第十九回 君は今、何を思う その3

 はじめての方はよろしくお願いします。

 お馴染みの方はようこそ懲りずにお越しいただきました、虚仮橋陣屋(こけばしじんや)でございます。


 さて第十九回ですが。

 さすがに同じネタで三回も引っ張るとは思ってなかったですよね?(白目)。


 なので、今回も懲りずに「こけばしは書く時に何を考えているか」について綴っていきますから! 異論、反論は認めない。けど、批判はやめて……。


 こ、こほん!

 で、では、張り切ってお送りしましょー!




なんじ、世界観や設定を延々と語ることなかれ


「うはっwww 俺、天才じゃねwww」


 壮大なる世界観と緻密に計算されつくした設定。それを構築したあなたはきっと、自分の才能に恐怖し、ひとり密かに震えていることでしょう。うんうん。分かりますよー。


 で・す・が。

 それを物語の、それも序盤から、延々と枚数を重ね綴りはじめることだけは避けて下さい。


 たとえば、です。



『ここは、幻想世界最大の大陸、ユーロレイシア。そのほぼ中央に位置し、大陸全土を掌握する大国こそが、かの「聡明なる賢王・ダロニス一世」が建国したグリッフェン皇国であった。

 グリッフェンは、他国より先んじて魔術と科学の融合、つまり今の世には欠くことのできない世紀の発明とされる「魔道機関」の大量生産及び小型化に成功。広く市民の生活へと普及させ、やがて軍事兵器へとそれを導入した。これにより強大な力を得たグリッフェンは――』



 いきなりこの調子で物語がはじまったかと思えば、このペースのまま、延々と一話五〇〇〇文字あまりを埋め尽くしてしまったではありませんか。これには読者も度肝を抜かれます。



 あまりの凄さに?

 いえいえ、もうすっかりあきれてしまって、です。



 読者置いてけぼりの、自分語りの展開についていけないのです。たとえ、このはじめの一話をなんとか読破した読み手さんがいたとしても、二話目を読む頃にはその大半が頭から抜け落ちています。作者もすっかり満足して、二話目以降はまったく触れなくなってしまいました。


 結果として、その世界観と設定は、あまり物語の世界を広げることなく消えていったのです。



 これですね、最初のうちはどうしてもやっちゃいがちなことなのです。完全オリジナルの、転生も転移も召喚もしない純粋なハイ・ファンタジーならなおのこと。その気持ちはもちろん分かるんですよ? 「誰もあたし(俺)の妄想世界を知らないから……」、「頑張って伝えないと……」、そう思ってしまう。文字書きのできることは、当然「書くこと」だけ。


 だから、そのまま、思いのたけをありったけ書いてしまう。

 でも、これ、ホントダメなパターンです。


 状況の説明、背景の解説が悪い、というつもりはないのですけれど、同じやるのでも、他に方法ならいくらでもあるのです。だから、地の文として、延々解説するのはどーかなー? ってことを言いたいんですね。


 と同時に、「構築した世界観と設定はすべて読み手にも共有しなきゃいけない」という意気込みはぜひ押し入れの隅にでもしまっておきましょう、ということをお伝えしたかったのです。



■世界観や設定は、なるべく最小限のものを、キャラクターに語らせるべし


「せっかくあたい(俺っち)が考えに考え抜いたものをしまっとけ、だと!?」


 うんうん。

 分かりますよー、その気持ち。



 でもですよ?


 読み手が本当に知りたいのは、「壮大な世界観」でも「緻密な設定」でもなくって、物語がその「箱庭」と「ルール」の中でどう進んで行くのかということ、その一点だけなのです。


 たとえば。


 その、人々の生活を一変させた「魔道機関」は、市民レベルでどのように日常に溶け込んで使用されているのか、とか。賢さで名をせた王様が建国した国が、強大なチカラを得たことでどのように変化し、他の隣国を支配下に収めていくことになったのか、とか。


 近隣諸国との関係は友好的なのかとか、人々の暮らしは豊かなのかとか、徴兵制度はあるのかとか、「魔道機関」を動かすためのエネルギー源は何なのかとか、そういう部分を知りたいはずなのです。一市民が主人公にせよ、王族がメインにせよ、その人や、その周りの人の目線で心情で、どのように感じ、どのような課題と悩みを抱えているのか、それを知りたいのです。


 でなければ、先の述べたとおり「ただ語っただけ」で終わり、まるで意味を成しません。



 軍備強化のため重税を課せられた結果、物価が高く、人々の暮らしが貧しいのであれば、



「そのリンゴ、貰うぜ。銅貨一〇枚、だったよな?」

「それじゃ足りないね! このところ、不作続きで値上がったのさ。一五枚だ」

「ちっ――この調子じゃリンゴどころか飢えて死んじまう! 戦ばかりで土地も荒れ放題だ」



 というセリフのやりとりで、その一面を垣間見せることができるかと思います。また、「魔道機関」の動力源は極秘とされていて、反対派も少なくないのであれば、



「おい! まさか、今俺が喰ってる料理も、そいつで作ったのか!?」

「そ、そりゃあそうでしょう、お客様。今や『魔道機関』無しではお茶一杯れられませんよ」

「くそっ! こんなモン喰えるか! お前、知ってるのか? そいつが何で動いているのか!」

「ははは。それは知らなくても使えますから。……ぐっ!? く、くるし――!」

「こいつは、戦場で死んだ兵士たちの魂を喰って動いてるんだ! 何も――何も知らないで!」



 といったやりとりではいかがでしょうか。ただの思いつきの文章でしたが、どうして皇国が軍事強化に国策を急転換し、終わらない戦争を続けているのかのヒントが生まれましたね。



■じゃあこけばしは、どこまで毎回決めて、どこまで書いてるの?


 こけばしの場合、一作品のために一〇〇の「世界観」と「設定」を構築し、定めたとしても、実際に作中で語っている分量は、その中の二〇~三〇程度だと思います。


 実際、キャラクター設定においては、各登場人物の身長・体重はもちろんのこと、おにゃのこであればスリーサイズ及びカップ数を、生年月日はまず間違いなく決めますし(ですよね? ね?)、好きなもの、嫌いなもの、親兄弟姉妹の数とそのそれぞれとの関係性、髪と瞳の色、簡単な性格診断的な一文くらいまでは最低限、毎回、毎作品決めるようにしています。


 世界観や設定に至っては、どんなものでも必要となってくる単位の設定(長さ、重さ、貨幣価値)、舞台となるロケーションの概略図(ホントに簡略化したもの。どこに山があって川があって海があって……みたいな)、暦の概念(十二月で一年とし、月ごとの名前と曜日の概念)、一般的な市民生活モデル(何を主食として何をおかずに、とか、何時起きで何時に寝るか、とか、娯楽、嗜好品などの含めたタイムスケジュール)、種族および階級のピラミッド(人間以外の種族はいるのかを含めたカースト、職業または身分による上下関係)とか。


(脚注:異世界なら、「一年十二月」、「一週七日」の概念すら生まれない可能性あるだろ、というご意見あるかもですけれど、そこまで考えたい方はどうぞどうぞって感じです。結論として、そのご意見はごもっともなのですけれど、こけばしはキラではないので「新世界の神になる」つもりはありません。読者にとって受け入れやすく、作者にとっても設定しやすいものを選択した結果とお考え下さい。「天空にふたつの月が浮かぶ」派の方はご愁傷様です……)


 そのあたりは割と習慣的に決めるようにしています。

 ほとんど作中で使わないんですけどね……。




 おっと、そろそろお終いの時間です。


 次回は、どうしんしょう……。結局のところ、なんだかんだ言っても、このへんの話題がいくらでも湧いてくることに気づいたこけばし。時すでに遅し。おすし。


 せめて次回は、タイトルを変更してお伝えします!



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