第四十九回 専門知識がない物語を書きたい時に

 はじめての方はよろしくお願いします。

 お馴染みの方はようこそ懲りずにお越しいただきました、虚仮橋陣屋(こけばしじんや)でございます。



 さて第四十九回ですがー。

 質問があります!



 少し前回のテーマとも関連するのですけれど、もし皆さまが「自分の知識の及ばないもの、今まで経験したことがない事柄をテーマにしたい!」と思った時、どうされていますか?


 あ、もちろん、こけばしは「異世界転生モノ」を書いたりしていますが、これは自ら経験したからこそ書けるものであっ(ドカバキ)――痛ててて……もう、突然殴らないで下さいよ!


 空想世界ならまだしも、割とリアルさを追求した現代ドラマを書こうとした際に、ふと「あー、よく考えたら、こけばし、日本の警察機構についてよく知らないんよね……」となったりしますよね。取材と称して、なにか重罪にはならないけれど、それなりに拘置所に入れられちゃったりするような罪を犯そうと思ったりは……え? ああ、そうですよね、しませんよね。



 今回はそんな「専門知識がない物語を書きたい時に、ユーはどうしてる?」がテーマです。


 では、早速お送りします!




■とかく本格派を目指したいこけばし


 時に作家界隈では、「自分の経験したことじゃないと、説得力のある文章は書けない」などという論議が繰り広げられたりしておるようです。


 おそらくなのですけれど、以前にも第二十二回で書かせていただきました「〇〇警察」からお越しの方々の口から発せられた言葉なのかな、と思ったりします。たしかに、中途半端な考証や用語の引用、空想上の産物としか思えないモノっていうのはあるように思います。うむ。


 でも、そこで「いやあ、実は当方門外漢でございまして……」と言い訳をしたところで、「もっと勉強しろよ、ゴルァ!?」と怒られることでしょう。特にそれが、ちょこっとWikipediaなりなんなりを調べて読みこめば分かることだったりしますと、怒りも倍増です。



 とはいえ。



 じゃあ、この世にある物語のすべてが、誰かの経験の下に書かれているかと言えば、そうじゃない。当たり前ですが、この世のモノカキで「実際に異世界に召喚されて、還ってきた人」がゴロゴロいたとしたら、それこそ大騒ぎです。ま、こけばしは特別なんですけどねー。


 タ――ターイムタイム!

 まずはその手に握る石を置いて、もうちょっと話を聞いて下さい!



■きちんと調べたら書けるのか?


 投石が怖いこけばしさんは、なにかを書こうとする際、そりゃもう肝心なことから余計なことまで、入念かつ執拗に調べて読み込み、少しでも多くの情報を頭にインプットするようにしています。



 でも、それでも現場に実際に立っている人の知識や経験値には遠く及びません。

 当たり前ですよね。



 たとえばー。


 数々の職歴を経てきたこけばしですので、実にどうでもいい「現場の人じゃないと気づけない知識」を持っていたりします。そこからいくつか紹介させていただきましょう。



 映画やドラマでメガネをかけた人物が出てきた時に、レンズ表面に照明が当たる(室内の蛍光灯でも可)ことがありますよね?


 その時、レンズが白く光っている場合は、傷からの保護、クリアさを保つためのコーティングがかかっていないことが分かります(コーティングありの場合、反射光は緑やピンク色などに見えます)。そして、レンズ越しの顔の輪郭に注目すると、視力矯正用の度数が入っている場合には、実際の輪郭より外側(遠視)もしくは内側(近視)にズレて見えるようになるはずなのです。


 つまり、これらふたつの観察から、その人がかけているメガネが、度の入っていない「伊達メガネ」だということが分かるのです。これを「あ、あたし、小さい頃から目が悪くって……」という地味キャラでやられると、途端に萎えてしまったりするのです(なお特殊)。



 また、これはちょっと有名な話かもしれませんけれど、銀行のロビーに入ると、背の高い観葉植物が置いてあったりしますよね。


 実はアレ、厳密に高さが定められており、170センチに剪定されていたりします。なぜかといえば、銀行強盗が入ってきた際の犯人の特徴として比較できるように置いてあるんですね。



 さすがにこんな情報、いくら調べてもカンタンには出てこないでしょう!


 でも、こんなこと、気づいたところで空気の読めない子扱いされるだけですぜ……ううう。



■意外と勘違いされていることって多いッスよ


 あと、これは雑誌編集者時代に怒られたから覚えているのですけれど、我々が良く知っている言葉の中には、正しい文字区切りで使われていないモノが結構あります。



 たとえば「ヘリコプター」。しばしば、「ヘリ」と略されますが、実際には「ヘリコ・プター」。ギリシャ語の「ヘリコ(ヘリック)」→「螺旋」と「プター(プテロン)」→「翼」が由来です。昔の戦争映画などで「ヘリコ」と言うセリフが出てきたりするのは、これなんです。


「区切り位置問題」でさらに例を挙げますと、「三半規管」は「三・半規管」、「抗生物質」は「抗・生物質」だったりします。意外! 地名で間違えやすいのは「ウラジオストク」→「ウラジ・オストク」、「プエルトリコ」→「プエルト・リコ」、「クアラルンプール」→「クアラ・ルンプール」など。これは現地語の由来が分かっていると間違えないんだそうな。師匠が厳しかったんだよぅ!



 また、「ネギトロなのにネギが入っていない」と書いて怒られたこともあったり。それは、アレは元々賄い飯であって、骨や皮に残った身を「ねぎ取って(こそげ取って)」こしらえていたことから名付けられたモノだったからです。これはあるあるな勘違いですねー。



■このへんから有識者が怒り出す


 あと、それこそ多くの人たちが勘違いしているであろうことは、「自首すれば罪が軽くなる」でしょう。


 これってしばしば目に、耳にしますけれど、実際には「警察が犯罪を知る前」で、なおかつ「容疑者が特定されていない場合」に限るのです。しかも、減刑は義務ではありません。重罪が相当だとされればそのまま。そして、示談や和解が成立しても、必ずしも罪が軽減されるワケではありません。あくまで「お気持ち」程度なのです。



 そして、「待てぇい、ルパーン! 逮捕だぁー!」でお馴染みの、ICPO所属の銭形警部。ICPOとは「国際刑事警察機構(インターポール)」の略称ですが、実のところICPO職員に逮捕権限はなかったりします……。


 これ、よく考えたらそうなんですよね。警察組織というのは、典型的な国家権力です。それを他国の人間がふるってしまっては、主権侵害、内政干渉に発展してしまうでしょう。とっつぁんの手錠の意味って。パフォーマンスとしてのモノ?



 また映画あるあるの「銃撃戦で車体を盾にしてやり過ごす」シーンですが、あの効果のほどは相当眉唾モノだったり。だって、9ミリ弾でも四十五口径の弾でも、車のドアを軽く貫通する威力があるのですから。ただし、エンジンブロックは頑丈なので、ハリー・キャラハンご自慢の44マグナムでもブチ抜けないそう。なお、ライフル弾なら車のドア二枚は余裕らしいです。


 そんな強烈な破壊力を生み出す「銃」ですから、か弱い女性キャラが片手撃ちしようものなら、それこそ警察界隈の方が瞬く間に殺到します! ヘタをすれば跳ね上がった銃が額にめり込んで脳挫傷を負ってもおかしくないシロモノですからね。小型化された軽量ライフルに至っては、添えた肩が脱臼することでしょう!


(脚注:鎌池和馬センセの「とある魔術の禁書目録」に登場する御坂妹のトレードマークでもある「対物ライフル」ですが、あのクラスになるとそれなりに本体の重量もあるので、むしろ制御できないレベルではないんだそうな(もちろん反動は物凄いけど)。軽い方がヤバい……)



■あ、あれ……? 今回のテーマって……(恒例)


 とまあ、散々脱線しましたがー。

 こけばし個人の考えとしましては、



「ある一定以上の情報収集と理解は必要だけれど、大事なのは『本当であること』ではなく『本当らしくみせること』である」



 ということだと思っております。はい。



「矛盾してね?」

「ホントのこと書けばホントなの草w」


 うんうん。

 でも、本当にそれって正しいでしょうか?



 いくら正しい知識を身に着けていても(インプット)、本当のように書き表すこと、話し聞かせること(アウトプット)ができなければ、所詮はとってつけた付け焼刃の知識です。


 逆に言えば、多少怪しげな知識しかなくても、さも本当のことのように「アウトプット」できる技量と能力さえあれば、読者への説得力は充分発揮できるように思うのです。



 それはそうですよね。


 そうでなければ、SFもファンタジーも、いえ、フィクションすべてがこの世から無くなっているはずなのですから。




 おっと、そろそろお終いの時間ですね。

 次回は別のテーマにてお会いしましょう。


 どうぞ、よろしくお願いいたします。



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