第四十三回 死亡フラグを立てないで

 はじめての方はよろしくお願いします。

 お馴染みの方はようこそ懲りずにお越しいただきました、虚仮橋陣屋(こけばしじんや)でございます。


 さて第四十三回ですが。


 前回あんなシリアスなこと言っといて、こけばし自身がタイトルを「パクる」とは……。


 いえいえいえ!

 こけばし、打首獄門同好会の大ファンです!(知らない人にとっては実に不穏なバンド名w)


 今回は第三十四回でも書きました「お約束」のひとつ、「死亡フラグ」について、語るだけ語ってみようと思います。おす。


 では、早速お送りします。




■「ここは俺に任せて先に行け……必ず後から行く!」


 誰が名付けたか、その名は「死亡フラグ」。


 そのはじまりはいつからなのかは定かではありませんが、誰もが一度ならず二度三度と耳にしたことのある「俺、この戦争が終わったら、この娘と結婚するんだ……」というセリフは、映画『プラトーン』の劇中のものでして、開始早々にこのセリフを吐いた同期の兵士は、わずか十分後に死亡します。呪いの威力、パないの。


 インターネッツでは二〇〇二年頃からのようで、パソゲー攻略誌などが発端のようですね。今ではすっかり定着しており、特に「異世界モノ」では、その登場回数の枚挙にいとまがございません。



 とはいえ。



 同様に「恋愛フラグ」や「生存フラグ」、「勝ち・負けフラグ」や「再会フラグ」なども数多く見られます。元々これは「フラグ」という言葉そのものが、論理構造を記述するコンピューター・プログラミング上の基礎的な概念「フラグ」に由来するからだったりします。


 アドベンチャーゲームにおいては、登場人物の言動や選択によって、目に見えない「フラグ」が内部的に立つワケで、それを推測するしてストーリーをクリアする解析方法が確立されたことにより、この「フラグ」という言葉が一般化していったワケですね。うん。


 そののち、これはラノベなどの小説にも用いられるようになります。読者は先の展開を予想し、「攻略=先読み」するにあたって、同様に「フラグ」を意識するようになったのです。



■「ちょうどいい。あの洋館で雨宿りさせてもらおうぜ」


 竹井10日センセのラノベ「彼女がフラグを折られたら」というのがありました。


「フラグ」が「立つ」の反対語は、正式には「フラグ」を「降ろす」になります。しかし、「フラグ(フラッグ)=旗」のイメージが強いんでしょう、「フラグを倒す」、「フラグを折る」、「フラグ壊し」などという表現の方がむしろ一般的ですね。


 ではここで、代表的な死亡フラグの例を挙げてみましょうか。



・「こんな殺人鬼と一緒の部屋で過ごすなんてまっぴらだわ! あたしは部屋に帰らせてもらうから!」と、自ら生餌となるミステリーの登場人物(ごく稀に生き残ることも)

・「い、命だけは助けてくれ……! ほ、ほら、金ならいくらでもやるぞ!」と、最後の切り札を早々に切ってしまう間抜けな組織のボス

・「これでも――喰らえっ!! ……やったか!?」と、もうもうたる黒煙の中に迂闊にも足を踏み入れてしまう敵兵士

・「フッ……俺の……負けだ。お前の親友ならこの先にいる。行くがいい。……油断したなぁ!!」と、死んだふりをして卑怯にも背後から飛びかかって来るライバル

・「どこだ……! チェーンガンが待ってるぜ……。!?……なんだ、ネズミか」と、緊張の糸が途切れて、思わず愛くるしい生き物登場に頬を緩める重火器兵



 こいつら、大抵死にます。


 いや、「約束された死亡の剣(フラグ)」、霊装・聖剣「エクスカリバー」くらいの殺傷力です。しかし、これだけ「死亡フラグ」が広まった今だからこそ、それを敢えて裏切るというのもひとつのテクニックでしょう。


 ただし、毎回裏の裏をかくと、第三十四回でも書きました「お約束」に反し続けることにもなりますので、マナー違反的な扱いをされてしまう可能性があります。ご注意を。



■「ああ、これか? なに、ただのかすり傷だ。問題ない」


 この「死亡フラグ」同様、読者に容易に予測がつくものとして、「ストックキャラクター」と「ステレオタイプ」があります。



「ストックキャラクター」とは、特定の文化圏で暮らす人には容易に理解ができる、類型的なキャラクターのことです。


 ここで「落語」を例に言い換えますと、博識で物知りと言えば「ご隠居」、おっちょこちょいでテンパりやすいのが「八つぁん」こと「八五郎」、乱暴者の相棒は「熊さん」こと「熊五郎」、「旦那」といえばお金持ちの商人で、「若旦那」といえば決まって放蕩者ほうとうものの馬鹿息子として描かれます。


 これが歌舞伎や文楽、能になると、もう見た目そのものがキャラクター像を表します。たとえは突飛ですが、ドリフターズのコントもそうですよね。シチュエーションが変わっても、加藤茶はちょっとおっちょこちょいのお調子者。志村けんはそれに輪をかけたお馬鹿さんです。


 ここまでいかなくても、我々モノカキが分かりやすい「ストックキャラクター」としては、老人は必ず語尾に「~じゃ」、「~じゃよ」が付き、中国人なら「~アルよ」と喋り、西洋人は自分のことを「ミー」と呼ぶ、みたいなものです(後宮ファンタジーが台頭してきた今、「~アルよ」って喋るヤツはいないか……漫画『銀魂』の神楽くらいw)。


 事実とはかけ離れているものも多いですけれど、なぜか納得できちゃう、それが「ストックキャラクター」というワケですね。



 一方、「ステレオタイプ」というのはどういうものでしょうか。


 こちらに関しては、広く世界に浸透している先入観、思い込み、偏見や差別などから類型化された概念になります。


 これだけだと難しいので例を挙げますと、



・男性は、マッチョで女性より性欲が強く、マルチタスクの仕事が苦手

・女性は、運転が下手で地図が読めず、方向音痴


・日本人は、メガネをかけた出っ歯で、カメラを首からいつも下げている。もしくはちょんまげに刀を下げた空手のブラックベルト(黒帯)持ち。年中お辞儀をしている

・ドイツ人は、勤勉で合理的だが融通が利かず、ビールを呑んでじゃがいもばかり食べている

・イタリア人は、女にだらしがなく時間にルーズで、パスタとピザばかり食べている



 このようなものです。


 ただ、なんとなく予想がつくかもしれませんけれど、割とネガティブで、相手を揶揄やゆするためのマイナスイメージが強いものです。場合によっては酷い偏見とも捉えられがちで、差別にも繋がる危険性が高いので十分注意が必要です。


(脚注:「立体的な」を意味する英語の「ステレオ」ではないことに注意。こちらはフランス語の「Stéréotype」を英語読みしたもので意味はまったく異なります。印刷術のステロ版(鉛版)が語源となる社会学用語で、日本語で示すなら「判で押したように」、「紋切型の」がほぼ同様の用語となります)



■「迎えのヘリコプターが来たぞ! ようやくこれで……帰れるんだな」


 という感じでまとめですがー。


 今回綴ってまいりました「死亡フラグ」、そして「ストックキャラクター」と「ステレオタイプ」は、使いどころさえ間違えなければ、端的にその後の展開や、キャラクター像をイメージさせることができますので、比較的便利な文章テクニックです。


 ただし、「ステレオタイプ」に関しては、差別的側面が強い言葉であることを忘れずにお使いになるといいでしょう。時代・歴史小説ではきっと重宝することと思います。




 おっと、そろそろお終いの時間ですね。

 次回は別のテーマにてお会いしましょう。


 どうぞ、よろしくお願いいたします。



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