第28話 デート服完成!
「できました」
ナタリーさんがおっとりした笑みを浮かべたまま、我が家に大きな荷物を持ってやってきた。
おそらくその荷物の中身が、依頼した品なのだろう。
「開けてみてください」
私はゴクリと唾を飲み込みながら、荷物を開封した。
中から現れたのは、綺麗な布地のワンピースだった。
白いワンピースに、胸元やスカート部の裾にはレースがあしらわれ、ドレスとは違うが、高級さは損なわれていない。
青い糸で刺繍もされていて、流行に疎い私から見ても、とても心躍るデザインだった。
「わあ、素敵」
「どうぞ着てみてください」
お言葉に甘えて、私はワンピースを身につけた。
肌触りもとてもいい。何より軽かった。
「すごい!」
「可能な限り軽く、そして熱がこもるのもよくないだろうと思い、通気性のよい生地を使わせていただいております。いかがでしょうか?」
「とてもいいです!」
ここまで軽い服を着るのは初めてだ。正直ドレスはオシャレでテンション上がるが、重く暑いのだ。病弱な私にはなかなかキツい服装だが、ドレス文化のために着るしかなかった。それに対してこれは疲れにくく、身体の負担が少ない。
何より1番違うのは、コルセットだ。この服はコルセットがなく、窮屈さから開放された。
「靴はこちらを」
そう言って差し出されたのは、ヒールのない靴。現代ではフラットシューズと呼ばれる、あの歩きやすい靴だ。フラットすぎても足が痛くなるものだが、これはクッションがしっかりしており、疲れにくそうだ。ヒールはないが、ワンピースに合わせたデザインでとても可愛かった。
「アクセサリーはこちらを」
ナタリーさんがサッと首に付けてくれたのは、宝石が小ぶりなネックレスだった。
「なるべく重くないように、過剰な宝石は控えながらも、ワンポイントアクセントになるデザインとなっております」
貴族は宝石類を身につけるが、1粒1粒が大きかったりと、これが意外と重い。肩が凝るし、それによって頭痛の原因になる。
しかしこれはとても軽く、着け心地がいい。
「あとはこちらの髪飾りもお使いください。女性は髪型を少し変えるだけで印象が変わるので、色々試されるといいと思います」
ネックレスが小ぶりなためか、髪飾りも用意してくれていた。
「髪型は私の腕の見せどころですね」
アンネが髪飾りを受け取りながらやる気を出していた。
私は用意された姿見を見て、ほぉ、と息を吐いた。
ドレスとは違う美しさがあり、コルセットはないけれど、形崩れもせず綺麗だ。私の身体のことを考えて作るので大変だっただろうが、こちらの期待を超える出来栄えだった。
ナタリーさんが国1番のデザイナーと言われるのも納得である。
「お嬢様、大変お似合いでございます」
アンネも満足そうに私を見ていた。
「ありがとう、ナタリーさん」
嬉しくなった私が笑みを浮かべてお礼を述べると、ナタリーさんもにこりと微笑み返してくれた。
「お礼を言うのはまだ早いですよ」
「え?」
ナタリーさんの言葉を待っていたかのように、扉が開いて我が家の使用人たちが何やら大量に荷物を持ってきた。
「え? え? え?」
驚く間に大量に運ばれたかと思えば、使用人たちは用が終わるとサッと去っていってしまった。
残されたのは、大量の荷物とアンネとナタリーさんと私である。
ナタリーさんが使用人が置いていった一つである、何かカバーがかかった物に手をかける。
そしてバサッとカバーを落とした。
そこにはドレスがあった。
「ドレス……?」
今回の依頼はルイスとのデートの服を仕立てることだったはずだ。そしてその服は今私が着ている。
ではこのドレスはなんなのか。
「こちらもご依頼いただいたのです。ルイス様から」
「ルイスが?」
ナタリーさんが頷いた。
「フィオナ様は貴族。となれば、これからもドレスを着る機会は幾度もあります。今回のようにワンピースを着れたらいいでしょうが、現在はドレス文化。私はいずれ貴族の間でもこのワンピースのようなものが流行るの確信していますが、今はまだそのときではありません。なので」
ナタリーさんがトルソーからドレスを1枚脱がせた。そしてそれを私にそっと手渡す。
「フィオナ様の負担が少ないドレスも今後のために作っておいてくれとのご依頼でした」
「私のため……」
私は手渡されたドレスを見る。
「軽い……」
もちろん今着ているワンピースほど軽くはない。だけど、今まで着ていたドレスよりは圧倒的に軽かった。ワンピースと同じく、素材もこだわってくれており、肌触りもとてもよく、通気性もよさそうだった。それでいてさすがこの国一番のデザイナーナタリーさん作のドレス。軽いながらも美しさを損なわず、どこに着ていっても恥ずかしくないどころか自慢できるデザインとなっていた。
「ドレスに合うアクセサリーや靴も用意しております」
トルソーにかかってない箱に入った荷物たちは、どうやら靴やアクセサリーが入っているらしい。
「愛されてますね」
「あ、愛……!?」
私はワタワタと手を動かして否定した。
「愛だなんてそんな……婚約者としての義務で……!」
「あら、義務でここまでされる方はいらっしゃらないですよ?」
にこにこと告げてくるナタリーさんに私は口を閉ざすしかなかった。
顔が熱い。ナタリーさんが変なことを言うから。
「まあ何はともあれ、こんなにしてくださる婚約者さんは素敵ですよ」
確かにとても有難いし嬉しい。
「私が欲しいぐらい」
私はバッとナタリーさんを見た。
「い、今なんて?」
「いえ、素敵な婚約者さんで羨ましいな~と」
穏やかに笑うナタリーさんに、私は少し気持ちが落ち着かなくなった。なんだろう、モヤモヤする。
「ふふふ、やだ。私ったら少しからかいすぎましたね」
「か、からかう?」
私はからかわれたのか。ならばさっきの言葉は嘘……?
「羨ましいと思うのは本当ですけどね。だってこんなに尽くしてくれる婚約者がいるのは、誰だって羨ましいですわ」
尽くす……やはり私は尽くされているのだろうか。
さっきとは違う胸のざわつきに襲われて、思わず胸に手を置いた。
「ごめんなさいね。あまりにフィオナ様の反応が素直で可愛いから、ついからかってしまいました」
ふふふ、と笑われてなんだか恥ずかしい。すべて見透かされている気分だ。
どう反応していいかわからない私に、ナタリーさんは微笑ましそうに見ていた。
「わかりますよ、ナタリーさん。私もお嬢様の反応が可愛くてよくやります」
アンネだけは通常運転だった。
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