令嬢に頼み?
「ああ。実は深刻な問題があってな。詳しくは――」
「俺が話そう」
国王陛下の隣にいた人物が、スッと一歩前に出てきた。
私はこの人物を知っている。
サラサラと揺れる美しい金の長髪。新緑を思わせみる瞳に、それを縁取る長いまつ毛。シミ一つない美しい肌。品位の高さを感じさせる佇まい。緩やかな笑みを浮かべる綺麗な顔。
そう、彼こそ、この国の王太子。
そしてゲームのもう一人の攻略対象。
ジェレミー・グラリエル殿下である。
「お久しぶりでございます。王太子殿下」
私はカーテシーを披露し、挨拶する。
そう、私と王太子殿下は初対面ではない。カミラ同様、たまにパーティーなどで顔を合わせていた。
ただ、私はすぐ体調が悪くなるから、挨拶以外の会話をしたことはないが。
国王陛下じゃなくてジェレミー殿下がわざわざ話すことって……?
ハラハラしながら話を待っていると、ジェレミー殿下はにこりと笑った。
「そう堅苦しくしないでくれ。なるべく手短に話そう」
安心させるような笑みに、断罪などの用事ではなさそうでほっと息を吐いた。
「最近君の領地の人間が元気になっているそうだね」
「ええ……まあ……」
私のハーブ事業などがようまくいっていることもあり、領民の生活習慣にも変化が起こった。その結果、身体の調子が良くなったと言う領民が出てきたのは事実だ。
「結論から言うと、我が国の国民を健康にする手助けをしてほしい」
「……え?」
とんでもないお願いをされて、私はポカンと口を開けてしまった。
だが再び「国民を健康にできるよう助けてほしい」と言われて、聞き間違いの線を消されてしまった。
「まさか、ただの一介の貴族令嬢に、国が行う施策に携われと言っています?」
「そうだ」
はっきりと言いきられ、私は目を見開いて慌てて否定した。
「その新聞は大袈裟に書かれておりまして……」
「だが君の兄はこの新聞を持って自慢していたぞ」
お兄様ーーーー!! お兄様ーーーー!!
兄の兄バカのせいで大ピンチです!
「それに彼も君には助けられたと言っている」
彼?
私は誰かを助けたことがあるだろうか、と考えながらジェレミー殿下の視線の先を見ると、そこにはニックがいた。
彼はニコッと笑った。
「フィオナ嬢、見てくれ! この筋肉を!」
彼はさすがにこの場を考えたか服までは脱がなかったが、腕をめくり嬉しそうに二の腕を見せてきた。
「この! 俺の! 輝く筋肉!!」
ムキムキムキムキ!
ニックは自分の筋肉を見せつけるようにポーズをとる。いいよ……見せつけなくていいよ……。
「フィオナ嬢に相談して食生活や運動法を見直したらこんなに素晴らしい筋肉が手に入ったんだ!」
キラキラキラキラ。
輝く笑顔で語られるのは筋肉のことのみである。
彼はあれから私の言ったことを実践して、成果を得ているようだ。
「俺は嬉しかったからジェレミー殿下に言ったんだ」
言ったって何を? 嫌な予感しかしない。もうさっきからこの部屋に入ってから嫌な予感しかしてない。
「フィオナ嬢ならきっとジェレミー殿下の力になってくれるって!」
ニックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
恩を仇で返すとはまさにこのこと。
そうか、ニックがそう言ったから王族が私を調べて呼び出したのだ。
余計なことを……。
なんだその「俺いいことしたよね?」みたいな顔。よくないよ。私は名誉とか何も求めてない引きこもり志望の虚弱女なんだよ。
「暑ぐるしいな……」
ジェレミー殿下が小さな声で言った。
ジェレミー殿下もニックのこと暑ぐるしいと思ってるんだ。
「というわけだ」
どういうわけ?
ポーズをとるニックを見るのがもう嫌になったのか、ジェレミー殿下が私に視線を戻した。
「周りからの評判もある。君には実力があるんだ。ぜひとも力を貸してほしい」
「そうだとも! 君しかいない!」
私をなんとか引き込もうとするジェレミー殿下と、ムキッとポーズをとりながら私に白い歯を見せるニック。
いや本当にニック黙っててほしい。今ので「実力なんてないです!」と言うタイミングを逃したじゃない!
どうする!? どう返そう! 色々考えて頭が痛いし、王族に会うからと着飾った服が重いし、ずっと立ってて足も痛くなってきたし、疲れた!
「一言いいでしょうか」
私が困っていると、ルイスが口を挟んだ。
そうだわ! ルイスがいたじゃない! きっとルイスなら王族とのやり取りも慣れてるはずだし、私を救ってくれるはず!
私はルイスに期待を込めた視線を向けた。ルイスは真剣な表情で言った。
「この話が長くなるなら、フィオナを座らせていただけないでしょうか」
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