第三十四回 テンプレと、使い古しとお約束

 はじめての方はよろしくお願いします。

 お馴染みの方はようこそ懲りずにお越しいただきました、虚仮橋陣屋(こけばしじんや)でございます。


 さて第三十四回ですが、前回のテーマ、前々回のテーマと重めでしたので、比較的軽めの笑えるものにしたい(願望)。でもですね? 他人を笑わせるってムツカシーんですよねー。


 では、早速お送りしまーす!




■プロレスと水戸黄門が好き


 さて、意味不明な見出しからですがー。


 皆さまは、「テンプレ」と「使い古し」、そして「お約束」ときいた時に、それぞれに対してどのような印象を抱くでしょうか?



 はじめに「テンプレ」、正確に記すと「テンプレート」ですが、これは元来、ビジネスシーンなどで用いられる「定型書式」、「ひな型」の意味として広く一般に認知されたのがはじまりです(注:もちろん、英語圏の方はもっと古くから、別の語句としても使っていましたが)。


 ただ、こと「創作界隈」だけに限って言いますと、この「テンプレ」という語句には、比較的よろしくない意味が含まれていると思います。ですよね?



 次に、よりよろしくない意味合いの言葉として「使い古し」があります(もっと適切な語句があるような気もするこけばしであった……)。


 言い方を変えれば「ワンパターン」。「馬鹿の一つ覚え」だったり「陳腐」だったり「手垢まみれ」だったりと、もう散々なイメージです。



 そして最後に「お約束」。


 これは一転して期待どおりの結果であることを指す言葉でもあり、よりポジティブな言い回しにすると「様式美」なんて言ったりもしますよね。



 では、この「創作界隈」において、それぞれはどのような場面で用いられる言葉なのでしょうか?



■「テンプレ」とはなんぞや


 正直、この「テンプレ」という表現で作品を評された時に、大多数の方はやるせない怒りを覚え、発言者に対して哀悼の意を表し、全力で殲滅しようとするのではないでしょうか(大袈裟)。


 ですが、元来の意味に立ち返って言うならば、これは「王道」という意味でもあり、正しい手順と段階で事を進めようとする限り、避けては通れない「正道」だとも言えます。


 ただし、「空想力」、「妄想力」を求められる創作界隈においては、大枠では「テンプレ」というカタチを取りながらも、その中に個性、独自性、オリジナリティがなければ、単なる定型文以上の価値を持たないとみなされます。これが悪い意味で用いられる「テンプレ」です。



 では、良い意味での「テンプレ」とはなんでしょう?


 これはもうすでに述べたとおりですね。本来の意味での「テンプレート」を踏襲しつつ、そこに作者様の個性、独自性、オリジナリティが含まれているものです。つまり、「テンプレ」と評されること自体に問題はないのです。「テンプレ」が生まれる土壌とは、それを求める読者が多い環境、ということの裏返しなのですから。



■「使い古し」とはなんぞや


 この「使い古し」という表現で作品を評された場合は要注意です。


 より直接的な表現が「ワンパターン」、「陳腐」という語句であることを考えると、あなたの作品には、読者にとってあまり興味を感じられない時代錯誤(アナログ)な展開や表現が含まれている、もしくは、読者層、特に世代や流行にミスマッチな内容が含まれている、ということだと推測されるからです。


 単に、毎作品同じような展開であることを指した表現であることもありますが、これも決して良い評価とは言えません。読者が求めるもの、その要求内容は、作品を重ねるごとに高まっていきます。読者の目線に立つと、もっと良いもの、もっと面白いもの、もっと心を揺さぶられるものと、既存作品を超える展開、内容であることを期待されているからです。



 この場合には、作品のどこに問題点があるのかを分析する必要があります。


「どこかで見たような展開」というニュアンスであれば、シノプシスそのものを見直したり、個性や独自性、オリジナリティを強化したりする必要があるでしょうし、「文章全体が古臭い」というニュアンスであれば、文体を見直したり、読者の世代、年齢層、流行にマッチした表現、言葉遣いに合わせたりする必要があるでしょう。また、「毎度お馴染み」というニュアンスであれば、読者の期待していた要求レベルに達していない、という可能性が考えられます。


 いずれにせよ、このケースではなんらかの対策を講じないと事態は改善しません。



■「お約束」とはなんぞや


 この「お約束」という表現で作品を評された場合は、前述のふたつとはかなり違った反応であるとこけばしは思います。むしろ、読者の反応としては期待どおりの高さであって、物語に没入してくれた結果である、と前向きに捉えることができるでしょう。


「様式美」という語句を例に挙げましたが、「この場面ではこうあるべき」という読者の理想とする展開があった時に、それを若干上回るストーリーと表現が正しく提示できたからこそ、そこに「様式」が生まれ、その中に読者は「美」を見出したのです。


 ここでようやく謎の(?)見出し「プロレスと水戸黄門」の回収になるワケですがー。


「プロレス」を例に挙げると、



・A・B両者手を突き出し、組み合って、チカラ比べをする

   ↓

・クラッチ(手や足を強固に捕獲した状態)を切って、AがBをロープに振る

   ↓

・リバウンドの勢いを生かして、返ってきたBがAをショルダータックルで倒す

   ↓

・倒れたAを確認しつつ、Bは自ら再度ロープへ向かって走る

   ↓

・リバウンドを利用して返ってきたBの身体の下に潜り込み、Aがショルダースルーで投げる

   ↓

・Bは受け身をとって素早く起き上がり、Aと対峙、ゴング直後と同じ距離感で睨み合う



 この一連の流れるようなやりとりを終え、リング上でしばし油断なく睨み合う両選手を目にした観客たちは、パチパチパチー! と興奮気味に拍手をします。


 きっと、まったくプロレスに興味のない方にとっては「どうしてここで拍手する必要があるの?」と素朴な疑問が浮かぶことでしょう。特に目新しい技が飛び出したワケでもないようですし、今のところ勝負はまったくの互角に見えます。



 実は、この試合開始のゴング直後の「一連のやりとり」は、プロレスファンであれば、もう何十回、何百回と目にした「お馴染みの」やりとりなのです。


 互いの出方と調子の具合を直接肌で感じ取るための「儀式」と言いますか、「挨拶代わり」と言い換えてもいいかもしれません。まさにこれが「お約束」であり、プロレスにおける「様式美」なのですね。


(脚注:このような「儀式」のようなものや「お約束」のようなものが存在するために、しばしば「プロレスとは、八百長である」と表現される方もいらっしゃいますけれど、それは誤解です。彼らは「プロ」であり、「プロ」である限り、「魅せる」技術も必要なのですから!)


 では「水戸黄門」であればどうなるでしょうか?



・御老公一行がとある宿場町に辿り着く

   ↓

・お銀による入浴シーン(ファンサ)

   ↓

・偶然、宿の女将から乱暴者の一団の素行に町の者たちが困り果てていることを耳にする

   ↓

・助・格を引き連れた御老公は「越後のちりめん問屋のご隠居」を名乗り聞き込みをする

   ↓

・乱暴者の一団とエンカウント。救出した町娘から彼らのバックに黒幕がいることを聞く

   ↓

・弥七・お銀による密偵。黒幕はこの町を治める代官であると突き止める

   ↓

・御老公一行、代官の屋敷へ乗り込む。代官、乱暴者の一団に御老公一行の撃退を命じる

   ↓

・助、格、弥七、お銀による大立ち回り。終盤に格さんが印籠を出して御老公の正体を明かす

   ↓

・代官にお灸を据え、乱暴者の一団と共に猛省、一件落着。八兵衛がうっかりしつつ再び旅へ



 多少のストーリーのバリエーションは存在するものの、大まかにはこんな感じですよね。まさに典型的な勧善懲悪モノ。お年寄りに大人気の、不滅の王道時代劇だと言えるでしょう。



 ただ、ちょっと待って下さい!


 この構造、いわゆる「テンプレ」と呼ばれる異世界転生・転移モノのファンタジー作品と類似している箇所がないでしょうか。身分を隠し、偽りの仮の姿で旅する主人公、そして手練れの配下に加え、賑やかしキャラとお色気担当もいます。それに、諜報活動の専門要員まで!


 ここぞ! という終盤で出てくる「印籠」は、そう、まさしく「チートアイテム」です。


 つまり、『水戸黄門』は、「主人公最強」、「チート」、「勧善懲悪」、「お色気」のすべてが揃った、日本人に愛される要素を持つ、優れた「テンプレ」であると言えるのです。


 そりゃ、異世界モノが流行るワケだなーと感心するこけばしなのでした。まる。




 おっと、そろそろお終いの時間ですね。

 次回は別のテーマにてお会いしましょう。


 どうぞ、よろしくお願いいたします。



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