第二十一回 ビジュアル先行型と超絶美麗文章型と音読リズム重視型と

 はじめての方はよろしくお願いします。

 お馴染みの方はようこそ懲りずにお越しいただきました、虚仮橋陣屋(こけばしじんや)でございます。


 さて第二十一回ですが、タイトルに書きましたとおり、脳内に浮かんだイメージが先行して物語を作り上げていく方と、読むだけで心が浄化されるような素晴らしい情景描写を書くことを信条とされている方、そしてこけばしのように、音読した時に『舌触りの良い』リズム・音感を重視している方に分かれるのかな? とこけばしは思います。


 なので、今回はそれについて。

 では、張り切ってお送りします!




■物語のワンシーンを脳内再生できるイメージ先行型


 この作者は存在します!(定期)


 前回の「キャラクターが勝手に動き出す派」にも通ずるものがありますけれど、次に書こうとするシーン・光景を、脳内で疑似映像化してから、それを文章におこす、という作者さんは確かにいらっしゃいます。


 が、それとはまた少し違い、文章表現が「視覚的」に寄っている作者さんもいらっしゃると思うのです。今回はこちらの方についてのお話。


 このタイプの作者様の傾向としましては、文章で事細かに状況を説明するよりも、イキオイを重視して、ドカーン! バキーン! と思うがままに疾走感溢れる文章を書かれる方です。ある意味、その文章は映画的であり、また散文的なところがありますよね。読んでいる側も、その波やパワーに上手く乗れれば、読後感は爽快。こまけぇことはいいんだよぉ! と言わんばかりのパッションに身を任せることで、圧倒的な満足感を得ることができます。


 ただ、その反面、登場人物たちの立ち位置(物理的な、です)や、その舞台となる場の状況などは二の次になってしまう傾向があるように思います。文章表現・修飾についても、そこまで難しい表現は使いません。あくまで口語的に分かりやすく、理解しやすいものが多く用いられます。コムツカシー(失礼)情景描写が好きな方には、稚拙ちせつな文章ととらえられてしまうこともあるかもしれませんけれど、こけばしはこれはこれでアリ! だと思っています。


「曇天から一本の光注が地表へと伸び」だの「青嵐の中、颯爽と彼女が現われた」だのと言った表現も、もちろん作品にマッチしていればオシャレですし、まさにみやび、「雅語」と呼ぶにふさわしい雰囲気を与えてくれるでしょう。しかし、視覚的に書くタイプの方には無用です。「鈍色の空から一筋のレーザー光のように大地に光が突き刺さり」でも良いワケですし、「どっ、と新緑を揺さぶる風の中から彼女はやってきた」でも良いワケです。この方が「視覚的」な感じがしますよね。


 読んでいて、とても楽しいタイプの物語です!



■美しく正しい日本語で心洗われる気持ちになる超絶美麗文章型


 この作者は存在します!(定期)


 もうね、このパターンの物語は、冒頭の一文ですらうっとりしてしまいます。



『濃藍の天から音もなく雪の舞う師走の夜。』

               【花宵道中/宮木 あや子】


『夜の海。静寂の時。』

               【十角館の殺人/綾辻行人】


『徒刑囚の服は薔薇色と白の縞になっている。』

               【泥棒日記/ジャン・ジュネ】



 こけばしの勝手なイメージとしては、ラノベというものはセリフ行からはじまるもの、となっていますけれど、こんな文章からはじまると、意味もなくなんだかどきどきしてしまいます。もちろんいいんです、『十八歳で夏でバカだった。』からはじまっても(【ロッキン・ホース・バレリーナ/大槻ケンヂ】より)。でも、なんとなく崇高さが足りない。あ、もちろんそれは、この「超絶美麗文章型作者の文章としては」ってことですので誤解なきよう。


 夜を照らす「月」ひとつとってもさまざまな表現がありますよね。「上弦・下弦の月」なんていうのは某柱マンガ(注:茶柱ではありません)でもお馴染みですが、「さく」(新月のこと)や「居待月いまちつき」(説明困難なため割愛)、「しも弓張ゆみはり」(下弦の月のこと)、しまいには「玉輪ぎょくりん」「玄兎げんと」「水鏡みずかがみ」なんてのもあって、これ、全部月の異名だったりします。昔の人って洒落ててオシャレ(二重表現)ですよね!


 ただ……なんだかワクワクするのですけれど。


 このタイプの物語、難点があるとすると、知らない単語や表現が出てきてしまうと、こけばしの場合、なんとなくーで通り過ぎられない性格なので、すぐにも辞書をペラペラめくらなければならなくなります(注:実際にはネットで検索します)。あ、なーほーねー。そういう意味なのねー、ステキ! となってじき復帰はできますけれども、どうしてもワンクッション必要になってしまうのがちょっと困る……。


 むむー。華麗に読みこなせるようになりたいなぁ。

 そのためには、語彙(ボキャブラリー)を増やしなさい、ってことで反省。



■音読した時の『舌触りの良い』リズム・音感重視型


 この作者は存在します! オレだよ俺!


 こけばしの場合、書く時、また推敲する時に、必ずと言っていいほど「音読した時のリズムがキレイかどうか」を重視しがちです。え? みんなやらないですか? 嘘……。


 五・七・五だとか都々逸どどいつだとか、ライムやフロウ、そんな大層なことを言うつもりはないのですけれど、やっぱり自分で声に出して「読んでみて」気持ちの悪い文章は、読者の方にとっても気持ちが悪いと思うんですよね。朗読の題材になるような素晴らしい文章なんて、とてもじゃないけれど書けませんが、誰しも読書する時は無意識に「音読」すると思うのです。



『すれ違った一瞬、あの人の溜息が聴こえた――。


 少女が死にたいと思う理由なんて、たったそれだけで十分だったのです。』



 これは、拙作『世界を動かすものは、ほかならぬ百合である。』の冒頭の一文になります(ここ、宣伝です)。



 ■世界を動かすものは、ほかならぬ百合である。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054890953337



 こけばし的には、とてもお気に入りの導入だったりします。本作はこけばし初挑戦のミステリー作品なのですけれど、この後に続く「謎」を端的に、かつリズミカルに表現できたのではないかしら、と思っています(ここは違っていても「そうですね!」というところです)。


 個人的にこの書き方がすっかり板についてきたのですけれど、難点としては、同音異義語の逆、いわば「異音同義語」をどれだけ知っているかによって、文章の完成度が変わるということがげられます。リズム的には四文字が来る方がいい、でも即座に思いつくのは三文字しかない、という時に困ってしまうのですね。


さらう」を四文字にするなら「拉致する」「連れ去る」、五文字だったら「っ攫う」「っ攫う」「勾引かどわかす」、六文字なら「誘拐する」といった具合に、ある程度のバリエーションを知っておかないといけません。まあ、知らなくても今は便利なもので「weblio類語辞典」なんかで調べたら、ぽんぽこ出てくるんですけども。でも、なんか悔しいじゃんか。


 もし、同じ派閥(?)の方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひお友だちになって下さいね!



 てなわけで。

 文章の組み立て方、その動機って人それぞれよね、って話でした。




 おっと、そろそろお終いの時間ですね。


 次回のテーマは何にしようかな……と、ぼんやり考え中です。大体決まってるんですけど。

 お楽しみに!



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