第五十六回 創作界隈におけるパラドックス考
はじめての方はよろしくお願いします。
お馴染みの方はようこそ懲りずにお越しいただきました、虚仮橋陣屋(こけばしじんや)でございます。
さて第五十六回ですがー。
なにやらコムツカシータイトルを掲げておりますけれど、安心して下さい。中身はいつものこけばしのアレです。
では、早速お送りします。
■前置き
パラドックス(paradox)とは――。
「正しそうな前提と、妥当に思える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉である。逆説、背理、逆理とも言われる」(Wikipediaより抜粋)
なんだか難しすぎて、ワケが分からないよ!(QB)となってしまいますけれど、まあ要するに、矛盾的な意味だと『魂で理解』したッ!
(脚注:「矛盾」は「不合理な設定」、「パラドックス」は「一見不合理に見えるが、実際は正しい設定」を指しますので、まったくの別モノでございます)
■ファンタジーにおけるアレ
もうすでに「アレ」とか言ってる件。
ファンタジーあるあるで、こういうセリフ、一度は見聞きしたことがありますよね?
「あの恐ろしい魔物と出会ったら最後、生きて帰ってきた者はおらぬ……」
どうしてもこけばし、これを見ると、ん? ってなるんです。
・恐ろしい魔物がいる
・出会ったら殺されてしまう
・なので、誰も帰ってこられない
・という言い伝えがある(←今ココ)
これを読み解くと、矛盾が生じませんか?
だって、出会ったら絶対に帰ってこれないのに、その魔物がいかに恐ろしいか、狂暴なのか、その伝聞情報だけはしっかりと残されているだなんて。その、まさに命を賭けた貴重な情報は、どこの誰が伝えたのでしょう? ひょっとして……魔物自身が宣伝して回っている??
■問1「赤信号では、ただちにその場で停車しなければならない」→×
これ系の、いわゆる「運転免許」筆記試験的な「絶対〇〇」は、総じて疑問を残します。
「これがっ! どんな魔法も遮断する『魔法の盾』だぁあああああ!」
→一切の魔法が通じないのに『魔法の盾』ってwww
「この短剣は、どこまででも敵を追い詰めて必ず殺す……」
→それ……ひとたび解き放った瞬間、魔王も死んじゃわない?
「追放された転生無能王子がスキル〇〇でスローライフを満喫する」
→追放されたのに、まだ王子なの? しかも、無能なのにスキル持ってるの!?
「実は無限の魔力持ちで~」
→意図的に「使い切った」こともないのに、「無限」だってどうして分かるの?
「いじめられてた俺がヤツらに復讐する!」
→チカラを持った途端に平気な顔でいじめる側に回るのって、それってスカッとするの?
「陰キャコミュ障ぼっちの俺が~」
→の割には良く喋るし、仲間作ってるよね? 陰キャコミュ障なめんなよぉ!?
うわぁあああああ!
めんどくせえヤツだな、こけばしぃ!
■ジョシ向け作品にもある疑問点
他にも、「中世ヨーロッパに転生した女主人公が浮気されて復讐する……」などをテーマにした物語がありますけれど、実際の中世ヨーロッパにおける「本妻」以外に「愛人」を作る行為は、至ってごく一般的な行為でした。
そもそも、文化的根幹にあるであろうはずの「ギリシャ・ローマ神話」からして、主神・ゼウスは不倫やら略奪やらなんでもありだったのですから、そんなことで大騒ぎにはなりません。
実際、歴史上で活躍した
まあ、あくまで「中世ヨーロッパ風」だからいいか。うん。
ガチィでそれ系だと、日本人の感覚と大きくズレるので、どのみちウケないのでしょうね。
■本来の意味でのパラドックスについても語っておく
つねづね思っていたことがあるのですけれどー。
かの手塚治虫大センセの代表作のひとつである『どろろ』、のちの『どろろと
有名なパラドックスのひとつである「テセウスの船」とは、こういうものです。
「アテナイの王、テセウスがクレタ島から帰還した際の船を、アテネの人々はのちの時代まで受け継ぎ保存していくことにした。しかし、木造だったため徐々に船が朽ちていくので、そのたび新たな木材で部品を作り直し、都度置き換えていった。やがて、そのすべてが新しい部品に置き換えられて再構成された時、その船は同じ『テセウスの船』だと言えるのだろうか?」
ちなみにご存知の方もいらっしゃるでしょうけれど、この問いにこたえはありません。
また同様に「置き換えられた古い部品を再利用してもう一隻の船を作ったとしたら、どちらが正統な『テセウスの船』と呼べるのか?」という派生形のパラドックスも生じます。
さておき。
こちらもご存知かもしれませんが、『どろろ』というお話は、主人公のひとりである百鬼丸(これが分かりにくいので改題したんですね)が、魔神像に奪われた四十八箇所の「身体の一部」を取り戻す戦いの物語でもあります。ん? ちょっと「テセウスの船」に似ていますね?
■どろろのパラドックス
一応きちんとした(多少マシな、とも言います)スジを書きますと。
時は室町。
天下取りの野望を抱く武士・
幸運にも医者・
舞台設定は室町時代と古風な本作ですけれど、今読み返しても新鮮で斬新ですし、発想力も凄けりゃ表現力もハンパじゃありません。
生まれたばかりの百鬼丸は、まるで
腕には仕込み刀、足には毒にも薬にも使える液体を格納し、腰には放射器、鼻には爆薬、とまさに全身凶器です。もちろん目は見えませんが不思議な感覚で察知することができ、読唇術とテレパシーで会話をすることができます。厳しい世風だったこと、身体を取り戻すために妖怪退治をしなければならないことがこれらの理由です。
ただ、こけばしが一番「面白い」と思ったのは、魔神から「取り戻す」とはいえ、生まれてから今までの百鬼丸を構成していた身体の部分が、徐々に代替品から本来のモノに変わっていく点です。ここの描写も凄い。目を取り戻した時には、義眼が
しかし、矛盾が生じていくんですよね。
身体を取り戻すということは、今まで妖怪退治に使っていた武器が徐々に失われていくことにもなるのです。剣の腕前は見事のひと言で、それだけでも十分に強いワケですけれど、それでも対抗手段が減っていくのには変わりありません。ざっくり言ってしまえば、身体を取り戻すたびに弱くなっていくことになるのです。
そして、元々は自分のモノだったとはいえ、徐々にその身体は百鬼丸であった構成要素イコール代替品を失い、本来の姿に置き換えられていくのです。まさにこれって「テセウスの船」と同じ話だなって。
手塚治虫センセの作品は、割と考察していくと想像以上に奥深くって。
そこがいまだに人気を誇り、人を惹きつけてやまない理由のひとつなんでしょうね。
ちなみに。
どろろって、ホントは女の子なんだぜ(ネタバレすな)。
おっと、そろそろお終いの時間ですね。
キリが良いので、次回は別のテーマをご用意します。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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