第13話 ハーブの活用法



「ハーブちゃん元気ね~」


 私はハーブに水をあげながら話しかける。

 元々ハーブというのは野菜より育てやすいものが多い。手がかからないがしっかり育つハーブは家庭菜園初心者にうってつけだ。

 話しかけると植物は元気になるという。植物が話しかけられて喜んでるのかと思いきや、逆に話しかけられるストレスで強くなると聞いたが本当だろうか。 


「フィオナ」

「わ! お父様か……」


 ノリノリで水をかけているところに話しかけられ、私は一瞬肩が跳ね上がったが、相手が父だったので胸を撫で下ろした。

 この家にたまたま訪れたお客さんが畑仕事で汚れた私のこの姿を見たら、私の気が狂ったと思われて大変な事態になるかも知れないが、父は私のこういう行動は受け入れてくれている。自分が健康になったらさらに好意的になった。


「よく面倒を見ているな」

「はい! 楽しいです!」


 私は父にハーブを見せる。


「これはオレガノと言って、胃腸の調子を整え、消化を促進する効果があるんです」


 私は胃腸が弱いので、最近食事によく使ってもらっている。


「これはバジルで、よくパスタなどに使われるものですね。味がいいのはもちろんですが、身体の様々な機能を高めてくれる上に、鎮静作用もあるんです。腹痛や吐き気、胃痙攣や頭痛といったものに効果的です」


 これも日常的に取り入れやすいのでよく使うハーブだ。


「そしてこれはフェンネル。お父様にうってつけのハーブです」

「私にか?」

「これはですね……」


 私はフェンネルを父に見せる。


「便秘を直してくれるんですよ」

「これがか!?」


 父がフェンネルに震えた手で触れた。


「おお……これのおかげで便秘が治ったのか……」

「いえ、これだけではないですけど」


 家族の食事は全体的に見直したので、フェンネルだけの効果かと言えば、そうとは言いきれないだろう。だが父の悩み解消に一躍買ったのは否定できない。


「ふむ……」


 父が顎に手を当てる。


「少し考えたんだが……これで商売をしないか?」

「え?」


 これで商売って……このハーブ?


「ハーブは今までただの香辛料扱いだった。だがそれぞれ効果があることがフィオナのおかげでわかったから、それを売りにすればいい」

「それ?」

「効果を大々的に書いて売るんだ」


 父がグッと拳を握った。


「オレガノなら胃腸を整える。バジルは鎮静効果。フェンネルなら便秘だ!」


 確かに、効果が書いてあるとわかりやすいし、興味も持ってもらえるかもしれない。


「ですが、ハーブは薬と違ってそのまま食べるものではないことが多いのです」


 ハーブの大半はこの国では料理に使われる。だから効果が書いてあっても、それ目的で買っても、扱いに困るはずだ。


「そうか……」


 ダメか、と父が肩を落とす。

 私はそんな父にニコッと微笑んだ。


「でも、こうしたらいいと思います」

「なんだ!?」


 私は父の耳元で、そっとその方法を話した。


「な、なるほど……それはいけるな! さっそく事業計画を立てよう! ありがとうフィオナ!」


 父は私の案を取り入れてくれたようで、嬉しそうに走り去っていった。

 この事業が成功したら、我が家はさらに裕福に。私の幸せニート生活へのさらなる足掛けになるはずよ!

 私は自分の未来を予想して、ルンルン気分でハーブの手入れに精を出した。

 正確には出そうとした。


「おい」


 ある人物に邪魔されるまでは。


「げ、ルイス」

「げ、とはなんだ! げ、とは!」


 思わず出てしまった言葉にルイスが噛み付いてくるが、いきなり現れるのが悪いと思う。心構えが無いから本音が出てしまったじゃないか。


「なんの用なのよ」


 と、口にしてから、あ、もしかして、と当たりをつけた。


「婚約破棄の申し出に来たのね!?」


 この間婚約破棄しようと伝えたばかりだ。そしてその後音沙汰なしだったが、今日こうして来たということは、きっと婚約破棄の手続きをしに来たのだろう。


「待ってて、今お父様に……」


 新事業に燃えているが、娘の婚約破棄となれば、すぐに手を止めて話を聞いてくれるはずだ。


 そもそもこの婚約は我が家からの申し出ではなく、ルイスの家からの申し出。


 公爵家と繋がりができるのは有難いけれど、我が家としては、そこまで押し通したいものでもないのである。

 亡き祖父が決めた婚約でなければ、きっと父は、私の婚約にはもっと慎重になってくれたと思う。


「いや、その話ではない」


 求めていた回答ではなくて、私はガッカリする。しかし、すぐに気持ちを持ち直した。


「じゃあいつする?」


 7歳からの婚約だ。そう簡単に破棄できないのかもしれない。

 だから時期を見ようという話ではないか。

 そう思った私が話を振ると、ルイスはそんな私に首を横に振った。


「いや、婚約破棄はしない」

「……は?」

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