第25話 筋肉は1日にしてならず



 私はドサドサドサと紙の束をニックの目の前に積み上げる。


「これは?」


 ニックの頬が少し引きつった。

 しかし私は構わず言った。


「筋肉をつける方法」


 笑顔付きだ。


「え、えっと、こういうのじゃなくて、もっと簡単な……」

「筋肉を付けることは一朝一夕ではできないのよ」


 残念ながら人の肉体はそんな単純な作りをしていない。

 筋肉を付けたいと取り組んでも、取り組んで一日で筋肉がガッツリ付くことなど不可能。

 筋肉に関しては継続することでついていくのだ。

 この短期間でこれだけ情報を書き連ねるのは大変だったが妙な達成感はあった。


「まず大事なことは……栄養!」


 私は1番上の紙を持って言った。


「えいよう」

「栄養についてはまあこの紙に色々書いてるからそれを読んでもらって……大事なことはバランスよくとること!」


 筋肉をつけるときよくみんな間違うのが、極端に「筋肉にいいと言われてる食材」ばかり食べてしまうことだ。

 確かにタンパク質の多い食材やプロテインをとっていれば、より筋肉は付きやすくなると言われている。


 だが、それだけをとるのでは逆に筋肉はつかなくなるし、そもそも今度は健康問題が出てきて、筋肉どころではなくなってしまうはずだ。


 栄養が偏れば、ルイスの祖母のように脚気になったり、野菜や果物が不足したら壊血病になったりする。他にも骨の形成に問題が出てきたり、『強くなりたい』ニックにとっては悪いことばかりになってしまう。


「偏った食事をしない。と言ってもどうしたらいいか難しいだろうから、簡単にメニューも書いてあるわ」

「好きな物だけ食べたい……」

「偏食しない!」


 ピシャリと言い放つとニックはしょんぼりした。


「より筋肉を付けやすくするには栄養を考えた食事の中に、毎食タンパク質が豊富な食材も使うこと。特にトレーニング後に早めにタンパク質をとることができればより強く太い筋肉が付くと言われてるわ」

「なんだと!?」


 ニックがより強く太い筋肉という部分に食いついた。


「トレーニング後にそのたんぱくしつ? とやらをとればいいんだな?」

「話聞いてた? タンパク質豊富な食材を使った3食栄養ばっちりな食事にプラスしてトレーニング後にもタンパク質をとりなさいと言ってるのよ!」


 トレーニング後だけタンパク質のみとるのではダメだ。栄養を不足させない。これが大事である。


「タンパク質が多い食材は鶏ササミや牛もも肉などの肉類。イワシなどの魚介類、大豆製品や乳製品も結構豊富に含まれているわ。詳しくはこれを見てね」

「う、うむ……」


 ニックが難しい顔でタンパク質について書いてある紙を見る。


「筋肉についてとっっっても大事だから頑張って読んでね! 面倒臭がらず!」

「う、うむ……」


 どう見ても面倒だと思ってる。このままだと実行しないで終わるかもしれない。


「ライバルに勝てなくていいの?」

「う……」

「親の七光りって言われてもいいの?」

「うぅ……」

「騎士団長になるでしょう!?」

「うむ!」


 騎士団長と聞いて、ニックの瞳に力が宿った。


「そうだな! 努力は一日にしてならず! ありがとうフィオナ嬢! 俺は頑張る!」

「頑張ってねー!」


 大きく手を振って去っていくニックに、私も手を振り返す。

 元気だなぁ。きちんと読んでやってくれれば効率よく筋肉もつくと思う。まあ筋トレに関しては専門外だから、そこは自分で頑張ってもらおう。


「で、いつまでいるの、ルイス」

「よかった。存在を忘れられたかと思ったぞ」


 私の隣で黙って成り行きを見ていたルイスがようやく声を出した。


「我が家にわざわざ来たんだから、何か用事があったんじゃないの?」

「もちろんある」


 ルイスが指を鳴らすと、サッと人が数名入ってきた。見覚えのない人たちだからうちの使用人ではない。ルイスが自分の家から連れてきたんだろう。

 彼らは一様に大きな箱を持っていた。


「ルイスまさか……」


 私は予想が外れてくれと祈りながらルイスを見た。

 しかし、ルイスはそんな私の期待を裏切ってくれる。


「プレゼントだ」


 ですよね!


「プレゼントはもう山のようにあるわよ!?」


 私は自室にある大量のルイスからのプレゼントを思い出しながら言った。もはや仕舞う場所に困っている。


「あれでは満足してもらえなかったようだからな」

「満足以前に量が多すぎただけよ! プレゼント自体は嬉しいから!」


 私の言葉にルイスが動きを止めた。


「嬉しかったのか?」


 ルイスが綺麗な目で私を見てくる。私が喜んだことが、まるで嬉しいと言うかのように。


「そういうことはわざわざ聞かなくていい!」


 私は気恥ずかしくなってルイスから顔を背けた。

 ルイスのプレゼントセンスが良かったとか思ってないからね!


「でも俺はもっと喜んでほしいんだ」


 ルイスの声を皮切りに、使用人たちが持っていた箱を開けた。


「お……」


 私は思わず口を大きく開けた。


「お米ーーー!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る